2024年3月
【火曜】人生を豊かにする口の役目
早速ですが、皆さんはどんな食事がしたいですか?
行列のできるお店で食べてみたい、きれいに盛り付けられた料理を食べたい、気の置けない仲間と楽しく、おしゃべりしながら食事をしたい。なるほど、そんな食事がいいですね。
でもなぜでしょうか。動物はそんな食事を望みません。生きるための栄養が摂れればそれでいいのです。人間だけがそんな食事を求める、それはなぜでしょうか?その理由は「人間は心で食べる」からです。つまり人間にとって食事は単なる栄養補給ではなく、心を満たすための大切な行為なのです。
その食べるための大事な口に、いま異変が起こっています。やわらかい食べ物が増えたせいで、普段からしっかり咬まない。そのためしっかり咬めない口が子どもや高齢者を含めて増加しています。しっかり咬まない食事、それでは調味料の味しかわかりません。しっかり咬んでこそ、食材そのものがもつ味わいが分かるのです。そして、それこそが豊かな食事といえるのです。
どんな高齢者施設でアンケートをとっても、楽しみの第一位は食事です。人生の最後まで残る喜びは、食べることなのです。
歯科医師として終末期の方の訪問に行くことがあります。ご存じないかもしれませんが、口から食べられなくなると、口はとても不潔になります。痰とかさぶたで汚れた口の中に、歯科衛生士が口腔ケアを行います。そしてその方を見送った後、ご家族からこう言われることがあります。「口をきれいにしていただいたおかげで、しゃべられなかった母がしゃべられるようになり、お別れの会話ができました」、「口を触っていただいて、口が動くようになり無表情だった父の笑顔が最後に見られました」。
皆さん、口って大事だと思いませんか?もし具合の悪いところがあれば、そのままにせずにきちんと治して、普段からしっかりと硬いものも咬んで、一生おいしく食べられる口を維持してください。