環境・公害対策部だより
関西電力高浜原発1・2号機の再稼働を許さないパブリックコメントの提出を
2016.03.11
環境・公害対策部長 森岡 芳雄
福島第一原発事故から5年が経ち、事故が収束していないなか原発の再稼働が進められています。高浜原発3・4号機につづき、運転開始から40年を超えた老朽原発である高浜1・2号機についても、原子力規制委員会は再稼働の前提となる新規制基準に「適合」したとする審査書案をまとめました。3月25日までの意見募集(パブリックコメント)後、意見書が決定され、地元同意等を経て、再稼働が狙われています。
協会はいのちと健康を守る医師・歯科医師の団体として、老朽化や地震対策などの問題点を指摘し、安全性に懸念を示すパブリックコメント(下)を提出します。
会員の先生方のご意見をぜひパブリックコメントの形で投稿していただいて、原子力規制委員会へ届けてください。
提出先は、住所・氏名・連絡先を明記の上、FAX:03―5114―2179、原子力規制庁安全規制管理官(PWR担当)宛て。原子力規制委員会ホームページ(http://www.nsr.go.jp/)からも提出できる。
「関西電力株式会社高浜発電所1号、2号、3号及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集について」への提出文
団体名 兵庫県保険医協会
意見提出者 環境・公害対策部長 森岡 芳雄
われわれは、いのちと健康を守る医師の団体として、下記の点から、本審査書で認められた関西電力株式会社高浜発電所1号、2号、3号及び4号炉の安全性に対し、科学的・技術的に懸念があり、再稼働に反対する。
1.そもそも原発稼働により産出される放射性廃棄物の処理方法が確立していない。
2.原発内に保存される使用済み核燃料の保管状態は福島第一原発事故以来、非常に危険性の高いものであることが判明しているが、これについて何ら検討が加えられていない。
3.原発の使用済み核燃料について高浜原発の1~4号機が動いた場合、7~8年後にプールが満杯になる。実際は高浜3号機がすでに稼働しており、7~8年を経ずに、使用済み核燃料を置くところがなくなってしまうにもかかわらず、対策がなされていない。
4.本審査の基準となる新規制基準そのものが、欧州加圧水型原子炉の安全設備と比較して、(1)安全上重要な系統設備の多重性として、独立した4系統が求められているのに対して2系統しかない、(2)原子炉圧力容器外に流出した溶融炉心を格納容器内に貯留するコアキャッチャーの設置が求められていない、(3)大型商用航空機の衝突に耐え、設計圧力を高めた二重構造の格納容器の設置が必要とされていない、(4)サイバーテロへの防御の検討が不十分である、(5)1基あたり数百キロメートル使用されているとする可燃ケーブルへの対策は難燃ケーブルへの交換ではなく可燃ケーブルに防火シートを巻くことで対応しており、対応が不十分である。さらに、新規制基準に「適合」し、発電と送電を準備していた高浜原発4号機において、2月20日に1次系統の冷却水漏れを起こし、29日には緊急停止しているが、原因が解明されていない。このことは原子力規制委員会による審査そのものが提出書類を中心とした再稼働ありきの審査であり、審査基準として不十分であることを証明している。審査に合格したからといって安全性が保障されたとはとうてい言いがたいものである。
5.1・2号機はいずれも運転期間が40年を超えているが、運転期間延長の科学的根拠となるべき鋼鉄の経年的中性子照射脆化に対する確たる知見は未だ存在していない。原子炉等規制法の「原子力発電所は運転開始から原則40年で廃炉に」というルールは、放射線により原子炉圧力容器が劣化し、危険だとの理由で定められたものであり、その他の機器類を新しいものに変える等の対策でどうにかなるものではない。
6.「Ⅲ―1 地震による損傷の防止」で、耐震設計の目安となる基準地震動を、最大700cm/s2(700ガル)としたが、2007年の中越沖地震で東京電力柏崎刈羽原発1号機は1699ガルを経験していることから、この基準地震動はかなり低いと考えられ問題である。
7.同じ福井県内に大飯原発、美浜原発、敦賀原発があり地震等で同時多発事故の可能性がある。いずれか一つの原発でも事故が起きれば、放射性物質の拡散等、他原発の作業ができない恐れがある。集中立地のリスクを検討すべきである。原子力規制委員会田中俊一委員長はかつて記者会見で、広域的な影響の前に事故は収束でき、集中立地のリスクを検討する必要はないと述べたが、各原発で対応、事故収束できる科学的根拠はない。
8.発電所と外部を結ぶ道は1本しかなく、この道路が災害等で寸断された場合、発電所が孤立する危険性があるが、このことに対し検討がなされていない。
9.福島第一原発事故から、万が一事故が起きたときの避難計画の策定が安全性の確保のためには必須である。チェルノブイリ事故後、IAEAが定めた規制対策には「過酷事故時発生対応」として周辺地域に対する緊急避難などの対策が加えられたが、日本ではこれを地元自治体の責任としている。30キロメートル圏内に住む福井県四市町55,000人の90パーセントが30キロメートル圏外に避難するまで最長11時間10分もかかる。最大20,000台の自家用車が移動し大渋滞を引き起こすと想定されている。放射性物質が拡散する中、被爆せずに避難させる実効性のある安全な避難計画とはとても言えない。
10.福井県知事は「地元同意は福井県と高浜町」と述べ、これに関西電力も同調しているが、高浜原発で事故が起こった場合、影響を受けるのは福井県と高浜町だけではない。30キロメートル圏内に12万人を抱える京都府は安全対策で京都府の意見が反映されていないとして再稼働を容認していない。1400万人の水瓶である琵琶湖を汚染することから、滋賀県知事も再稼働を容認していない。生活や人格権を明らかに脅かすリスクが判明している以上、住民の健康と安全を第一優先に考えるのであれば30キロメートル以内の同意は必須であり、この地域内の同意なしの再稼働は認められない。