兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年5月25日(2038号) ピックアップニュース

主張 オンライン資格確認義務化・保険証廃止
国民皆保険の基盤を壊す撤回するべきだ

 4月より、医療機関における「オンライン資格確認導入」が原則義務化された。従わない場合は、療養担当規則違反で保険医療機関の取り消しも視野に入れられており、医療現場に混乱と不安をもたらしている。
 医療機関にとっては、導入の必要性やメリットが少ないだけでなく、費用負担やシステムエラーによる患者とのトラブルなどデメリットが多い。
 政府は健康保険証を廃止する法案を成立させようとしているが、患者にとって利便性は少なく、紛失や医療情報の漏洩などの危険性の方が高い。
 本来、マイナンバーカードの取得は「任意」であり、健康保険証代わりとして事実上取得を強制されるのは利用が困難な患者・高齢者・家族にとって「いい迷惑」である。介護施設での取り扱いにも混乱をきたしている。
 世論の反発により、介護が必要な高齢者や子どもなどマイナンバーカードが取得困難な人には、新たに「資格確認書」を発行するとしている。その記載内容は健康保険証と同様の情報だけであるにもかかわらず、有効期間は1年に限られ、本人の申請が必要である。そのため「申請漏れ」でマイナンバーカードも資格確認書もなければ、窓口では「資格喪失」や「無保険」扱いとなり、医療費を全額負担するのが原則となる。
 現行の健康保険証と代わり映えのしないシステムをわざわざ導入するのは、自治体や保険者に新たな負担とコストを課するだけだ。
 そもそも、健康保険法では、保険料を支払っている被保険者に健康保険証を発行することは保険者の義務であり、保険証1枚でいつでもどこでもだれでも受診できることは国民皆保険制度の基盤である。
 オンライン資格確認義務化や保険証の原則廃止は、2兆円もの国費を投じて「マイナポイント」をバラまいても普及しないマイナンバーカードの取得を国民に無理強いするものである。
 この背景には、IT・デジタル産業への利益供与とともに、幅広い個人情報の民間利用を進めて、新たなビジネスチャンスを作り出す狙いがある。医療機関や患者にコストを負担させ、病歴などの極めてセンシティブな情報を民間企業の儲けのために提供するというものだ。厳しい守秘義務を課されている医師・歯科医師は一層この医療情報の取り扱いに慎重であるべきである。
 セキュリティも問題で、大規模な通信・システム障害、セキュリティ漏洩事件に加え、最近では7300件以上の誤入力、他人の証明書交付が14件あった。
 協会は医療DXそのものに反対するものではないし、会員個々人の選択を尊重し会員のシステム導入等にあたっては全力で支援するのは言うまでもない。ただ大原則は、国民・医療機関の選択できる自由を守り、とりわけ高齢者や障害者等の立場に立ちたい。
 マイナンバーカードの保険証利用を是としない人には、理由を問わずこれまで同様に健康保険証による受診を認め、健康保険証の廃止は撤回するのが当然である。
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