2024年1月25日(2059号) ピックアップニュース
診療報酬改定率 ネットでマイナス
医療の質の維持・向上に背を向けるな
厚生労働省は昨年12月20日、2024年度の診療報酬改定率を発表した。本体を+0.88%とし、薬価▲0.97%、材料価格▲0.02%を合わせネットでの改定率は▲0.12%とした。使途が決まっている部分が多く、用途が未限定の本体財源はわずか+0.18%。これまでの低医療費政策を省みず、感染症対策経費、物価高騰による経費増が続く中、安全、安心で質の高い最新の医療とその提供体制の維持・向上に背を向けたものと言わざるを得ない。協会は1月13日、これに抗議し大幅プラスの期中改定を求める声明を発表し、関係機関に送付した。
本体+0.88%のうち、医療関係職種の賃上げ原資として0.61%が充てられる。中医協における現在の議論では、医科・歯科診療所について「賃上げに必要な金額を初再診料等の算定回数×10円で除し、個々の診療所で必要となる点数の中央値を賃上げ必要点数として設定する」とされている。基本診療料の引き上げを行うという点は評価できるものの、当然ながら半数が、厚労省が目標に掲げる2.5%の賃上げには届かない(図)。
賃上げ率が0.5%未満となる医療機関の多くが透析を行う腎臓内科や泌尿器科である。多くのスタッフを雇用している一方、初再診料の算定回数が多くないためである。
また、40歳未満の勤務医師らの賃上げには別途0.28%の財源が確保された。中医協の議論では、たびたび看護職員処遇改善評価料への言及がみられ、同様の手法が導入される可能性がある。ただ、現行の看護職員処遇改善評価料については、施設基準は満たすが、評価料を届け出ていない病院が一定数ある。背景には、一部の職種だけ賃上げを行うことに従業員の理解が得られないという医療機関の判断がある。
結局、医療機関の標榜、職種、年齢などの区別がある以上、制度は複雑にならざるを得ないし、現場の不公平感は払しょくできない。そして、その解消のために医療機関は自己資金を持ち出さざるを得ない。医療機関の利益は地域医療の質の向上の原資である。すべての医療機関のすべての職種で他の産業以上の賃上げを実施できるよう、大幅に基本診療料を引き上げ、適正な利益を確保できる資金が必要である。
さらに、すでに採算割れしている入院時の食事基準額の引き上げについて、患者負担増により対応することも盛り込まれた。入院時の食事提供は医療の一環であり、患者負担を増やさず、保険給付分を引き上げて手当てすべきである。
本体+0.88%のうち、医療関係職種の賃上げ原資として0.61%が充てられる。中医協における現在の議論では、医科・歯科診療所について「賃上げに必要な金額を初再診料等の算定回数×10円で除し、個々の診療所で必要となる点数の中央値を賃上げ必要点数として設定する」とされている。基本診療料の引き上げを行うという点は評価できるものの、当然ながら半数が、厚労省が目標に掲げる2.5%の賃上げには届かない(図)。
賃上げ率が0.5%未満となる医療機関の多くが透析を行う腎臓内科や泌尿器科である。多くのスタッフを雇用している一方、初再診料の算定回数が多くないためである。
また、40歳未満の勤務医師らの賃上げには別途0.28%の財源が確保された。中医協の議論では、たびたび看護職員処遇改善評価料への言及がみられ、同様の手法が導入される可能性がある。ただ、現行の看護職員処遇改善評価料については、施設基準は満たすが、評価料を届け出ていない病院が一定数ある。背景には、一部の職種だけ賃上げを行うことに従業員の理解が得られないという医療機関の判断がある。
結局、医療機関の標榜、職種、年齢などの区別がある以上、制度は複雑にならざるを得ないし、現場の不公平感は払しょくできない。そして、その解消のために医療機関は自己資金を持ち出さざるを得ない。医療機関の利益は地域医療の質の向上の原資である。すべての医療機関のすべての職種で他の産業以上の賃上げを実施できるよう、大幅に基本診療料を引き上げ、適正な利益を確保できる資金が必要である。
特定疾患療養管理料の制限を検討
一方、「効率化・適正化」として▲0.25%が示された。中医協では、外来管理加算の廃止や特定疾患療養管理料の算定要件厳格化が議論されている。厚労省は、脂質異常症、高血圧、糖尿病について、特定疾患療養管理料ではなく、生活習慣病管理料を算定させる方針を示している。しかし、生活習慣病管理料は、「療養計画書を作成し、患者に...署名を受ける」必要があり、医療機関の負担が増えることは必至である。こうした改定が強行されれば、事実上の基本診療料引き下げとなり、到底容認しえない。患者負担増も盛り込まれる
また、長期収載品の患者負担引き上げが今年10月から実施されることとなった。金銭的負担から、医師・患者が最適な薬を選択することができず、患者の健康へ悪影響を及ぼすことが懸念される。そもそも露骨に経済力によって受けられる医療に差を持ち込むこの制度改悪は国民皆保険の根幹を揺るがしかねない。さらに、すでに採算割れしている入院時の食事基準額の引き上げについて、患者負担増により対応することも盛り込まれた。入院時の食事提供は医療の一環であり、患者負担を増やさず、保険給付分を引き上げて手当てすべきである。
図 半数の医科診療所は2.5%の賃上げができない
診療報酬改定率の決定を受け、協会が1月13日の第1183回理事会で承認した抗議声明全文を掲載する。
厚生労働省は12月20日、2024年度の診療報酬改定率を発表した。本体に相当する「診療報酬」について、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」のベア引上げ対応に+0.61%、「入院時の食費基準額引き上げ」に+0.06%、個別項目以外の改定分を+0.46%とする一方、「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」を-0.25%とする。合わせて、+0.88%となる。薬価で-0.97%、材料価格で-0.02%の改定(計-1.00%)も含めて、ネット(全体)での改定率は-0.12%となる。なお、上記改定分+0.46%のうち、+0.28%は勤務する40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師、事務職員、委託先の歯科技工士等の賃上げに充てるため、用途が限定されない本体財源は+0.18%に留まる。
これまでの低医療費政策に加え、引き続き求められる感染症対策経費、異常な物価高騰による経費、人件費増が続くなか、用途が未限定の財源が僅か+0.18%とは、事実上、医療の質の維持・向上に背を向けたものと言わざるを得ない。
我々が強く求めていた医療従事者の賃上げ原資について、計+0.89%(0.61%、0.28%)を充て医療関係職種について3~4%の賃上げを見込んでいるが、そのスキームは中医協で議論が始まったばかりだ。2022年度診療報酬改定においては、一部の病院を対象に「看護職員処遇改善評価料」が新設されたものの、多くの医療機関が自己資金を持ち出して「看護職員『以外』の職員」の処遇改善を実施しているし、診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」に出された報告では、「施設基準は満たすが、評価料を届け出ていない」病院が一定数あることも報告されている。背景には、職種を区別して一部のみ賃上げを行うことができないという医療機関の経営判断がある。今回も「40歳未満...」と「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」で財源が区別されており、医療機関が自己資金を持ち出して賃上げを補填せざるを得ない状況となる可能性が高い。本来、すべての医療機関のすべての職種の処遇改善を可能とする基本診療料の大幅引き上げが必要であったはずである。協会として、+0.89%分がすべての医療関係職種の賃上げにつながるよう引き続き制度設計について要求実現に努めたい。
一方、「効率化・適正化」の-0.25%は事実上、診療所が標的になることが想定される。実際、中医協では、外来管理加算や特定疾患療養管理料の廃止や算定要件の厳格化が議論されており、実現すれば、事実上の基本診療料引き下げとなる。医療経済実態調査でさえ、医科診療所(医療法人・無床)の4分の1が赤字、歯科診療所(個人立)は、医業収益も損益差額も前回を下回っている上、4分の1は収支差500万円未満と危機的状況にある中、診療所等の報酬引き下げは、地域医療の地盤を揺るがせるものであり、到底容認しえない。
また、先発医薬品(長期収載品)の患者負担引き上げが今年10月から実施されることとなった。患者負担のこれ以上の引き上げは患者の受療権を奪うものであり大きな問題である。そればかりか、医師が最適な薬を選択することができず患者の健康へ悪影響を及ぼすことすら懸念される。
さらに、採算割れしている入院時の食事基準額の引き上げは当然だが、患者負担増により対応することも盛り込まれた。かねてより指摘しているように入院時の食事提供は医療の一環であり、患者負担を増やさず、保険給付分を引き上げて手当てすべきである。
既に、コロナ禍による経営悪化や医師の働き方改革の余波を受けた医師確保の困難からいくつかの病院が閉院・経営破綻を余儀なくされている。こうした中、国は国民の受療権を確保するという責任を十分に果たすため、大幅な本体プラス期中改定と診療報酬体系の不合理是正を行うべきである。
2024年1月13日
兵庫県保険医協会
第1183回理事会
医療現場の窮状を顧みない診療報酬改定に抗議する
~2024年度診療報酬改定率について~
厚生労働省は12月20日、2024年度の診療報酬改定率を発表した。本体に相当する「診療報酬」について、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」のベア引上げ対応に+0.61%、「入院時の食費基準額引き上げ」に+0.06%、個別項目以外の改定分を+0.46%とする一方、「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」を-0.25%とする。合わせて、+0.88%となる。薬価で-0.97%、材料価格で-0.02%の改定(計-1.00%)も含めて、ネット(全体)での改定率は-0.12%となる。なお、上記改定分+0.46%のうち、+0.28%は勤務する40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師、事務職員、委託先の歯科技工士等の賃上げに充てるため、用途が限定されない本体財源は+0.18%に留まる。
これまでの低医療費政策に加え、引き続き求められる感染症対策経費、異常な物価高騰による経費、人件費増が続くなか、用途が未限定の財源が僅か+0.18%とは、事実上、医療の質の維持・向上に背を向けたものと言わざるを得ない。
我々が強く求めていた医療従事者の賃上げ原資について、計+0.89%(0.61%、0.28%)を充て医療関係職種について3~4%の賃上げを見込んでいるが、そのスキームは中医協で議論が始まったばかりだ。2022年度診療報酬改定においては、一部の病院を対象に「看護職員処遇改善評価料」が新設されたものの、多くの医療機関が自己資金を持ち出して「看護職員『以外』の職員」の処遇改善を実施しているし、診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」に出された報告では、「施設基準は満たすが、評価料を届け出ていない」病院が一定数あることも報告されている。背景には、職種を区別して一部のみ賃上げを行うことができないという医療機関の経営判断がある。今回も「40歳未満...」と「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」で財源が区別されており、医療機関が自己資金を持ち出して賃上げを補填せざるを得ない状況となる可能性が高い。本来、すべての医療機関のすべての職種の処遇改善を可能とする基本診療料の大幅引き上げが必要であったはずである。協会として、+0.89%分がすべての医療関係職種の賃上げにつながるよう引き続き制度設計について要求実現に努めたい。
一方、「効率化・適正化」の-0.25%は事実上、診療所が標的になることが想定される。実際、中医協では、外来管理加算や特定疾患療養管理料の廃止や算定要件の厳格化が議論されており、実現すれば、事実上の基本診療料引き下げとなる。医療経済実態調査でさえ、医科診療所(医療法人・無床)の4分の1が赤字、歯科診療所(個人立)は、医業収益も損益差額も前回を下回っている上、4分の1は収支差500万円未満と危機的状況にある中、診療所等の報酬引き下げは、地域医療の地盤を揺るがせるものであり、到底容認しえない。
また、先発医薬品(長期収載品)の患者負担引き上げが今年10月から実施されることとなった。患者負担のこれ以上の引き上げは患者の受療権を奪うものであり大きな問題である。そればかりか、医師が最適な薬を選択することができず患者の健康へ悪影響を及ぼすことすら懸念される。
さらに、採算割れしている入院時の食事基準額の引き上げは当然だが、患者負担増により対応することも盛り込まれた。かねてより指摘しているように入院時の食事提供は医療の一環であり、患者負担を増やさず、保険給付分を引き上げて手当てすべきである。
既に、コロナ禍による経営悪化や医師の働き方改革の余波を受けた医師確保の困難からいくつかの病院が閉院・経営破綻を余儀なくされている。こうした中、国は国民の受療権を確保するという責任を十分に果たすため、大幅な本体プラス期中改定と診療報酬体系の不合理是正を行うべきである。
以 上