女性医師・歯科医師の会
[インタビュー]遠回りしたから今の自分がある
2010.04.15
三田市 武本 淑子
私が23歳のとき、弟が難病にかかり神戸大学病院に入院。付き添いを要したため父親の会社を辞めて病院に泊まりこみました。約半年間、多くの患者や家族、病院で働く若い看護師たちと話をする機会を得ました。
弟がリハビリ病院に移り暇になった私は、たまたま同病院研究室で仕事をする機会に恵まれました。学位取得の大学院医師のアシスタントとして、研究室で試験管を振る毎日。医師たちに囲まれ、かわいがってもらいました。
医師たちの勤勉さ、もののとらえ方、観察力の深さなど非常に多くを学びました。一方、医師中心ですべてが機能する病院の中で、医師以外の大勢のスタッフたちの気持ちを、その一人として実感することもできたのです。
実験にも慣れた頃、上司に「アメリカだと重宝されるだろう」とおだてられ、その気になって(笑)。アメリカ訪問中、ひょんなことから肝移植で有名だったコロラド大学の Dr.Starzleの研究の生化学実験を担当する大役に抜擢されました。1年間と短い期間でしたが、日本の比ではない実験のボリュームや経済力に圧倒させられました。
帰国後、再び研究室に戻り実験生活を再開しましたが、アシスタントとしては物足りなく、いっそ医師になろうと。自信はありませんでしたが仲間の医師たちが応援してくれ、またまたその気になります。無事医師となり研究に進もうと考えていましたが、すでに母親になっていたため断念し、臨床医の道を選びました。
かつて弟が入院中、主治医が来てくれるのを1日中待っていたことが忘れられません。今、患者の主治医となりその経験が生きています。開業して20年たちますが、仲良く仕事をした大学病院時代の看護師、技師たちからは今も年賀状が届きます。
振り返ってみると、現在スタッフや患者に恵まれているのは、遠回りしてきたからこそではないかと思うのです。病気と闘った弟、研究室の先生方、アメリカでのチャンスが、私を医師に導いてくれたと感謝しています。