兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年7月15日(2075号) ピックアップニュース

県弁護士会が「現行の健康保険証の存続を求める」会長声明
「国民のプライバシー権を侵害」 協会が申し入れ

 兵庫県弁護士会は6月28日、中川勘太会長名で「マイナ保険証への一本化に反対し、現行の健康保険証の存続を求める会長声明」を発表した。「マイナ保険証に一本化し、現行の健康保険証を廃止することは、漏えいのリスクを伴う制度へ強制的に組み込まれる点で国民のプライバシー権を侵害する危険があり、また、これまで国民が享受してきた保険診療を受ける機会を不当に後退させることにもなりかねない」としている。

 協会は保険証廃止は国民の受療権を侵害するとして、国民の基本的人権を擁護する立場の弁護士会にも、協会顧問弁護士の野田倫子氏を通じて、協力を要請。今回の会長声明につながった。
 弁護士会との共同は、全国的にも進んでいる。保団連が6月6日に開催した、「保険証の存続を求める国会内集会」では、野呂圭日本弁護士連合会副会長が連帯のあいさつを行った他、大塚信雄埼玉弁護士会会長も参加した。
 また、東京協会が中心になり、兵庫協会も協力するオンライン資格確認義務化は違憲・違法だとして国を相手取ってたたかっている裁判でも、日弁連情報問題対策委員会委員長や第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員長の二関辰郎弁護士が弁護団に加わっている。
 声明は、23年最高裁がマイナンバー制度が憲法13条プライバシー権との関係で憲法違反でないとした論拠は利用範囲を社会保障、税制及び災害対策の3分野に限定していることやシステム上、漏えいや目的外利用等の危険が極めて低いことであったが、改正マイナンバー法ではこの利用範囲が拡大し、ひも付けの誤りなどが続出、顔認証制度もなりすましが容易でセキュリティとしての用をなさないと指摘。マイナンバーカードを取得しない選択を事実上できなくした上、マイナ保険証を鍵として診療情報データベースへのアクセスを可能とすることは、これを望まない国民の自己情報コントロール権を侵害するとしている。また、申請・更新が必要なマイナ保険証により、これらが困難な国民、特に高齢者や障がい者の保険診療を受ける権利を不当に後退させることになりかねないとして、マイナ保険証一本化・現行健康保険証の廃止に反対の立場を表明している。
 県弁護士会と協会は今後、保険証廃止の問題点を考える企画等での協力も検討している。
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国民の医療受ける権利を後退
協会顧問弁護士  野田 倫子
2075_05.jpg マイナ保険証利用により接続可能となる診療・投薬情報は、個人情報保護法上「要配慮個人情報」として特に慎重な取り扱いが求められる情報です。共有に「同意」すれば、過去3年間の診療・投薬情報が提供されることになります。これは例えば、風邪で受診した場合でも、人によっては不妊治療や流産の履歴等が提供されることを意味します。
 このような個人の情報を「みだりに第三者に開示されない権利」は憲法13条のプライバシー権で保障されています。さらに、自己の情報を誰にどの範囲で提供するかは自己情報コントロール権としてのプライバシー権の問題でもあります。
 本来、このような制度の導入にあたっては、マイナンバーカードを持ちたくない人の選択の自由が確保されなければなりません。しかし、政府は、補助金や窓口負担の差別化などのあらゆる方法を使って強引にマイナ保険証の利用を促進させようとしています。マイナ保険証を利用しない人に送付される資格確認書についても、改正健康保険法上は、今後、送付が継続されるのかは不明です。
 もっとも、マイナ保険証を利用せず、資格確認書を使い続ける人が多ければ、容易に制度を変更することはできないはずです。医療機関窓口に「マイナ保険証の利用は義務ではありません、現行の保険証に代わる資格確認書が送られてきますのでご安心を」という内容の掲示があれば、患者さんは安心してマイナ保険証を使わないことを選択できると思います。
 マイナ保険証導入による医療機関窓口の事務負担の増加や混乱はひいては国民の医療を受ける機会を後退させることとなります。何より、マイナンバーカードの交付申請や管理自体が困難な人、特に高齢者や障がい者の医療を受ける権利を後退させることは明らかです。
 今後も、より多くの人の共感を得ながら、マイナ保険証一本化に反対し現行の健康保険証の存続を求める声を広げていきたいと思います。
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