兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2025年3月25日(2097号) ピックアップニュース

主張
「混合診療」拡大につながる薬の「選定療養」は大問題

 昨年10月から「後発品のある先発医薬品の選定療養」がスタートした。
 低価格の後発医薬品がある場合に、先発医薬品(長期収載品)の処方を患者さんが「選定」した際には、差額の4分の1を「特別料金」として患者追加負担とする「ペナルティ制度」である。先発品を「贅沢品」として、「選定療養」の対象へ変更したのである。
 この制度の対象は法改定なしに拡充可能のため、後発品と先発品の差額を全額負担とする「参照価格制度」、OTC類似薬の保険外し(医療機関からの処方禁止)、薬剤費の一定額までを全額患者自己負担とする「免責性」などへと、なし崩し的に広がる危険性がある。
 医療費抑制のためとされるが、これらは公費(公助)・保険料(共助)から、患者の自己負担(自助=セルフメディケーション)への単なるコストシフティングである。
 薬の選定療養には問題が多い。特に高齢者、軽度認知症など、薬の知識に乏しい患者さんが、医師の診断なしに保険外医薬品を自己判断で選択した結果生じた副反応、相互作用などを自己責任とするのは酷である。
 また、市販薬の価格の高さにより服用ができず、疾病が放置され、病状が複雑化、重症化する危険性も高い。
 結果的に低所得者を中心とした医療へのアクセスの低下と医療格差の広がりをもたらす。保険料を払っているのに、健康保険が使えない、つまり「金銭的理由」による国民皆保険制度からの実質的排除といえる。
 この「選定療養」は、患者さんが追加費用を負担することで、保険適用外の治療やサービスを保険診療と同時に受けることができる、「容認された混合診療」である。
 日本の保険医療では被保険者が保険適用の「療養の給付(=診療)」を受けた場合、その費用の一部のみを自己負担すれば良いと定められている。保険適用外の自由診療との混合診療は禁止され、 医療費全額が患者の自己負担となる。
 混合診療の問題点は、第一に、自由診療部分を負担できるお金持ちだけが、高額な医療を受けられる(もちろん、貧乏人も家を売れば受けられる)ため、低所得者が排除される。
 第2に、第三者の事前審査も事後のチェックもなく、有効性と安全性に乏しい療養が拡大し持続する。
 最後に、保険診療として給付される部分は、すべての国民の保険料や税金が財源となっているため、「富める者には、皆から集めた保険料で援助する」一方で、「お金のない人は混合診療を受けられず、保険料の取られっぱなし」になる。
 特定の人だけが、一階部分の「国民皆保険制度」の上に乗っかり、追加料金を払って二階にあがり特別の医療を受けるのである。
 医療を受ける「人権」が「特権」になり、支払い能力(貧富の差)にかかわらず平等な医療を受けられるとする国民皆保険の理念を否定するものである。
 薬の選定療養拡大の見直しを求める。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方