女性医師・歯科医師の会
女医の会インタビュー(25) 障がい児者の療育 医師として支える
2018.08.05
女医の会インタビュー25 障がい児者の療育 医師として支える
北区・にこにこハウス医療福祉センター 八木麻理子
現在、障がい児者の療育を行うセンターで診療部長を務めています。
神戸大学では、ヨット部の活動に打ち込みました。高校生の時に読んだ小説の、登場人物がヨットに乗るシーンに憧れ、大学ではヨット部に入ろうと決めていたんです。当時、女性部員はおらず、入部希望を伝えると皆さん戸惑っておられました。でも、受け入れていただき、入ったからには絶対にやめないと決めて、がんばりました。決めると、突き進んでしまうところがあるんです。
子どもが好きで、小児科を選びました。いくつかの病院勤務を経て、その後の進路を考えていたとき、製薬会社で開発に携わっていた父の「基礎から医学を見る目もあった方がいい」というアドバイスを受け、大学院へ。筋ジストロフィーをメインに、先天代謝異常や染色体異常の遺伝子の診断など、13年間研究を深めました。父の言った通り、視野が広がったと思います。
ただ、研究によってより良い治療法が開発され、子どもたちの症状を改善できた病気もたくさんありますが、完全には治らない場合もあります。ある先天代謝異常の子は、家系内の同じ病気の子が乳児期に亡くなったため、妊娠中から病気の可能性を考えて準備し、生後すぐに治療を開始できました。その結果、亡くなった子はずっと寝たきりでしたが、その子は、軽度の遅れが見られるものの、走ることも会話もできるようになりました。
私たち医師は良くなったと喜んだのですが、お母さんから「今の発達の遅れにはどうしたらいいの?」と問われ、考えさせられました。ただ症状を改善するだけでは医療者の自己満足なのではと思ったのです。そこで、子どもたちに対する療育に関わりたいと、教授に異動を願い出て、1年後にこのセンターに赴任しました。
センターでは、常勤医師4名(非常勤10名)、職員約200名が、医療的ケアが必要な方も含めた重症心身障がい児者の入所(約80名)・入院と、在宅支援、発達障害も含めた障がい児者の外来診療・リハビリを行っています。
子どもたちが抱える症状はそれぞれで、何が正解なのか、どこまでの医療を行うべきか、常に悩みます。医師として、何年後にはどんなリスクがあり、何が必要か考えながら、それぞれの子ども、ご家族とともに、どのような療育・医療行為が必要か決めていきます。
障がいと一口で言っても、困難があるのが運動面か、認知機能か、コミュニケーションなのか。呼吸機能や摂食嚥下機能はどうなのか。さらにその程度や組み合わせも一人ひとり違います。必要なサポート内容も違い、もっと広い社会的な支えが必要なのですが、行政の方でもなかなか、障がいを持った方たちの現状をご存じありません。
彼らの存在を少しずつでも知ってもらうことが必要と感じています。他の医療機関とも協力しながら、症例をまとめて、広く発信し、知らせていきたいというのが、今後の目標です。
保険医協会には保険請求の際に、お世話になっています。外来は完全予約制ですが、何かお困りのことがあればお電話ください。
(聞き手 西山裕康理事長)