兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2024年4月25日(2068号) ピックアップニュース

第102回評議員会講演録「岸田政権をどうみるか」 平和を拓く本当の道を考える
神戸女学院大学 名誉教授 石川 康宏先生

2068_07.jpg

【いしかわ やすひろ】1957年北海道札幌市生まれ。立命館大学2部経済学部、京都大学大学院経済学研究科卒業。95年神戸女学院大学赴任。2022年3月定年退職、4月より名誉教授。著書に『今、「資本論」をともに読む』(共著)、『いまこそ野党連合政権を!』(共著)など多数。憲法が輝く兵庫県政をつくる会代表幹事、全国革新懇代表世話人他様々な市民団体の活動にも熱心に取り組む

 昨年11月19日に開催した第102回評議員会特別講演「岸田政権をどうみるか-市民の要求実現のための展望を探る」(講師:石川康宏・神戸女学院大学名誉教授)の講演録を掲載する。

日米共同戦争態勢をととのえる岸田大軍拡
 2023年度、政府は補正予算をあわせて約7兆円の防衛予算を組んだ。それを今後も毎年1兆円ずつ増やしていくという。防衛予算を増やせば、当然、他のところに回る予算は削られる。医療や社会保障、教育も予算が減らされていく。軍拡増税も決められている。
 大軍拡の直接のきっかけはいわゆる安保3文書。その目的は「国家安全保障戦略」の次の文章にしめされている。「平和安全法制の制定等により、安全保障上の事態に切れ目なく対応できる枠組みを整えた。本戦略に基づく戦略的な指針と施策は、その枠組みに基づき、...戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換するものである」。
 15年に政府が強行した違憲の「平和安全法制」(「戦争法」)により集団的自衛権行使の法的枠組みはできた。しかし法律だけでは戦争はできない。そこでそれに必要な武器や人材、医療もふくめた社会の構えをつくる。「実践面から大きく転換する」というのはそこを整えること。そのために「台湾有事」の煽りがフルに活用されている。
敵基地「攻撃力」の発揮はアメリカの指揮統制下で
 安保3文書が閣議決定(2022年12月16日)された翌日。「産経新聞」に河野克俊元統合幕僚長のコメントが掲載された。自衛隊制服組のトップだった人物だ。
 河野氏は「自衛隊が攻撃力を持つことに初めて踏み込んだ。大きな一歩」「反撃能力の行使は日米共同のオペレーションになる。日本は長射程のミサイルを持つが、それだけでは完結しない。目標情報の把握や打撃効果の判定なども必要だが、その部分の能力は不十分だ」と述べた。
 政府は敵基地攻撃能力を「反撃能力」とごまかすが、実態は「攻撃力」と認めている。加えて重要なのは、自衛隊はミサイルを発射するが、目標情報の把握や、打撃効果の判定には米国との連携が不可欠だと言っていること。
 つまり日米共同戦争では、アメリカが自衛隊にここを攻撃しろと指図し、自衛隊がそれに従ってミサイルを発射する、それがうまく命中したか、相手の損害かどうかはまたアメリカが確認し、さらなる攻撃が必要かもアメリカが判断する。
 つまり自衛隊はますます米軍の下請部隊になる。日米一体化をアメリカ側は「統合」というが、統合された軍を指揮するのはアメリカで、実態はアメリカへの日本の従属の一層の深化だ。
トマホークを日本に売りつけるアメリカ政府と軍需産業
 日本がアメリカから大量に購入するトマホークはアメリカのレイセオンという会社が製造する巡航ミサイル。資本主義の社会では武器も民間企業がつくる商品で、それをつくる企業の動機は経済的な利益である。長さは6メートル。射程は1600㎞以上。 現アメリカ国防長官のロイド・オースティン氏は国防長官就任の直前までこの会社の取締役で、マーク・エスパー前国防長官はレイセオンの副社長だった。レイセオンの側からすれば、彼らがアメリカ政府を動かし、日本にトマホークを売りつけて大きな利益を確保するということとなる。
自前の軍需産業を成長させたい日本の政府
 2023年6月に「軍需産業支援法」が成立し、10月に施行された。軍拡には国内の軍需産業を育てることが不可欠だとし、それを実行するための法律だ。
 安倍政権ではアメリカからの兵器爆買いが話題だったが、その一方で国内の軍需産業は伸び悩んでいた。その状況を転換し、アメリカからの爆買いを続けながら日本軍需産業にも利益を保証するという政策だ。軍需産業の活動を国家予算で支援する。生産する武器の販売先を海外に広げてやる、つまり武器輸出の拡大。さらに経営が厳しくなれば政府が買い取ってやると至れり尽くせり。日本の軍需産業は自民党に多くの政治献金をしているから、その見返りという面もある。軍産政の一体化だ。
軍事依存型経済への変質の危険性
 日本最大の軍需企業は三菱重工だ。しかし軍需依存度はまだ12%程度。他にエネルギー、インフラ、物流などで大きな利益を出している。
 しかし軍需比率が20%、30%と上がっていけば、三菱は経営の全体で軍拡を求めるようになってしまう。自衛隊だけでなく海外に武器輸出をどんどん広げるようになる。突き詰めれば、世界のどこかで戦争があり、武器が次々売れることを望む企業になってしまう。いまの段階で「軍需に依存するな」「平和産業で生きろ」とブレーキをかけていくことが必要。
 日本の半導体の技術が世界に大きく遅れているというニュースが聞かれる。そこで政府が税金を出し、トヨタ自動車や三菱UFJ銀行等も出資してラピダスという半導体企業を創設した。ここで製造される最新鋭の半導体を米軍に供給することが話し合われている。武器生産の日米共同態勢づくり。
 こうなると直接に武器をつくる軍需産業だけでなく、日本経済の全体が軍事依存型に変質していく。経済は経済、軍事は軍事と分けるのでなく、平和を追求する安保政策と結びつけて、日本の経済政策を論ずることも必要。
 国会では食料・農業・農村基本法の改定が議論されている。食糧自給率の向上を放棄する一方で、有事には、普段コメやイモを作っていない例えば花農家にコメやイモづくりを強制できるようにするという。戦争準備を真剣に考えるなら自給率向上が当たり前だが、工業製品の輸出と引き換えのアメリカからの食糧輸入はやめられない。そこでこんな整合性のない政策になっている。どういう国をつくるかをまともに考えてない。財界いいなり、アメリカいいなり、政治で金儲けをしたい自民党政治家等の献金獲得欲がまさっている。
武器輸出の全面的な解禁へ
 安倍政権下で輸出を原則禁じる「武器輸出禁止三原則」が輸出の条件を定める「防衛装備移転三原則」(2014年)に逆転させられた。
 「防衛装備」とは武器のこと。武器輸出はしないというかつての大前提が逆転させられ、いまは輸出することが大前提に。それでも直接に人の殺傷を目的とした武器は輸出しないなどの制限があった。
 その制限を全面的に取り払うのが岸田内閣。最大の目玉は、日本がイギリス、イタリアと共同開発する戦闘機の輸出。戦闘機は災害救助にも物資輸送にも役に立たない、戦闘に特化した文字通りの殺傷武器。この開発と製造に三菱重工やIHI他が加わっていく。
 これまでもイギリスやイタリアはスペインやドイツと共同で開発したユーロファイターという戦闘機を中東などに輸出してきた。だから今回も輸出するだろう。それなら同じ戦闘機の販売だから日本が輸出しても同じだ、それで日本の軍需産業はもうかるし、輸出先との軍事連携も深まる。政府はそういう議論をしている。
 さらに、この共同開発にかかわる部品の輸入には消費税免除の特例措置も検討している。中小企業、零細企業、フリーランスにはインボイス増税を押しつけながら、巨大な軍需企業には減税を。いったい誰のための政府なのか。日本が「死の商人」国家になっていいわけがない。これにブレーキをかける様々な取り組みが行われている。
軍拡のジレンマ--相手も軍拡するのだから
 政府は軍拡を、わが国をとりまく安全保障環境が悪化しているからだという。
 確かに北朝鮮も中国も軍拡を進めている。そこで一定の軍拡は仕方ないように見える。
 だが本当にそうか。よく考えてみる必要がある。軍拡のジレンマ、安全保障のジレンマと呼ばれる事態がある。こちらが軍拡しても、相手も軍拡するのでさっぱりこちらの優位にならず、ただ軍拡の悪循環と衝突の危険が高まるだけと。
 実際、岸田大軍拡に、中国も北朝鮮も少しもひるまない。反対に日本への警戒を強め、軍拡を加速している。2023年8月にこの悪循環がゴロリと進展した。
 8月18日に日本の岸田首相とアメリカのバイデン大統領、韓国のユン大統領が集まって、中国と北朝鮮に対抗する合意をつくった。これに対して北朝鮮は8月末、海軍に戦術核兵器を配備するという方針で対抗した。
 日本の軍拡や軍事同盟の強化が、北東アジアの軍事的緊張を高めてしまった。北朝鮮はロシアとの軍事協力も深めている。軍拡で日本の安全保障環境は少しもよくなっていない。むしろ悪化している。
 中国についていえば、軍事費は日本の7倍に近く、GDPも5倍近い。日本の軍事費が2倍になったところで力関係が変わるものではない。こちらも緊張を強めるだけ。
日本全土が戦場に、全国の自衛隊基地は強靱化
 現在の軍拡は日本全土を戦場にする可能性を高めている。九州や南西諸島に自衛隊基地がどんどん新設、強化され、特にミサイル基地がつくられている。中国との日米共同戦争を想定し、最前線のミサイル発射基地をつくっている。これをバックアップするため九州全域の自衛隊基地も強化されている。
 岸田大軍拡による武器増強の中心は長射程ミサイルの購入、開発、製造。射程も1000㎞、2000㎞、3000㎞と長くしていく。射程が2000㎞あれば、東京から発射したミサイルが北京に届く。防衛省も射程2000㎞なら富士山周辺に配備、射程3000㎞なら北海道に配備と計画している。
 実際に戦争になれば、これら日本各地の自衛隊基地、米軍基地が、敵の攻撃目標となる。
 それを想定しているから北海道から沖縄まで全国の自衛隊基地の強靱化が進んでいる。攻撃されることに耐える基地づくり。戦場は沖縄だけではない。しかも、すべてのミサイルがピンポイントで基地に命中しはしない。病院や学校や原発も攻撃対象になる。ウクライナを見ても、ガザを見てもよくわかる。日本全土が戦場になる。強靱化されるのは基地だけで、守られるのは軍だけだ。
食糧もエネルギーもなくなっていく、核攻撃の危険も
 ウクライナは陸続きだから、危険をおかせばポーランドに逃げられる。しかし、日本には逃げる先がない。すぐに海。できるのは自分のアタマにミサイルが落ちませんように、子や孫のアタマにミサイルが落ちませんようにと祈るだけ。どこかの原発にミサイルが当たれば、冷却プールにある大量の使用済み核燃料が外に飛び出す。
 何百万の人間が、空からのミサイルに怯えながら、何百㎞も避難せねばならなくなる。どこへ逃げる、どうやって逃げる、公共交通機関は動いているか、逃げる先に体育館はあるか、食糧のひとつもあるのだろうか。日本全土が大変な大混乱に。日本全土が戦場となり、市民全員が戦禍に巻き込まれる。
 日本のエネルギー自給率は10%。戦争が長引けば、夏のクーラーも冬の暖房も10分の1しか使えなくなる。暑さ寒さで人が死ぬ。食料自給率は38%。3人に1人しか食べられない。3人家族の2人は餓死。しかも38%は海外から肥料、種子、飼料などが輸入できる場合の数字だ。これが途切れると自給率は10%。10人に9人は餓死。第2次大戦よりはるかに悲惨な状況だ。
 実際には食糧もエネルギーも軍が優先的に確保する。だから市民の犠牲はもっと大きくなる。さらに最悪の場合には核兵器の被害も。中国は400発、北朝鮮も40発の核兵器をもっているという。これが使われない保証はどこにもない。
 「戦争になったらどうするんだ」「9条守ればかりはお花畑だ」。そんな声もあるが、戦争になれば双方ともミサイルの撃ち合いで焼け野原。「軍拡すればなんとかなる」という方が「お花畑」。大軍拡は戦争の可能性を高めるだけ。戦争になってからでは遅い。
 いま考えるべきは、戦争にどう備えるかではなく、戦争が起こらない状況をどうつくるか。戦争の準備ではなく平和の準備である。
増えている「迷い」
 関連する日本の世論を見ておきたい。世論は右傾化していない。憲法9条の評価をめぐるNHKの世論調査(図1)を紹介したい。
 2000年代初頭から2022年まで、安倍政権下でも岸田政権下でも、9条「改正」を求める声はたいして上昇していない。
 変化は、9条を変えなくて良いという人が減り、「よく分からない」という人が増えていること。9条は大事で、戦争しないというのは正しいが、大規模な「台湾有事」の煽りの中で、これまでどおりの路線でいいのかわからなくなってきた、そういう迷いが大きくなっている。
「国のために戦う」中心は男の高齢者のさらに一部
 もう一つ電通の調査を紹介したい。
 「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問いへの各国市民の回答(図2)だ。アメリカでは60%くらいが「国のために戦う」と答えている。「戦う」が最も少ないのが日本。13.2%。つまり7.8人に1人だけ。圧倒的に少ない。日本人が好戦的になっているなどの事実はない。
 しかも「戦う」とした人の年齢構成で一番多いのは65歳以上。10代から40代前半くらいの方がはっきり少ない。性別でいえば「戦う」女性は「戦う」男性の半分程度。日本で「戦う」人の中心は男性高齢者のさらに一部。「若者の右傾化」を心配する声もあったが、実際にはそんな変化は起こっていない。
 戦いたくない、戦争はいやだ。これが日本社会大多数の声。しかし、先のような迷いもある。だからどうすれば平和が守れるのかをいっしょに考えることが必要。軍拡でだめなら、他にどういう道があるかを探ること。
戦闘での死者を減らしてきた東アジア
--その中心にASEANの努力
 図3は第二次世界大戦後に、戦闘で亡くなった人の数を示している。1946年から2015年くらいまで。
 東アジアの死者数とそれ以外の地域の死者数の対比をみると、75年ベトナム戦争の終結で死者数は大きく逆転した。第二次世界大戦直後には東南アジアに独立戦争が起こり、1960-70年代はベトナム戦争で多くの人が亡くなった。しかし、ベトナム戦争が終わると、カンボジアとベトナムの戦争などの一時期をのぞき、戦闘で死ぬ東アジアの人は大幅に減った。80年代以降は東アジア以外の方が戦闘死者が多くなっている。こうした東アジアの状況は偶然ではない。戦争を回避するための努力があった。
 その中心が、東南アジア諸国連合(ASEAN)の努力。ベトナム戦争終結の翌76年、ASEANは当時の加盟5カ国間で東南アジア友好協力条約(TAC)を結んだ。
 互いの「永久の平和」「永遠の友好および協力」を目的(第1条)とし、各国の「相互関係」の「基本原則」に「主権・領土保全等を相互に尊重」「締約国相互での内政不干渉」「紛争の平和的手段による解決」「武力による威嚇または行使の放棄」など(第2条)を掲げた。いわば〝お互いに絶対に戦争しない条約〟。その後、ASEAN加盟国は10カ国に増え、すべてがTACに加入した。
 さらにASEANはベトナム戦争のような域外の大国による戦争を避けるため、ASEANと交流をもつすべての国にTACへの加盟を求めた。いまや世界54カ国とEUがこれに加わっている。これがすべてではないとしても、ベトナム戦争終結以後、また80年代以降の東アジアでの戦闘死者の激減はこれらの努力に多くを負っている。
東南アジア以外の国も「平和の共同」に
--AOIPの提起
 しかし、TACは加盟各国とASEAN諸国との平和は約束するが、ASEAN以外の締約国相互の平和は約束しない。たとえばTACによってASEANとロシア、ASEANとアメリカには平和の約束があるが、ロシアとアメリカの間にはそれがない。そこでASEANはこの約束を東アジアから世界へと網の目のように広げることを目指している。
 ASEANは2005年から東アジアサミット(EAS)を毎年開催している。ここにはASEAN10カ国の他、日本、中国、韓国、アメリカ、ロシア、オーストラリア、ニュージーランド、インドが参加。すべての国がTACに加入しているが、これら各国相互にもTACに類する条約をつくり、それによってASEAN諸国の平和をより確固としたものにしようと。そのために東アジアサミットを活用することも提案している。
 そこに接近するための当面の目標として2019年に「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)を提起した。内政不干渉、閉鎖性でなく開放性、排除ではなく包摂、国際法の尊重、競争より対話などを基本にすえ、海洋協力・連結性強化・SDGs(持続可能な開発目標)・そのほかの経済協力で共同し、それをEASなどASEAN主導の枠組みで進めるもの。中国や日本など東アジアの国だけでなく、アメリカやEUもこれを支持している。
 先に2023年8月のアメリカ・日本・韓国の軍事連携を紹介したが、その共同声明は全体として中国・北朝鮮を敵視し、これを包囲しようとするもの。ところがASEANにふれた箇所ではAOIPへの支持を表明している。アメリカ等は中国・北朝鮮を排除した軍事連携を目指しているが、ASEANは中国や北朝鮮もふくむ共同をめざしており、両者はまったく相いれない。それにもかかわらずアメリカ等がAOIPへの支持を表明するのは、そうしなければASEANを味方につけられないから。そうした実力をASEANとAOIPの路線はもっている。
中国との間にも発揮されてきた対話の力
 東アジアでの正規軍同士の衝突は1988年のスプラトリー諸島(南沙諸島)でのものが最後。ベトナムが実効支配する島を中国が力で奪い、ベトナム兵64名が死亡した。その後、ベトナムは1992年にTACに加入、1995年にASEANに加盟した。
 こうなると中国とASEANの対立が懸念されたが、ASEANは1996年に中国を「対話国」に認定した。交流と対話を拡大し、2002年には領有権問題での敵対行為の自制を含む「南シナ海にかんする関係国の行動宣言」で合意。翌2003年に中国はTACに加入した。ベトナムとも「永久の平和」を約束した。
 その後も南沙諸島に中国海警局(沿岸警備隊)の船や武装させた漁船などを派遣するが、軍の派遣はできなくなっている。
 ASEAN諸国は全体としては小さな国の集まり。最大のインドネシアでも日本のGDPの3分の1以下だ。軍事力も小さい。それにもかかわらず、戦争のない東アジアをつくる上で大きな成果をあげている。これは対話と交流の力だ。憲法9条で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」するとある。日本の政府と社会が学ぶべきは、こうした戦略的で持続的な平和外交の努力ではないか。
戦争の準備より平和の準備
 憲法の前文に「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とある。ASEANからのAOIPの呼びかけに岸田内閣も支持を表明している。ASEANが76年のTAC以来50年近い時間をかけて平和の共同を広げてきたように、日本も北朝鮮や中国とも対話と交流を深め、相互の信頼を築く開拓者的な努力をするべきではないか。
 日中間には「双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」とした2008年の「日中共同声明」などいくつもの合意がある。日朝間にも拉致問題の解決、植民地支配への反省と清算、国交正常化交渉の開始などを含んだ2002年の「日朝平壌宣言」がある。これらを足がかりに、北東アジアに平和の共同を広める外交努力が必要。そういう努力をする意思をもった政治をつくることが必要だ。

2068_08.gif
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方