2024年8月05日(2077号) ピックアップニュース
燭心
梅雨明けより晴天が続き、連日危険なほどの猛暑が伝えられるが、日本アルプスなど3000m級の高山の縦走を楽しむ登山者にとっては、安定した天候で登山を楽しめる貴重な時期でもある▼北アルプス山系で、南の重鎮を穂高連峰(3180m)とするならば、北の俊英は剱岳(2998m)であろう。幾重にも連なる岩峰の要塞の最奥に、巨大な岸壁を鋭くせり上げ、剱岳山頂は孤高に天を衝く。その雄姿は登山者を魅了するが、近世までは立山信仰の影響もあり「立ち入らざるべき山」として畏怖の対象とされていた▼実際に、近代登山の技術をもってしても登頂は困難を極め、長く未踏峰であったが、1907(明治40)年7月13日、陸軍測量隊の精鋭部隊によって、年余にわたる準備を経て、記録に残る初登頂がなされた▼山頂で測量隊は、驚くべき光景に遭遇した。山頂付近には錆びた鉄剣が、さらに山頂近くの岩屋で銅製の錫杖頭が、焚火跡等とともに見つかったのだ。錫杖頭は奈良時代、鉄剣は平安初期のものと推定された。修験者が頂上での修業を終え、奉納したのであろうか。彼らがいかなる経路で登頂したのか、下山を果たせたのか、遺物は黙して語らない▼現在、剱岳の登山ルートは整備され、毎年多くの登山者を迎える。しかし、不十分な装備や経験不足による遭難や救援要請が増えているという。経験者ほど事前の準備を怠らず、グループで行動し、先人への敬意を忘れない。くれぐれも安全で、快適な山行を!(眞)