兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2023年10月25日(2052号) ピックアップニュース

主張 今の「医師の働き方改革」は医療費抑制政策
医師数増と診療報酬増が必要

 昨年5月、神戸市の中核病院で専攻医が、18年には伊丹の市民病院で研修医が自死した。これ以上不幸な勤務医を出してはならない。
 多くの要因が複雑に絡み合って最悪の結果を生んだのだが、根本は医師の長時間労働である。
 過労死ラインを超えて働く病院勤務医はおよそ2割とされる。22年度の日医の調査報告によると、臨床研修医の5.1%が「自殺や死について、1週間に数回、数分間にわたって考えることがある」と回答している。異常な集団である。
 いつでもどこでもだれでも、安全・安心で、質の高い必要な医療が受けられる社会は、医師の長時間労働によって支えられている。「地域医療」と「勤務医の健康」の両者を守るのは難題であり、医師の使命感や倫理観だけでは、限界がある。
 2000年頃には医師の労働条件が悪化し、3K、5Kの診療科や病院からの「逃散」や救急搬送の「たらい回し」が話題となった。いずれも個別の善悪というより、医療政策・医療行政上の問題であり、 再発防止には、個々の責任追及や排除ではなく、システムの改善が正攻法である。
 来年4月から「医師の働き方改革」が実施され、過労死ラインの2倍の年間1860時間の時間外労働が「やむを得ず」合法化される。
 本来の医師の働き方改革は、長時間労働の是正であり、その答えは医師(分母)を増やすか、労働時間(分子)を減らすかのどちらかだ。もちろん勤務医の給与を補償するために診療報酬の引き上げは必須である。
 ただ政府内や各審議会では、以前より協会が主張する「医師数増」と「診療報酬増」の二つは禁句扱いである。この二つを実行せずに医師の労働時間を減らせば、地域医療提供体制は縮小し、病院収入は減り存続の危機ともなる。
 やむなく、病院側は労働時間を減らすために「自己研鑽の拡大」「宿日直許可(いわゆる寝当直)の取得」「オンコール体制」など、いずれも労働時間にカウントされない対策拡大に傾かざるを得ない。
 大学病院は、派遣先の労働時間が合算され労働時間が増えると、民間病院から医師を引き上げざるを得ない。地域医療崩壊を防ぐために厚労省は「宿日直許可」を広げたい。経営者側としては、働き方改革に真摯に取り組むと赤字転落もありうる構造である。
 各ステークホルダーの無言の圧力は、現場の医師、特に若年者や弱者に過度の負担をかける。
 厚労省は1983年からいわゆる「医療費亡国論」を推し進めた。その後、悪しき財政再建至上主義に引きずられた「医療費抑制」と、その一環として「供給が需要を生む」との論から「医師数抑制」が国策となった。
 日本の医師数はOECDに比べて平均以下であり、診療報酬も十分とは言い難い。
 厚労省の医師需給グラフを見ると、2033年頃に均衡する。つまり今の医師不足を認め、24年から働き方改革を実施し、偏在解消や機能分化、効率化、集約化を行うので、各病院は2033年まで何とか現場でやりくりしろとも読める。
 現在の「医師の働き方改革」は、単なる医師の労働時間短縮ではない。医療提供体制の縮小を通した医療費抑制策のひとつなのである。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方