2011年2月
【水曜】 高齢者に多い一過性(いっかせい)の低血圧
高齢者の血圧は、収縮期の血圧値が高く、拡張期の血圧値が低いという特徴があります。年齢とともに血管の壁が硬くなり、弾力が失われることが原因です。
急に起き上がった時に血圧が低下し脳血流が減少するため、めまい、立ちくらみ、また、眼の前が真っ暗になる人がいます。これを「起立性低血圧」と言い、ベッドに寝ている状態と、ベッドを65度以上上げた状態の、血圧の値を比べて診断します。
正常な人では、ベッドが上がった時に血圧はいったん下がりますが、すぐに元に戻ります。ところが、「起立性低血圧」が疑われる人は、ベッドが上がった時に血圧が下がり始め、下がった血圧がなかなか元に戻りません。また別の方法として、約10分間の安静後に、素早く立ちあがって血圧を測定します。収縮期の血圧が20mmHg以上低下する場合もあります。
なぜ高齢者は、血圧が下がったまま戻りにくくなる「起立性低血圧」をきたしやすいのでしょうか?私たちの頸動脈、つまり頸にある血管の壁の中には、血圧を感知するセンサーである「圧受容器」と呼ばれるものがあり、立位をとると、血液は下半身の静脈に貯って、血圧がいったん低下します。しかし健常な人では、神経の作用により、心臓が収縮する力や血管の抵抗が増加して、血圧はすぐに元にもどります。高齢者では、年齢とともに動脈が硬くなり、血圧の変動に対する頸動脈のセンサーの反応が鈍くなるため、一時的な低血圧が起こりやすくなります。
食後に血圧が低下する場合もあります。食事を摂ると、血液が内臓の血管に集まり手足などの末梢血管抵抗が下がり、心臓や脳の血流が低下します。正常であれば、血圧を感知するセンサーが働き、血圧は低下しません。「食後性低血圧」は年齢が高いほど、また食前の血圧が高いほど、血圧低下の程度が強いことが知られています。
高血圧の人ほど、入浴直後にいったん血圧が急上昇しますが、すぐに血圧が急降下します。入浴後の下がった血圧がなかなか戻りにくいのです。高温、長風呂好きな日本人は「入浴後低血圧」が起こりやすく、風呂場でのめまい、転倒等の事故の原因となり、また入浴時の血圧の急上昇と急降下が、脳血管の破裂や心筋梗塞の発症をきたすことにもつながります。
このように高齢の高血圧症の患者さんは、日常生活中の様々な場面で遭遇する「一過性の低血圧」の危険性を考えておく必要があります。ご心配な方は主治医にご相談ください。