兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年9月25日(2081号) ピックアップニュース

主張
根拠に乏しい医療・社会保障費抑制論に騙されるな

 総裁選を前に、新聞紙上で医療制度改革を求める声が強調されている。現役世代からの高齢者への「支援金」や医療費窓口負担の「格差」を問題視しているが、これには誤解が多い。
 第一に、支援金の負担が過大に評価されている。2008年から24年にかけて支援金の金額は約2倍になったが、総務省によれば、社会保険料収入に占める割合は08年の9.2%から23年には11.2%にしか増えていない。
 第二に、高齢者の医療費窓口負担を増やせとの主張だが、収入に対する負担は現役世代が1.0%であるのに対し、高齢夫婦世帯では4.1%とすでに大きな負担を強いられている。
 次に、薬価引き下げが製薬企業の競争力に悪影響を与えるとの主張も誤解である。薬価の引き下げは長期収載品と後発薬に対して行われており、国際競争力や「ドラッグロス」とは無関係だ。医療費に占める薬剤費の割合は約3割にも及び、新薬がその55.9%を占めている。日本の新薬の価格は、イギリスやフランスの約2倍、ドイツの1.3倍と高額であり、製薬企業は他の業種に比べて高い利益率を享受している。
 そもそも医療・社会保障費抑制の基となる前提には疑問が多い。例えば、世代の人数だけを取り上げ「騎馬戦型から肩車型社会になる」「現役世代が負担に耐えられない」といわれるが、分母を就業者人口、分子を非就業者人口にすると、70年が1.04人で10年は1.05人と、この40年間で変化はなく、元気な高齢者が働けば2050年でも1.10人と大差はない。
 83年には「このまま医療費が増え続ければ、国家がつぶれる」とする「医療費亡国論」が厚労省幹部より発出されたが、40年後の今も国家はつぶれていない。3年前にも財務事務次官が日本の状況を「タイタニック号が氷山に向かって突進している」とし、歳出抑制を主張したが、「財政破綻はいつ頃で、どの程度の確率か」の問いに答えられる人はいない。一方で過去に日本国債の格付けが下がった際には「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。如何なる事態を想定しているのか」と反論し、今も財務省のホームページに載っている。医師数の増加が医療費に及ぼす影響も無視できる範囲であり、外来受診回数増が、医療費の高さに直結しているわけでもない。
 以上のように、社会保障費抑制の理論には根拠が少ないうえに、将来不安の強調は、貯蓄増加、消費低迷、物価下落、売上減少、賃金抑制という「デフレスパイラル」を起こす。
 社会保障制度は、「能力に応じた負担」と「必要に応じた給付」により、所得の再分配機能を持つ。今「負担能力」を有するのは誰なのか。大企業は500兆円以上の多額の内部留保を抱えている。また、日本では保険料は労使折半が基本だが、OECDでは使用者の負担が被用者の1.77倍であり、日本でも同様の措置を取れば、現役世代の負担軽減が可能である。
 年齢と収入によって縦横に分断された窓口負担制度は世界的にも珍しい。患者間、世代間対立を煽るような負担論は止めるべきだ。
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