2016年2月
【木曜】 太腿の付け根の鼠径ヘルニア
「ヘルニア」とは、体の一部が正しい位置からはみ出て元に戻らない状態をいいます。
鼠径ヘルニアは、太腿の付け根の鼠径部と呼ばれる部分から、本来ならおなかの中にあるはずの腹膜や腸の一部が、筋膜の間から皮膚の下に出てくる下腹部の病気です。
一般の方には「脱腸」と呼ばれています。
鼠径ヘルニアは、子どもの病気と思われがちですが、むしろ成人に多い病気です。
初期の症状は、立った時やお腹にカを入れた時に、太腿の付け根の皮膚の下に、腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかい腫れができますが、ふつうは指で押さえると引っ込みます。しかし、腫れが急に硬くなったり、腫れた部分を押さえても引っ込まなくてお腹が痛くなったり、吐いたりする場合は「ヘルニアの嵌頓」と呼び、時には急いで手術をしなければ命にかかわることもあります。
鼠径ヘルニアは、乳幼児の場合はほとんど先天的なものです。成人の場合は、加齢により体の一部が弱くなることが原因で、特に40代以上の男性に多く起こる傾向があります。また40代以上では、鼠径ヘルニアの発生に職業が関係していることが指摘されており、常に腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多くみられます。
治療は手術以外に方法はありません。以前から行われていたヘルニアバンド等で押さえる治療は全く効果がありません。手術は、約30分の時間で、バドミントンの羽のようなものと網目状の薄いシートの2種類を皮膚の下に挿入して、腹膜や腸の一部が皮膚に出ないように補強するのが一般的に行われます。入院期間も短くなりました。
アメリカでは、鼠径ヘルニアで受診する人が年間80万人もいるといわれ、専門の外科医がいるほど一般的な病気です。日本ではおよそ14万人と推定されていますが、多忙のため我慢していたり、「恥ずかしい病気」のイメージがいまだにあるため、受診をためらう患者さんもかなり多いと思われます。
もし、ご自身の太腿の付け根に小さな膨らみがある人は、かかりつけの医師に相談して、外科を受診するようにしましょう。