女性医師・歯科医師の会
女医の会インタビュー(27)歯科治療を通して子どもに向き合う日々
2019.04.25
歯科治療を通して子どもに向き合う日々
北区・歯科 井尻 利枝子先生
1990年に小児歯科専門で、一般歯科の主人と共にこの北区で開業し、2012年夫の急逝に伴い院長として無我夢中で進んできました。来年で30周年を迎えることができますのも皆さまのお陰だと本当に感謝しています。小児歯科は子どもたちが治療を怖がり、泣いてしまったりと難しさもありますが、とてもやりがいがあります。
実はもともと子どもは苦手でしたが、大学でお世話になった教授に進路について相談したところ小児歯科を勧められ、不安な気持ちも抱えながら卒業後の勤務先で大変多くのことを学ばせていただいて小児歯科がどんどんおもしろくなっていき、子どもが大好きになりました。
多くの医院ではキッズスペースが待合室にありますが、私の医院では治療室の中に設置しています。どんな治療をするのか興味がある子どもは近づいてきて治療している様子をじっと観たりします。キッズスペースが治療室の中にあることで、子どもがリラックスして治療に臨むことができるので私はこの場所を「癒しのスペース」と呼んでいます。こちらも子どもの性格や気持ちの変化等にもすぐに気づくことができるので、この「癒しのスペース」は重要な役割を果たしています。
歯科治療を怖がる子とは、治療に入る前に、写真入りの手作りのカードを使って治療の進め方を一つひとつ一緒に確認します。また、歯が付いた人形をチェアに寝かせて、「歯医者さんごっこ」もしてもらいます。子どもは実際どんな治療をするのか分からないから不安になるので、ぬいぐるみを患者に見立てたカードで見たり、歯を削る機械を持たせたりすることで、恐怖心を和らげていきます。「歯医者さんは怖い場所ではない」ということが理解できれば、子どもは素直に治療に協力してくれます。来院を楽しみにしている子どももいます。
開業した当初は、むし歯だけ治療してほしいという要望が多く、予防歯科の重要性は認知されていませんでした。しかし、ブラッシングや食生活の指導などを行っていくことで、最初はなかなか受け入れられなかったことが、だんだん浸透させることができました。10年ほどかかりましたが、考え負けずに続けることで理解が広がったんだと思います。
私にも2人の子どもがいます。診療をしながらの子育てで、大変なこともありましたが、赤ちゃんホーム、保育園、学童保育にもお世話になりながら、何とか両立することができました。保護者の方から子育ての悩みを相談された時は、「私も同じようなことを経験したよ」と伝えながら、保護者の方に寄り添えたらと思っています。
小児歯科は診療報酬が低く、小児歯科だけでは経営的にやっていけません。低診療報酬のため小児歯科医のなり手が不足していま す。協会にはぜひ小児歯科の診療報酬引き上げに対してもさらに声を上げていってほしいです。
今年の3月には保団連近畿ブロックの歯科診療報酬の改善を求める厚労省要請に初めて参加しました。新たに「口腔機能発達不全症」の病名が前回改定で評価されたものの、使いづらい患者提供文書になっている件など、直接厚労省に要請できたことは貴重な経験となりました。