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兵庫保険医新聞

2024年11月05日(2085号) ピックアップニュース

燭心

 ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』が、今年6月末に文庫版として再版された。発刊後の3カ月間で35万部以上が売れたと見込まれ、異例のベストセラーとなっている。本作は1967年の出版以降、瞬く間に世界各国でベストセラーとなり、すでに46の言語で翻訳され、「20世紀を代表する作品の一つ」と高く評価されている。原著のスペイン語版は累計発行部数が5000万部を超えるロングセラーとして親しまれてきた▼日本では72年に翻訳が出版されたものの、ほとんど売れなかったという。大江健三郎・安部公房・中上健次ら、有力作家らが発刊当初から本作を絶賛し、書評などで繰り返し言及してきたにも関わらず、長らく入手困難であった▼マルケスの著作は「複数の物語進行」「時間や空間の転移」といった要素を含み、「難解な小説」と本邦では認識されていた。これらの手法は「ライトノベル」や「ネット小説」普及に伴い、「読者の参加」を促す技術として定着した。どこから読み始め、どこで読み終えてもよい、マルケスの提示した「読書の本来的な楽しみ方」が本邦で受け入れられるまで、実に半世紀の時間を要したといえる▼30年ぶりに書庫から取り出した「百年の孤独」は、多くの人に貸し出した末、変色してしまった。「この本が文庫化されたら、世界が滅びる」と読書家の間で噂をされてきたが、「滅んだ先の世界」においても、私たちは希望を見失うことなく、現在を全力で生き抜いているはずだ。(眞)
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