2021年6月
【月曜】子宮頸がんとワクチンについて
長年、癌の直接の原因は不明でしたが、ここ20~30年の間に、原因のはっきりしてきた癌も見つかってきました。肝がんと肝炎ウイルス、胃がんとピロリ菌や乳がん・卵巣がんと遺伝子変異などが有名です。
その中でも、子宮頸がんは特別です。1983年にヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸がんの原因であることが発見されましたが、癌の中でもこれほど因果関係のはっきりしたものは子宮頸がんだけです。女性の80%は、生涯に一度はこのウイルスに感染するとされています。多くは自然消滅するものですが、何度でも感染し、その一部(1000分の1)が癌に進行します。そして、2006年にHPVに対するワクチンがアメリカで開発され承認されました。これにより、子宮頸がんはワクチンで予防できる唯一の癌となったのです。画期的なことです。
子宮頸がんは20代から増加して40代にピークを迎えます。我が国では、年間11,000人が子宮頸がんに罹患し、約2.800人が死亡しています。ごく初期のがんに対して行なう子宮の一部を切除する手術は年間11,000件を超えています。また、子宮頸がんにより妊娠の可能性を失う手術や放射線治療を要する20代・30代の女性が年間1,200人もいます。
一方、日本における20~29歳の3万人以上の子宮頸がん検診受診者を解析したデータでは、ワクチン接種群からの初期がん発生率はゼロであったと報告されています。極めて有効率の高いワクチンだと言えます。ただ、すべてを予防できるわけではないので、ワクチン接種者も定期的な子宮頸がん検診が必要です。
最後に、ワクチンの副反応についてお話します。HPVワクチン接種後の健康被害に関するマスメディアの報道以降、HPVワクチンについて見直す動きがありました。2013年6月以降は、定期接種でありながら、接種を積極的に勧めることをやめる事態となり、現在7年以上経過しました。その間に、多くの安全性に関するデータが国内外から発表され、蓄積されてきました。その上で、HPVワクチンによる癌予防という大切な目的を考えると、積極的にワクチン接種をすすめるべきだと考えます。いま、小児科学会と産婦人科学会はこのワクチンの啓発に努めています。