2012年7月
【火曜】 診療報酬改定で何がかわったのか②
今月は、診療所や歯科医院での通院や在宅治療を中心にお話します。
今回の診療報酬改定では、高齢者の治療を医療から介護へ誘導する方向が極めて色濃いものとなっています。
診療所では、複数の医師がいる医療機関や、いくつかの医療機関が連携して在宅医療を行う特別な場合には診療報酬を引き上げました。また、自宅で最後まで看取った場合には高い点数とし、訪問看護師による療養上のケアについても、専門性や訪問回数などにより新たな費用が加わりました。しかし、同じような在宅治療を行っていても、一人の医師だけで在宅医療を支えている多くの診療所の評価は低いままで、全体として在宅医療の受け皿を充実する方向にはなっていません。
今回の改定では、訪問看護を中心とした在宅医療を強化することにより、高齢者だけでなく、がん患者や認知症患者、障害者・難病の子どもたちも、病院から在宅へ移行させ、自宅で最後まで長く治療する流れが作られています。
次に、薬の処方せんでは、医師が薬の銘柄を指定しない「一般名処方」を行った場合に、値段の安い後発医薬品に自由に変更できるようにし、薬剤費抑制を目指しています。
また、医療保険で行うリハビリテーションでは、その種類ごとに算定日数に上限を決め、それを超えた場合には点数を引き下げ、さらに介護保険の認定を受けた人に対する医療保険での算定は原則次回改定までとするなど、医療から介護への強引な移行をすすめています。
以上のような、医療費抑制を目的とした方向は、医療の質や安全性の点から問題点が少なくありません。
一方、歯科医院での診療報酬は、全国で27万人の署名を集め、国会議員へ歯科医療の充実を訴え続けてきた保険医協会などの粘り強い運動によって、歯の根元の処置や歯周病の基本治療、かぶせ物などの一部の技術料が引き上げられました。しかし、過去に何の医学的根拠もなく包括されてきた技術については依然として見直されていません。
歯科の訪問診療については、治療の時間が短い場合に点数が制限されていましたが、少しは現場の状況に近い内容に改められました。また、歯科医療において重要なスタッフである歯科技工士や歯科衛生士の役割に対しても、「歯科技工加算」や「訪問診療補助加算」など、保険医協会などが政府に要求してきた内容が盛り込まれました。
さて、前月と今月の2回にわたって、診療報酬に関してお話してきました。みなさん、お分かりになりましたでしょうか。一般の方には難しい内容だったとは思いますが、全体を通して見れば、今回の診療報酬改定は、「社会保障と税の一体改革」で推し進められようとしている社会保障の切り捨てにつながる改定と言えます。
保険医協会では医療や介護の改善のために、診療報酬や介護報酬を十分に引き上げるとともに、患者さんの窓口一部負担金を軽減して、「保険でより良い医療」ができるような運動を、患者さん・国民とともにすすめたいと思います。ともに声を上げていきましょう。