2019年1月
【水曜】アスベストによる健康被害
アスベストによる健康被害が一挙に社会問題化したのは2005年6月のいわゆる「クボタ・ショック」が契機です。
「石綿」と呼ばれるアスベストは、非常に細く、1本の繊維は髪の毛の5000分の1くらいの太さです。熱や薬品に強く、紡いで織ることもでき、しかも非常に安価であったため、様々な用途で広範囲に使用され、「奇跡の鉱物」と言われました。
一方で、この繊維をいったん肺に吸い込むと体外には自然に排出されません。そのため、数十年経ってから呼吸器系を中心に健康被害をもたらすことから、「静かなる時限爆弾」とも言われています。
アスベストによる代表的な病気には、慢性呼吸不全をきたす「石綿肺」と悪性疾患である「肺がん」と「悪性中皮腫」があります。
石綿肺は、肺が線維化して酸素を充分に取り入れられなくなる病気で、慢性呼吸不全となります。これは高い濃度のアスベストにさらされた場合に起こり、港湾関係や製造工場の労働者が中心でしたが、周辺の環境によりアスベストにさらされた被害者も発生しています。
「肺がん」と「中皮腫(ちゅうひしゅ)」は低濃度のアスベストに長期間さらされた場合に発生するため、労働者だけでなく、工場周辺の環境から住民などが吸い込むことで発病することもあります。胸膜中皮腫は肺を覆っている膜(胸膜)から発生するがんです。非常に悪性度が高く、現在も治療法を研究中ですが、根本的に治すはまだ難しいのが現状です。
アスベストは、建築物や工業製品などに広く使われてきたため、知らず知らずに吸い込むことも考えられますので、アスベストによる健康被害は一部の人だけの問題ではありません。阪神・淡路大震災、東日本大震災の際の倒壊した家屋から飛散したアスベストを吸い込んだ可能性もあります。また高度成長期に建てられた多くの建築物の解体工事によって、アスベストを吸い込む健康被害の増加が懸念されます。
肺がん、中皮腫などのアスベストによる悪性の疾患も、早期に発見されれば有効な治療法に結びつけられる可能性があります。自覚症状の有無に関係なく、毎年胸部のX線撮影による検診を受けることが大切です。また初期の変化は胸部X線撮影だけでは分からない場合があり、特にアスベスト工場のあった地域周辺の住民の方は、数年に一度は胸部CTスキャンによる精密検査も受けられることをおすすめします。