2023年10月25日(2052号) ピックアップニュース
燭心
歯科医師にとって抜歯を選択するときはいつも大きな決断を伴う。動物にとって歯を失うことは死を意味する。人間においても咀嚼は記憶や運動機能の維持に影響を与えるからである▼しかし、重度の歯周病に罹患した歯を多く持つ高齢者ほど海馬の萎縮率が大きいという研究成果が東北大学から報告された。55歳以上の住民の歯数と海馬の体積を4年間追跡したところ、歯周病の歯の本数が多いほど、また歯周病が重度であるほど海馬の萎縮速度が速かったという。一方で、健全な歯においては多く残っている人ほど海馬の萎縮は小さく、少なくなるほど萎縮が大きいという従来の報告と同様の結果であった。重度の歯周病に罹患した歯は無理に残さず早期に抜歯したほうが良いということだ▼確かに歯周病菌は、誤嚥性肺炎のみならず糖尿病や心・脳血管疾患、低体重児出産、認知症などに悪影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、このような結果を知っても、抜歯の際にはやはり躊躇する自分がいる。ここまで進展した歯周病を予防することができなかったのはなぜかという無力感である▼歯周病予防にかける歯科受診回数をみると、欧米と比較して日本人は圧倒的に少ない。また、抜けた歯を補う義歯やブリッジなどの補綴治療は低い点数設定にもかかわらず、窓口負担割合が高いために拒否する患者もいる。ここは「保険でより良い歯科医療を」連絡会の理念である、適正な診療報酬の確保と窓口負担の軽減を実現することが重要だ。(九)