環境・公害対策部だより
民医連避難者健診 参加記
2015.03.05
福島第一原発事故による県内避難者を対象とし、2月11日に実施された健康診断(兵庫県民主医療機関連合会の主催、前号既報)で診察に参加した辻一城理事、山中忍理事の参加記を掲載する。
消えることない 子の健康への不安 小児科 辻 一城
私は、震災・原発事故発生後約2年半が経過した2013年8月の第1回にも参加したので、今回が2回目の参加です。
第1回は初めての試みであったこともあり、健診スタッフも受診される避難者もどこか緊張していたように思いました。このたびは、主催する民医連の方々もすっかり要領を得て、受診される側も2~3回目の方が多く、子どもを含む家族連れが集まる、和やかな雰囲気の健診会場でした。震災後もうすぐ4年が経過するので、健診対象ではない1~3歳の子どもたちの姿も散見され、時の流れを感じました。
健診は、診察、血液・尿検査に加え、心電図や甲状腺エコー、また、今回は山中先生の眼科検診も加わり、一般の健診では受けられない充実した内容です。
参加者の特徴ですが、参加した40人のうち、小児が25人と半数以上で、2回目以降同じ傾向が続いています。これは、避難者が子どもの健康について特に不安を感じておられる結果だと思います。健診を受けるのには格安ながら自己負担もあるためか、親は受けずに子どもだけ受けられる家族もおられました。
私が診察した子どもたちの親御さんにも、特に子どもの甲状腺のことを心配されている方が多く、時とともに消えることがない原発事故の結果の甚大さを改めて感じました。
私たちの兵庫県に落ち着かれた避難者の皆さまを、医療面で支えるこのような活動はたいへん意義深く、今後も続ける必要があると思います。
継続した検診が必要 眼科 山中 忍
緒言
このたび、民医連主催の福島原発事故関連の自主避難者健診に協会所属の眼科医として参加し、貴重な経験をさせていただいたので報告する。
方法および対象
対象は福島第一原発事故関連の避難者で兵庫県内に居住し、このたびの健康診断(検診)を希望された方々である。
年齢は4歳から54歳、男性18人、女性22人であった。幼児が11人、小学生10人、中高生5人、成人14人であった。
眼科検診としてストレス性視力障害を考慮すれば、矯正視力と屈折検査と眼底撮影が必要不可欠な検査と判断し、さらに下記眼圧検査および前眼部撮影を実施した。
①弱視児童を早期に発見できる両眼開放オートレフ機器を持ち込み、精度の高い屈折検査を実施
②検眼レンズなどによる矯正視力検査
③無散瞳眼底カメラ(眼底後極部主要網膜の異常の有無)
④眼圧検査 アイケア使用
⑤前眼部撮影 眼科検査の主要機器が移動困難なため、特殊マクロカメラで撮影
検診結果
矯正視力が1・0に満たなかった者が4人。そのうち5歳児が3人であったが、いずれも矯正視力は0・6以上であった。両眼開放オートレフでは若干名の中等度の遠視や乱視が発見、認められたが、年齢を考慮すれば明らかな小児の視力障害や弱視は認められなかった。眼底カメラと矯正視力0・8の結果から成人の1眼に黄斑部疾患が疑われた。
前眼部の異常としてはアレルギーを認めた者が2人と、片眼に水晶体の軽度の混濁を認めた者が1人存在した。
総合的判断としては、要経過観察7人となり、40人中27人には何も異常が認められなかった。
最終判断として眼科受診必要者は6人に促した結果となった。
考察及び結語
今回の検査だけでは、要経過観察および眼科精密検査必要と判断された13人に関しては、福島原発事故や震災に直接関与したとは現時点では断定できない。しかし、眼底黄斑部の異常はストレス性による可能性があり、さらなる精査の結果が必要不可欠であると判断する。また目の疾患は自覚症状が乏しく経時的な経過観察の必要性が再認識された。
今回の検診では、小児のストレス性視力障害は認められなかった。しかしながら、避難者ではない神戸の一般の日常診療では、小児のストレス性視力障害が年々明らかに増加しているため、自主避難者検診における精密な矯正視力検査は重要であると判断した。