環境・公害対策部だより
理事会特別討論 和田 武 日本環境学会会長 講演録 市民の力で脱原発・再生可能エネルギーへ
2013.04.05
協会が昨年10月13日に行った理事会特別討論「エネルギー政策と再生可能エネルギー普及」の講演録を掲載する。
21世紀は持続可能なエネルギー社会をつくっていかなければならない。現在主流のエネルギーは、原油が40.5年、ウランが71年で枯渇するとされている。
地球温暖化防止のためのCO2削減を口実に日本だけが原発を増やし続け、原子力を国の基幹エネルギーとしてきた。再生可能エネルギーはOECD諸国や世界中で増えているのに、日本ではむしろマイナスになっている(図1)。
原発は事故の危険性のみならず、途上国に技術輸出することによる核の拡散などの危険もある。さまざまな問題のある原子力に頼っていてはならない。
昨年8月に行われた政府のパブリックコメントでは、2030年時点での原発「0%」が最多の支持を集めている。その中の大部分が、コストがかかっても再生可能エネルギーの拡大を望んでいる。再生可能エネルギーを普及していくという方向は、もはや避けられない潮流となっている。
実は十分にある再生可能エネルギー
再生可能エネルギーは太陽由来のもの、地球由来のものなどがある。その名の通り枯渇せず、資源コストはほとんどかからない。
世界のエネルギー消費量は約467EJ/年だが、現在の技術で取り出せる再生可能エネルギーのポテンシャルはこれを圧倒的に上回る。また、利用可能な再生可能エネルギーの総量は、これから技術が発達すればさらに増えるため、充分に世界のエネルギー需要をまかなうことができる(図2)。
日本は再生可能エネルギーの資源がないと言われてきたが、最近の環境省の試算では、そのポテンシャルは21億kWで、稼働率を考えても年間の総電力量は5兆kWh超にもなる。2009年の日本の年間発電量は1兆1000億kWなので、総エネルギーを十分にまかなえる計算だ。
もう一つ重要な点は、エネルギーの存在形態だ。原子力や化石燃料などは特定地域に集中して存在するが、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは少量ずつだがどこにでも存在する。
この特徴のため、再生可能エネルギーによる発電・供給は小規模分散型になる。一般的な住宅の屋根にある太陽光パネルは3~4kWだが、これで原発1基と同じ100万kWにしようとしたら25~34万世帯の屋根につけなければならない。このように、再生可能エネルギーは広範な市民が主体となる必要がある。
日本は有数のエネルギー資源国
世界の再生可能エネルギーの動向をみると、太陽エネルギー、風力、バイオマスなどが急増している。
どのような国の再生可能エネルギー比率が高いかというと、実は日本によく似た山岳国、森林国だ。このような国では水力発電が使えるし、森林資源を用いたバイオマスも利用できる。日本は有数の再生可能エネルギー資源国なのである。
ドイツやデンマークなどは、実は緯度が高いため太陽光発電の資源に乏しく、風力や麦わらなどの農業廃棄物のバイオマス利用が中心となっている。
ドイツやデンマークで再生可能エネルギーの利用が飛躍的に伸びている理由には、もちろん国による推進政策があるが、市民や地域が主体になっていることも重要なポイントだ。市民主体ならば反対運動は起きにくく、普及は進みやすい。また、普及によって雇用の創出など社会に好影響があることが大きい。
市民中心のエネルギー政策
日本とドイツ、デンマークの政策を比べてみよう。まず、温室効果ガスの削減目標がまったく違う。また、日本は温室効果ガスの削減のために原発を進めているが、デンマークは原発不所持、ドイツは段階的廃止を決定している。
デンマークやドイツをはじめ、多数の国が採用しているのが、再生可能エネルギー普及のための、電力買取補償制度(FIT:Feed-in Tariff)だ。これは再生可能エネルギーによって発電された電力を一定価格で買い取るよう電力会社に義務づけるもので、発電設備の所有者は売電収入が得られるようになっている。発電設備の所有者が損をせず、再生可能エネルギーの導入コストを、社会全体で負担する仕組みだ。
経団連など経済界は、この買い取り制度に一貫して反対してきた。昨年7月にやっと日本は買い取り制度を導入したが、そのときにも需要者の負担増をあげて反対した。
デンマークでは、70年代の石油危機の際、市民が中心となって風力発電の設備を作った。現在デンマークの風力発電は国全体の30%の電力をまかない、その風車の約80%が住民所有となっている。
実はデンマークには、たとえ企業が建てた風車であっても、出力の20%以上分を地域住民所有にしなければならないという決まりがある。地元に関係ない大企業がよい土地を買い占めて風車を建てれば、周辺住民との間に訴訟や反対運動が起こったりもする。しかし市民が、自分の小麦畑などに風車を建てればそういったことは起こらない。
一方、ドイツでは、2000年に全再生可能エネルギー発電を対象に電力買取補償制度を導入し、11年には原発の発電量を上回る総電力の20%を再生可能エネルギーで発電している。
たとえば、北ドイツのシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州は電力の46%を風力発電で供給しているが、風車の90%以上は地域住民が導入したものである。
同じドイツで、北海の埋立地のフリードリッヒ・ヴィルヘルム・リュプケ・コーク村では、過疎化が進む中で村を活性化させようとはじめは一部の村人が風力発電を導入し始めたが、今では村で使用する電力の500倍を生産するようになった。また、はじめに取り組んだ人の年間収入は500万円近くになり、出て行くはずだった子どもたちが地元に残るなどの効果も出ている。
売上高288億ユーロ雇用は2.3倍に
経済や産業への影響で言えば、日本では再生可能エネルギーはコストが高く、悪影響を与えると言われている。しかしドイツの再生可能エネルギー産業は成長を続けており、総売上高は2008年には288億ユーロとなっている(図3)。
また、再生可能エネルギー関連産業での雇用創出はこの6年で2.3倍となり、2010年には37万人に上っている。
また、ドイツやデンマークは国際再生可能エネルギー機関(IRENA)などの設立に主要な役割を果たしている。アフリカや中東などの途上国が加盟しており、それらの国の再生可能エネルギー普及の主導的役割を担うことになるだろう。
このように市民・地域主導の再生可能エネルギー普及には、地球環境の保全だけでなく、産業や雇用の創出、農山村の発展、エネルギー自給率の上昇など、多くの好ましい社会的影響がある。
市民への還元がカギ
これまで、日本の再生可能エネルギーに関する政策はとても貧困だった。しかし、貧困な政策のもとでも、日本の市民や自治体は再生可能エネルギー普及を推進してきた。太陽光発電は80%が市民の住宅に設置されたものだ。
また、2007年時点で市民共同再生可能エネルギー発電所は185基あり、1万5千kW以上の設備があったが、いまでは数百基になっていると思われる。買い取り制度のない2009年以前には、導入すれば確実に損をするにもかかわらず、市民は導入を進めてきたということだ。
2012年7月、日本でもやっと再生可能エネルギーの電力買い取り制度(再生可能エネルギー特措法)ができた。買い取り価格は私も専門委員会の委員として議論し、やっと導入者がほぼ損をしない価格で決定することができた。
しかし、まだ問題はある。ドイツなどでは発電に向いている土地には電気を送る高圧線が整備されているが、日本ではまだまだだ。これでは導入した人が自分で高圧線をひかなければならず、赤字になってしまう。
いずれにしても、買い取り制度ができたことは画期的だが、これで普及が進むと安心してはいけない。この制度ができ、ソフトバンクなどが太陽光発電を導入すると表明し、実際に進んできているが、企業だけが収益をあげるようではいけない。電気料金という形で買い取り価格を実際に負担するのは市民なのだから、市民や自治体に利益が還元されるようにならなければいけない。電気料金の負担感だけが残るようでは、進まなくなってしまう。
地域の資源は地域で活用を
地域に建設された再生可能エネルギーは地域の資源だ。これを地域が主体となって活用していくことが必要となる。たとえば福島県では、農地として使えない土地に太陽光発電パネルを置いて、産業を創出しようとしている。
今まで地方に建設された風力発電施設などは、ほぼ東京資本だった。しかし自治体、市民などの地域主導で取り組むという試みが、秋田県などさまざまな地域で始まっている。これまでと同じように、私たちが電気を大企業に任せきりにしていたら、日本の買い取り制度は間違いなくつぶされてしまう。この法律は3年ごとの見直しが義務づけられており、この3年でどのくらい地域主体での普及が進むかが分かれ目となる。
これから再生可能エネルギーの普及を進めれば、原発もやめられ、二酸化炭素を削減して温暖化も阻止でき、世界でも最低水準のエネルギー自給率を上げることができる。地域の若者に魅力ある産業となることで、農山村地域の活性化も可能となるだろう。
最後に、エネルギーのことを現在世代の利害で考えることはやめよう。将来世代のために脱原発と再生可能エネルギーの普及を推進し、持続可能な社会へと発展させよう。
【わだ たけし】京都大学工学部卒業、同大学工学研究科修了。元立命館大学教授、工学博士。専門は環境保全論、資源エネルギー論。主な著書『脱原発、再生可能エネルギー中心の社会へ』(あけび書房)、『飛躍するドイツの再生可能エネルギー』(世界思想社)など。