2021年5月
【水曜】 心筋炎とは
心筋炎とは、心臓の筋肉(心筋)に炎症がおこる病気です。心筋になんらかの原因で炎症が生じると、心臓のポンプ機能が低下して心不全を発症したり、危険な不整脈(徐脈や致死的不整脈)を突然生じたりして患者さんの生命や生活を危険にさらすことになります。
急に悪化することが多く、いままで普通の生活をしていた患者さんが風邪や腹部症状を契機にが引き金になって数日後、胸の痛みや呼吸困難を生じて心不全を発症し、全身状態が急激に悪化して最悪の場合、死に至ります。急性心筋炎は心臓突然死の原因の一つです。
心筋炎の原因として一番多いのはウイルスによる心筋炎です。風邪や胃腸炎を起こすウイルスが心臓に感染を引き起こすと心筋に炎症が生じ心筋炎を発症します。インフルエンザウイルスも原因の一つですし、新型コロナウイルスによる心筋炎も報告されています。なぜ特定の人にウイルスにより心筋炎をきたすのか、なぜ一部の人が劇症化するのかはわかっていません。最初の症状は、喉の痛み、咳、発熱などの風邪症状が多く、胃のむかつき、腹痛、下痢、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が数日の経過で悪化していくことが多いです。風邪や胃腸炎と思っていてどんどん状態が悪くなっていく場合は要注意です。
早期診断が時に難しいのが急性心筋炎です。中でも急激に病状が悪化し、通常の治療では救命できない心筋炎があり、「劇症型心筋炎」と呼ばれます。劇症型心筋炎は20~30年前までは救命困難でしたが、心停止に至るような症例や極端な心機能低下の症例でも、ECMO(体外循環装置)を装着することで救命できるようになってきました。さらに最近では、カテーテル式補助人工心臓(Impella)を単独あるいはECMOと組み合わせることでさらに救命率が上がっています。これらの補助循環装置を常に準備できる施設は限られてはいますが、適切な初期診断・治療を施すことによって専門病院では半数以上の方が救命できるようになっています。
心筋に生じた炎症により細胞が広範囲に破壊されると心臓の機能障害が生じます。一命を取り留めても高度な心筋障害により、心筋のダメージが残り、慢性心不全で苦しんだり、心臓移植が必要になることもあります。
風邪だと思っていても胸痛や呼吸苦など胸の異常や脈の異常などに気づいたら早期に医療機関を受診することをお勧めします。