兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2024年6月15日(2072号) ピックアップニュース

燭心

 街に燕を見かける季節になってきた。かろやかに宙を舞う姿は、初夏の風物詩だ。わが家の軒先にも2羽がやってきて、あちこち調べ回っている。巣作りを考えているのか、夫婦で不動産の物件探しをしているようで、ほほえましい。やがて子育てが始まれば、餌をねだる雛のために、親鳥は休む暇なく飛び回る。愛らしくも、その苦労に同情する▼白楽天の〝燕の詩〟を読んでみる。梁上双燕有り、翩翩たり雄と雌、と続く五言古詩である。2羽の燕は巣を作り、雛を生み、一生懸命育てる。だが雛たちは、成長すると、親鳥をふりかえりもせず、四方に飛んでいってしまった。親鳥は悲しみ、子鳥のいなくなった巣で泣く。だが自分たちのことをふり返って考えてごらん。だまって飛び去って、親を悲しませた時のことを...▼千年以上も前の詩にもかかわらず、心にしみる。わが身を振り返ってみても、苦笑することしきりである。いつの時代も、若い頃は未知の世界にあこがれ、故郷を振り返ることなどしないものだ。いや、過疎化の進む地方では、親や故郷を捨てざるを得ない若者も多かろう。ましてや被災地や戦火の地では、と思う▼先の詩は、子どもに去られて悲しんでいる劉さんという老人にささげた作品という。悲しまないでほしい。子どもたちも、やがては家庭を持ち、親の苦労やありがたさが分かる日がやってくると結ぶ。そう言えば、先日は母の日、そして、間もなく父の日。泉下の両親には、若き日の無礼を謝りたい。(星)
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方