兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年8月25日(2046号) ピックアップニュース

主張 いま、平和を考える
軍事に頼る戦争抑止論は破綻

 ヒロシマ、ナガサキ、終戦(敗戦)の日を持つ8月は、平和学習月間として私たちが戦争について考える機会を提供してくれる。
 ところが、今年はロシア・ウクライナ戦争の長期化を背景にメディアの取り上げ方が変化している。
 8月15日のNHKスペシャルでは、Z世代の若者による討論の模様が放送されたが、最初の質問は「あなたがもし戦争の当事者になったら?」であった。
 当然、武器をもって戦う派と戦わずに逃げる派に分かれたが、この命題からスタートすると戦争は不可避なものとして刷り込まれてしまい、その後の議論が陳腐なものになってしまう。
 琉球新報の全国世論調査によると、今後日本が戦争をする可能性があると考える人は約50%、年々増加傾向にあるという。国民に定着したはずの過去の教訓や不戦を誓う憲法の精神がいま、揺らいでいるようにみえる。
 ロシア、北朝鮮、中国の振る舞いだけでなく、これを利用した日米政府のプロパガンダによるところも大きいだろう。
 岸田政権は軍拡に対して前のめりの姿勢が目立つ。5月のG7サミットで採択された広島ビジョンは核抑止の必要性に言及し、首相はその成果を強調した。核兵器肯定を表明する会場にあえてヒロシマを選ぶのは被爆者への冒涜だ。
 従来は違憲とされてきた敵基地攻撃能力の保有を明記した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書改訂や軍事予算倍増など安保政策の大転換は、国民的な議論を経ないまま決定された。
 令和5年版防衛白書ではこれらの大転換に至る背景について大げさな表現を用いて解説しているが、敵基地を正確に探知し相手が攻撃に着手したことを見極める手立てや判断基準など、先制攻撃にならないための実際の措置についての記載はない。「個別具体的な状況に照らして判断」するなどとあいまいな表現にとどめている。
 岸田首相は、外交による安全保障には軍事力による圧は不可欠との持論を持つ。安全性を高めるための軍備増強は、相手国のさらなる軍事力強化を生み結果的に自国の安全を脅かすというジレンマに陥る。
 核兵器と同様に軍事に頼る戦争抑止論も破綻しているのだ。
 国家間の外交には粘り強い対話による信頼を醸成するという努力が不可欠であることを改めて確認し、国民による政治監視の圧を強化していく必要がある。
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