2024年11月05日(2085号) ピックアップニュース
特集 2024年県知事選挙
政策解説 県の福祉医療制度 斎藤県政で改善なし
11月17日投開票の兵庫県知事選挙にあたり、県政の争点として、こども医療費や高齢者医療費などの福祉医療制度を取り上げる。
高齢者やこども、一人親や障害者などの社会的、経済的に弱い立場にある県民の医療費負担を軽減する福祉医療制度は、県民の健康保持・増進のために自治体が独自に助成を行うものであり、各自治体が県民の健康を守る姿勢を測る一つの指標となる。
2021年まで5期20年続いた井戸県政は、「行財政改革のため」として、福祉医療制度の大幅な改悪を進めた。
「県政の刷新」を掲げて2021年に当選した斎藤県政の4年間を見ると、県単独福祉医療費の予算は2021年度が95.8億円に対し、2024年度91.8億円と減少しており、4年間を通じてみても、予算はほぼ横ばいである(図1)。
21年の知事選挙時に協会が実施した候補者アンケートで、斎藤氏は福祉医療費助成の充実について「基本的にはその通りの方向で進むべきだとは考えますが、財政状況が非常に悪い兵庫県としてどの範囲まで充実できるか、無駄な事業の洗い出しも含めて、早急に財政点検を行い、その上で社会保障制度の在り方について検討していきたい」と、点検の上、充実すべきとの考えを示していた。しかし、結局4年間かけて一歩も制度を改善していない。今回の選挙の公約にも盛りこまれておらず、斎藤氏は福祉医療制度を改善するつもりがないと考えざるをえない。
当会の調査で、中学3年生まで医療費を入院・通院ともに無料としていた自治体は2021年度には38市町(うち19市町で所得制限なし、三田市・豊岡市は低所得世帯のみ)だったが、2024年度には40市町(うち27市町で所得制限なし、尼崎市・三田市・豊岡市は低所得世帯のみ)と、神戸市をのぞくすべての市町に広がった。
さらに、高校3年生世代までの無料化が大きく進んだ。2021年度には高校3年生世代の通院・入院とも無料だった自治体は9市町(うち7市町は所得制限なし)だったのが、2024年度には27市町(うち所得制限なしが21市町)と、県内自治体の66%に広がっている。入院を無料にしている自治体は、18市町から39市町に増え、95%である(図2)。
4年間でこれだけ、こどもに対する医療費無料化が進んでいるにも関わらず、兵庫県の助成制度は全く改善しておらず、小3までは1日800円(月2回まで)、小4~中3までは2割負担である。安心して子育てをしたいと制度の改善を求めた住民の大きな運動を受け、各市町は努力しているが、県は全くしていないのである。
兵庫県の人口は12年連続減少しており、その主な原因は若年層の流出と言われている。若年層が住みたいと思える兵庫県を作るためにも、こども医療費無料化は有効な政策といえ、自治体任せではなく、県として無料化を実施することが必要である。
以前、県には65歳から69歳までの高齢者に対して医療費の1割を助成する老人医療費助成があり、2000年には7割が対象になっていた。しかし、徐々に制度の対象をせばめ、16年度にはついに制度を廃止してしまった。
代わって作られた「高齢期移行者医療費助成」は、所得制限に加え要介護2以上という要件が加えられるなど、対象者が非常に限定された制度となってしまい、斎藤県政のもとでも同制度は改善されていない。
今こそ、県が独自で高齢者の医療費負担軽減策を打ち出すことが必要である。
予防できる認知症45%のうち、7%と最大の要因が難聴であるという論文がランセットに2024年掲載された。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、「聴こえにくさを放置していると、人との会話がかみ合わず疎外感を味わったり、日常生活にも支障をきたしたりして、うつや認知症のリスクが高まることもわかってきました」として補聴器の利用を促しているし、兵庫県耳鼻咽喉科医会は、「最近では、難聴と認知症の関係も注目されるようになっており、必要と判断されたならば、認知症予防のためにも早めに正しく補聴器をつけることが勧められます」としている。
補聴器購入への助成を求める声を受け、兵庫県は2022年に都道府県として初めて、高齢難聴者の補聴器補助事業が実現した。
ただし、この事業は「調査事業」として一回限りとされ、「調査の結果、補聴器を使用することで、社会参加活動や活動意欲の維持に繋がった可能性があることが分かりました」としているにも関わらず、実施を国に求めるとして、事業を継続しなかった。
一方で、各自治体が独自に助成を新設する動きが進んでおり、2024年度には15市町にまで広がっている。県として補助事業の再開が求められる。
未曽有の物価高のなか、県民の生活は厳しくなっている。自治体は住民の健康を守るため、受診抑制が起こらないように福祉医療制度を拡充するべきである。斎藤県政の4年間は福祉医療制度を全く拡充しておらず、この転換が求められている。
各候補が発表した政策を見ると、おおさわ芳清氏は「高齢者の医療費窓口負担が1割負担となるよう医療保険制度との差額を助成」「母子家庭等医療費助成の所得制限を、児童扶養手当の一部支給の所得制限まで引き下げ」「18歳までの医療費無料を実現」「福祉医療対象者の薬局での患者負担を廃止」「高齢者の補聴器の購入補助」と非常に具体的に福祉医療の改善・補聴器助成の実現を明記している。
いなむら和美氏は「命を守る。高齢化に対応する医療福祉の実現」と抽象的な文言はあるものの、具体的な政策が見当たらない。同氏が尼崎市長時代には、福祉医療制度はほとんど改善されていない。市長最後の年である2022年度にやっとこども医療費助成制度を一部改善したものの、その内容は自己負担無料の対象を低所得者に限るなど、非常に限定的な内容であった。
福本繁幸氏は「医療費・社会保障の充実」とあるが、具体的な文言は見当たらない。齋藤元彦氏、清水貴之氏、中川暢三氏は、政策には、福祉医療に関連する項目は見当たらない。
兵庫県保険医協会は福祉医療の制度の拡充を各候補に求めていく。
高齢者やこども、一人親や障害者などの社会的、経済的に弱い立場にある県民の医療費負担を軽減する福祉医療制度は、県民の健康保持・増進のために自治体が独自に助成を行うものであり、各自治体が県民の健康を守る姿勢を測る一つの指標となる。
2021年まで5期20年続いた井戸県政は、「行財政改革のため」として、福祉医療制度の大幅な改悪を進めた。
「県政の刷新」を掲げて2021年に当選した斎藤県政の4年間を見ると、県単独福祉医療費の予算は2021年度が95.8億円に対し、2024年度91.8億円と減少しており、4年間を通じてみても、予算はほぼ横ばいである(図1)。
21年の知事選挙時に協会が実施した候補者アンケートで、斎藤氏は福祉医療費助成の充実について「基本的にはその通りの方向で進むべきだとは考えますが、財政状況が非常に悪い兵庫県としてどの範囲まで充実できるか、無駄な事業の洗い出しも含めて、早急に財政点検を行い、その上で社会保障制度の在り方について検討していきたい」と、点検の上、充実すべきとの考えを示していた。しかし、結局4年間かけて一歩も制度を改善していない。今回の選挙の公約にも盛りこまれておらず、斎藤氏は福祉医療制度を改善するつもりがないと考えざるをえない。
こども医療費無料化前進に県は貢献せず
各制度について見ていくと、県内で、この4年間で大きく前進したのがこども医療費無料化である。当会の調査で、中学3年生まで医療費を入院・通院ともに無料としていた自治体は2021年度には38市町(うち19市町で所得制限なし、三田市・豊岡市は低所得世帯のみ)だったが、2024年度には40市町(うち27市町で所得制限なし、尼崎市・三田市・豊岡市は低所得世帯のみ)と、神戸市をのぞくすべての市町に広がった。
さらに、高校3年生世代までの無料化が大きく進んだ。2021年度には高校3年生世代の通院・入院とも無料だった自治体は9市町(うち7市町は所得制限なし)だったのが、2024年度には27市町(うち所得制限なしが21市町)と、県内自治体の66%に広がっている。入院を無料にしている自治体は、18市町から39市町に増え、95%である(図2)。
4年間でこれだけ、こどもに対する医療費無料化が進んでいるにも関わらず、兵庫県の助成制度は全く改善しておらず、小3までは1日800円(月2回まで)、小4~中3までは2割負担である。安心して子育てをしたいと制度の改善を求めた住民の大きな運動を受け、各市町は努力しているが、県は全くしていないのである。
兵庫県の人口は12年連続減少しており、その主な原因は若年層の流出と言われている。若年層が住みたいと思える兵庫県を作るためにも、こども医療費無料化は有効な政策といえ、自治体任せではなく、県として無料化を実施することが必要である。
増え続ける高齢者の窓口負担に助成を
こどもだけでなく、高齢者の医療費窓口負担に対する助成も求められている。この間の物価高騰のもとで、年金額は抑制され、高齢者の生活は苦しくなっている。そのなか、政府は2022年10月から、これまで1割だった75歳以上の一部の窓口負担を2割に引き上げるなど、窓口負担は重くなっている。来年には「配慮措置」も終了する予定で、深刻な受診抑制が懸念される。以前、県には65歳から69歳までの高齢者に対して医療費の1割を助成する老人医療費助成があり、2000年には7割が対象になっていた。しかし、徐々に制度の対象をせばめ、16年度にはついに制度を廃止してしまった。
代わって作られた「高齢期移行者医療費助成」は、所得制限に加え要介護2以上という要件が加えられるなど、対象者が非常に限定された制度となってしまい、斎藤県政のもとでも同制度は改善されていない。
今こそ、県が独自で高齢者の医療費負担軽減策を打ち出すことが必要である。
補聴器助成制度「調査事業」で終了
聴力低下に早期に対応することで認知症などの進行を緩やかにすることが期待できることが広く認識されてきている。予防できる認知症45%のうち、7%と最大の要因が難聴であるという論文がランセットに2024年掲載された。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、「聴こえにくさを放置していると、人との会話がかみ合わず疎外感を味わったり、日常生活にも支障をきたしたりして、うつや認知症のリスクが高まることもわかってきました」として補聴器の利用を促しているし、兵庫県耳鼻咽喉科医会は、「最近では、難聴と認知症の関係も注目されるようになっており、必要と判断されたならば、認知症予防のためにも早めに正しく補聴器をつけることが勧められます」としている。
補聴器購入への助成を求める声を受け、兵庫県は2022年に都道府県として初めて、高齢難聴者の補聴器補助事業が実現した。
ただし、この事業は「調査事業」として一回限りとされ、「調査の結果、補聴器を使用することで、社会参加活動や活動意欲の維持に繋がった可能性があることが分かりました」としているにも関わらず、実施を国に求めるとして、事業を継続しなかった。
一方で、各自治体が独自に助成を新設する動きが進んでおり、2024年度には15市町にまで広がっている。県として補助事業の再開が求められる。
安心して受診できるよう福祉医療制度拡充に転換を
本来医療は国が責任を持つべきで、国の制度として、だれもがお金の心配なく安心して受診できる制度にすることが必要だ。しかし、国は窓口負担を軽減するどころか、負担を増やそうと制度を改悪するばかりである。未曽有の物価高のなか、県民の生活は厳しくなっている。自治体は住民の健康を守るため、受診抑制が起こらないように福祉医療制度を拡充するべきである。斎藤県政の4年間は福祉医療制度を全く拡充しておらず、この転換が求められている。
各候補が発表した政策を見ると、おおさわ芳清氏は「高齢者の医療費窓口負担が1割負担となるよう医療保険制度との差額を助成」「母子家庭等医療費助成の所得制限を、児童扶養手当の一部支給の所得制限まで引き下げ」「18歳までの医療費無料を実現」「福祉医療対象者の薬局での患者負担を廃止」「高齢者の補聴器の購入補助」と非常に具体的に福祉医療の改善・補聴器助成の実現を明記している。
いなむら和美氏は「命を守る。高齢化に対応する医療福祉の実現」と抽象的な文言はあるものの、具体的な政策が見当たらない。同氏が尼崎市長時代には、福祉医療制度はほとんど改善されていない。市長最後の年である2022年度にやっとこども医療費助成制度を一部改善したものの、その内容は自己負担無料の対象を低所得者に限るなど、非常に限定的な内容であった。
福本繁幸氏は「医療費・社会保障の充実」とあるが、具体的な文言は見当たらない。齋藤元彦氏、清水貴之氏、中川暢三氏は、政策には、福祉医療に関連する項目は見当たらない。
兵庫県保険医協会は福祉医療の制度の拡充を各候補に求めていく。
図1 兵庫県の福祉医療費予算の推移
図2 この4年間の高校生3年生世代までの無料化の変化