兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年7月25日(2076号) ピックアップニュース

「8月ジャーナリズム」と私たちの歴史認識
「なぜ戦争に至ったか」の継承を
九条の会・兵庫県医師の会

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8月ジャーナリズムで日本人の「戦争観」が築かれてきたと指摘する米倉氏

 協会が運営に協力する「九条の会・兵庫県医師の会」は7月13日、講演会「『8月ジャーナリズム』と私たちの歴史認識」を開催し、日本大学法学部の米倉律教授が講演し、会員・市民ら33人(来場27人、Zoom6人)が参加した。米倉氏は、戦争被害の記憶だけを取り上げて、自然災害のように戦争を描き平和の重要性を強調するメディアの姿勢を批判し、日本が侵略や植民地支配から戦争に至ったという歴史を継承し、「専守防衛」を掲げる日本国憲法の精神を再確認すべきと訴えた。

 米倉氏は、NHKディレクターとして「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」などを担当しており、現在は映像ジャーナリズムを専門としている。
 氏は「8月ジャーナリズム」とは、「原爆の日」から「終戦記念日」にかけての8月前半に、新聞やテレビなどのメディアで戦争関連の特集が集中的に取り上げられることと紹介した上で、多くの日本人の戦争イメージがこの8月ジャーナリズムを通じて作られていると指摘。
 日本人の「戦争観」は、米歴史学者のジョン・ダワーが指摘するように「自分たちは戦争の犠牲者であり、戦争指導者に騙された」という「強固な被害者意識」と「歴史に関する記憶喪失」に陥っているが、メディアでの戦争の取り上げ方を経時的に分析したところ、空襲や原爆、沖縄戦など日本人の被害について繰り返し取り上げ、犠牲者を悼み、平和への誓いを新たにするが、植民地支配や侵略など日本が行った加害については言及しない特徴があると指摘。
 例えば、広島への原爆投下をテーマとすると、被害者の声については詳しく特集するが、広島がターゲットになったのは軍事拠点だったためであるということや原爆を投下したアメリカの責任には言及せず、まるで自然災害のように描きがちであると紹介。
 90年代には、アジア諸国の民主化のもと、各国の元従軍慰安婦・徴用工などが相次いで被害を訴え、「河野談話」「村山談話」が発表されたことで、一時的に加害を扱う番組が急増したが、2000年代後半から日本の相対的地位低下を背景に社会の保守化が進み、従軍慰安婦をテーマとしたNHKのETV特集への政治家の介入などを契機として、メディアで取り上げられなくなったとした。
 さらに、3割が「広島・原爆の日」がいつか知らない今、次世代への「継承」を意識した番組、映画等が増加しているが、「日本はなぜ戦争したのか?」「どの国に空襲され、なぜ原爆を投下されたのか?」などの歴史的な背景がなく、抽象化された戦争が描かれており、これは新しい「被害のジャーナリズム」ではないかと指摘。戦争の記憶の継承の前に「なぜ」」「何を」継承するのかが問われる必要があると強調した。
 ヨーロッパでは、帝国主義・植民地主義の「負の遺産」の精算の取り組みが進んでいることなどから学び、侵略、植民地支配から始まった自国の「戦争」を再認識し、それが「現在」をもたらしていると理解すること、その歴史の上でできた日本国憲法の「専守防衛」の精神を再確認する必要があり、政権が繰り返す、「安全保障環境の悪化」を鵜呑みにして報道するメディアのアジェンダ・セッティング力(議題設定機能)が問われていると指摘した。
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