兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年5月25日(2070号) ピックアップニュース

燭心

 スマホにアマゾンオーディブルを入れた。ナレーターの朗読で、文学作品からビジネス書までアプリで聞ける。移動中の「時間つぶしに」という不純な動機からだ▼サイトのトップに村上春樹の短編集があった。いつもノーベル文学賞の候補なのだが彼の作品を読んだことはない。聞いたのは「蛍」。村上氏が35歳の時の短編だ。進行がもどかしく「起承転」らしきものはあるが「結」が見当たらない。高齢者となった筆者の人生には役立たないし、「世界観」など興味が少ない。小説を読むデビューが遅すぎたか▼外科医だった筆者の30歳過ぎは、日々の術前準備・手術・術後管理の中、1症例1月足らずのPDCAサイクル。読むのは商業誌や学会誌で、必要なのは方法と結果と考察と参考文献だった▼医学部入学前も学習し修得、結果を求めての受験競争。大学の部活も順位の明確なヨット部で、日々考えるのは長短の戦略であった▼この生き方は日常生活にも表れ、早寝早起き早飯で朝寝坊も遅刻とも無縁。家族旅行などは細かい計画を立て、外れるとイライラ。ユーチューブやDVDは1.3倍速の「段取り命の前のめり生活」で、何に向かっているのか今も不明瞭である▼ただ、数年前から「過程」が楽しめるようになってきた。旅行の予定外の道草も気にならないし、朝から予定のない休日も悪くない。下戸だが酒席での無駄話も楽しい▼「蛍」も単行本を購入して読むと、味わい深いものがあった。そしてこの文章にも「結」がない(空)
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