兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年12月15日(2089号) ピックアップニュース

主張 セキュリティ・クリアランス制度
人権侵害の制度は見直しを

 2024年5月に重要経済安保情報保護法案が国会で可決された。
 本法は「特定の機密情報」を取り扱う者に対し、「適正評価(セキュリティ・クリアランス)制度」による調査を行うと定めている。
 秘密を扱う者の範囲として民間企業の従業員や技術者や研究者など、幅広く対象となるが、調査項目の一つに「精神疾患に関する事項」が指定されていることに、日本精神神経学会をはじめ、精神医学の立場から反対声明がなされてきた。
 この見解および反対声明の趣旨は、下記の3点である。
 ①本法は、精神疾患や障害への偏見・差別を助長し、患者が安心して医療・福祉を受ける権利を侵害するものである。「精神疾患に関する項目」とは何を指すのか、調査対象の範囲を含め、理由や根拠が示されていない。「精神疾患等」が「自己を律して行動する能力を失い」、「機密を漏洩するおそれがある」等という、およそ医学的根拠のない旧来の言説が、医学会による批判的検証を無視する形で、引き継がれるという事態は、法治国家として許されない。
 ②本法は、「対象者の同意」があれば、対象者に知らされない形であっても、医療情報の提供を医師に義務づけることを可能にし、「守秘義務」といった医学・医療の原則を破壊する危険性がある。
 ③本法により精神科医療全般が監視対象となる危険性が高まった。医療DX推進による共通カルテの構想は、精神科医療を通じて「監視社会」を現実化する恐れがある。
 そして、本法は、①どの情報が公開されないのか、その範囲について、すべての人が理解できる形で合意形成がなされていること、②監視の権限を有する行政機関の行為を、監視評価する機関をもうけ、過剰な秘密指定による人権侵害等がなされない仕組みを構築すること、以上の2点において、指針となる国際原則(ツワネ原則)を満たしていない。
 このように多くの問題を抱えた本法は、早急な見直しが必要と考える。
 本法の性急な運用は、国際的な信用を下げる結果になるであろう。
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