2020年5月
【木曜】肺炎球菌ワクチンの効用
医学界での常識が、世間では全く知られていないことがたくさんあります。ワクチンがその典型例です。
15年前まで、世界の中で日本がワクチン後進国だということは、一般の人たちにはあまり知られていませんでした。小児科医等が懸命に、接種できるワクチンの種類を増やすよう行政に訴えてきたのですが、なかなか受け入れられませんでした。予算のことや副反応が問題だったのです。
しかし10年程前に、状況が大きく変わりました。きっかけは、ポリオの生ワクチンでした。母親たちが生ワクチンの危険性を知り、「不活化ワクチン」と呼ばれる安全なものを早期に導入するよう訴えたのです。これには、行政も動かざるを得ませんでした。改めて、世論の力の大きさに驚かされました。以後小児のワクチン定期化はどんどん進み、その影響は成人にも及びました。
成人用のワクチンは、インフルエンザワクチンが65歳以上の方に定期接種として実施されてきましたが、2014年から成人用肺炎球菌ワクチンも定期接種として実施されるようになりました。ところが、残念な事に接種率は5割そこそこであまり高くありません。このワクチンの重要性が知られていないためだと思います。
がん、心疾患、そして脳卒中が高齢者の三大死亡原因として有名ですが、実は、最終的な死亡原因としては肺炎が最も多く、特に口の中に常在している肺炎球菌を誤嚥し肺炎となる方も少なくありません。私の医院でも、80歳代の患者さんで、突然の発熱と倦怠感で来院され、結局肺炎で入院された方がおられます。誤嚥性肺炎だったのですが、幸いなことに成人用肺炎球菌ワクチンを接種していたおかげか、1週間ほどで無事退院できました。
このように、成人の肺炎球菌ワクチンはたいへん有効です。ぜひ接種して自分を守っていただきたいと思います。