環境・公害対策部だより
関西電力赤穂発電所の石炭への燃料転換を許さないパブリックコメントの提出を
2015.12.07
環境・公害対策部長 森岡 芳雄
関西電力は11月10日、関西電力赤穂火力発電所における燃料を重油・原油から石炭へ転換した際、将来どれくらい環境に影響を与えるのかをまとめた文書(環境影響評価概要書)をウェブサイトで発表しました。12月10日までの意見募集を経て概要書が決定され、石炭への燃料転換が行われようとしています。
関西電力によれば、石炭火力発電所への転換が行われると、その後の発電所からのCO2排出量は約670万トンにもなります。家庭や工場、交通等をすべて含めた赤穂市全体の年間CO2排出量が約400万トンであることからも、この関電の計画の影響の大きさがわかります。
また、この概要書によれば、関電が導入する予定の技術は、最新・最良のものでもなく、水銀等の重金属類、チッソ酸化物等の大気汚染物質を排出し、環境負荷も大きい石炭火力発電所は新増設すべきではありません。
協会はいのちと健康を守る医師の団体として、石炭火力発電所への転換に懸念を示すパブリックコメント(下)を提出予定です。
協会会員の先生方のご意見をぜひパブリックコメントの形で投稿していただいて反映していただければと願っております。よろしくお願い申し上げます。
提出先は、住所・氏名を明記の上、〒530-8270、大阪市北区中之島3丁目6番16号関西電力株式会社火力事業本部環境管理グループ宛に書面にて郵送ください。12月10日まで。詳細はこちらhttp://www.kepco.co.jp/corporate/energy/thermal_power/environment/inspection.html
「赤穂発電所におけるボイラー・燃料設備改造に係る環境影響評価概要書」に対する意見書(案)
兵庫県保険医協会環境・公害対策部長 森岡 芳雄
発電所アセス省令第13条の規定に基づき、環境の保全の見地からの意見を、次のとおり提出する。
1、自主アセスについて
①本「概要書」は、行政機関での縦覧および関西電力のホームページでの公表が行われているが、著作権の問題があるとして公表は縦覧期間内のみで、ホームページからダウンロードも印刷もできない。11月18日の説明会で、印刷もダウンロードもできない理由に「国土地理院長の承認がいる」としているが、国土地理院は「認めるか認めないかは作成者が決めること。承認は必要無い」と述べている。他の電力会社やJパワーの意見公募ではいずれも可能で、内容をきちんと検討するためにはごく当たり前の対応である。印刷もコピーも可能にし、環境影響評価概要書縦覧手続きをやり直すべきである。
②縦覧場所を赤穂市と兵庫県庁に限定し、説明会もその地域に限定しているが、環境汚染物質はそのような狭い範囲でとどまるものではない。せめて50km圏内全ての行政で環境影響評価概要書縦覧手続きをやり直すべきである。
③いくつかの調査項目で、現地調査を春・夏・秋に行うとしているが、冬も行うべきだ。気温が10℃を下回ると煙突からの排煙が白く見える。全ての項目で四季を通じて現地調査を行うべきだ。
④「環境基準以内であれば、多少大気汚染物質を排出しても構わない」という主張は間違いである。チッソ酸化物でいえば、20ppb以内が40~60ppb以内に変更されたとき、「現状を改善することはあっても悪化させない」ことが前提条件とされていた。石油と石炭では、含有成分がまったく違い、排出される大気汚染物質も違ってくる。大気汚染物質の排出をできる限り抑えることを求める。
2、CO2排出と熱効率について
①温室効果ガス(CO2)について、石炭は、化石燃料の中で最も多くのCO2を出し、PM2.5や水銀を含む重金属類を排出する最悪の燃料である。最新鋭とするボイラーは超臨界圧で38%の熱効率しかなく、最新鋭の設備ではない。さらに、設備改造後の発電電力量あたりの二酸化炭素排出量は約800g-CO2/Kwh、年間の二酸化炭素排出量は約670万t-CO2/年であり、LNGコンバインドサイクル発電の熱効率60%、発電電力量あたりの二酸化炭素排出量327g-CO2/Kwhとは比べものにならない。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書は、「温暖化ガス削減は一刻の猶予も許されない」と警告し、世界の国々が真剣に温暖化ガス削減に取り組み、EU諸国やアメリカは石炭火電の縮小・廃止をめざしている。石油からLNGへの転換は理解できるが、石油から、より温室効果ガスを排出する石炭への燃料の転換は論外である。
3、重金属類について
①重金属類について、「最高の環境対策設備でほとんど捕集して煙突からでない。」としているが、産炭地により含有成分が違う。炭種毎の成分表及び燃焼過程における移動量を明確にし、ガス酸化剤による水銀蒸気捕捉システムなどの最新設備を導入し、低減するよう求める。
②石炭火力発電所稼働後の石炭灰などの産業廃棄物の処理について、他社への委託処理により適切に処理され、セメントや道路舗装用の材料として再利用されているとするが、こうした石炭灰の処理・再利用における水銀など重金属環境汚染もまた問題になっている。一部は管理型最終処分場への廃棄を必要とするものとなる。環境影響概要書に最終処理に至るまでの全容を記載し、明らかにし、その最終処理責任を関西電力が負うべきである。また、引き取り専門業者やセメント業者と水銀等の有害重金属類を除去して原材料として使用する取り決めをつくるよう求める。
4、評価項目・評価対象について
①石炭火力発電所稼働により、汚染が悪化することが予想される。微粒子状物質(PM2.5)を評価対象に加えるべきである。
②光化学オキシダントを評価対象に加えるべきである。
③大気汚染物質の拡散予測では、正確な中層・高層の気象データの利用が不可欠であり、地表付近の気象データと中層・高層はまったく異なっている。四季を通じた中層・高層気象観測を実施しなければ正確にシュミレーションできず、正確な評価と言えない。簡略化条件に適合させてはならない。
④調査項目に船舶の影響調査を加えるべきだ。石炭運搬船が1年間で300~600隻入出港する。(1万トン~五千トン)それに加え、石膏や石炭灰の積み出し船の入出港もあることを考えれば、調査項目に加えることを求める。
⑤現況環境影響調査に土壌調査や生物体内蓄積調査、成長調査を加えるべきである。汚染物質は土壌に堆積したり、蓄積したりする。水銀などは動植物の体内に蓄積される。環境汚染は動植物の成長に影響を与える。それぞれの環境汚染物質に対して、最高濃度予測地点における化学物質や重金属の土壌調査や動植物内の蓄積量動植物への成長影響調査を行うべきである。
⑥近々に予想される南海トラフ大地震などへの耐震性、対災害性、被害予測について、海岸沿いの火力発電所として、充分に検討されていない。検討は必須の環境要件である。