2023年5月15日(2037号) ピックアップニュース
燭心
現代を代表する音楽家、坂本龍一氏が亡くなった。訃報に驚くとともに、ひと月を経過した今でも、喪失感と悲しみは増すばかりである▼故事に大器晩成という言葉がある。一説によると、大器(天才)は早熟であるばかりか、大成しても成長を続け晩年に至りさらなる飛躍を遂げるので、その能力は常人の計り知れないものだ、という意味も込められているという。坂本氏は惜しくも逝去した大器晩成型の音楽界の巨人であったといえる▼氏は極めて優れた聴き手でもあった。あらゆるジャンルの音楽を聴きこなすばかりか、自然界の環境音にも耳を研ぎ澄ませ、創作に新たな発見や進化を織り込み続けていた。自分にとって聴くことのすべてが、音楽の創作につながっているとも語っている▼坂本氏は「音楽の力」という言葉に、かねてから「嫌悪感」を抱いていた。音楽は時に聴衆に高揚感を抱かせる作用がある。その状態で特定のメッセージを刷り込むと、ときに個人の主体的な思考を奪い、全体主義への同調を強いるリスクがあると。音楽家としてそのような権力には決して与すべきではない、音楽がもつ潜在的な影響力について敏感であるべきだと一貫して主張してきた▼一方、病で亡くなる直前まで、反原発、地球環境の保全、平和憲法堅持の立場から、多くのメッセージを残している▼世界中の民衆の声、さらには自然界の発する音にも耳を傾け続けた音楽家の金言として、その偉大な作品とともに、氏のメッセージも後世に伝えたい(眞)