環境・公害対策部だより
九州電力玄海原発の再稼働を認めない パブリックコメントの提出にご協力を
2016.11.26
環境・公害対策部長 森岡 芳雄
反核平和部長 近重 民雄
原子力規制委員会は11月9日、運転開始から40年となる九州電力玄海原発3・4号機の安全対策について、新規制基準を満たしているとする「審査書案」をまとめました。12月9日までの意見募集を経て、再稼働が狙われています。
どんなに低い確率でも事故を起こすと取り返しのつかない被害を及ぼし、使用済み核燃料などの処分方法も決まらない原発は稼働すべきではありません。
協会は、いのちと健康を守る医師の団体として、玄海原発の安全性に懸念を示すパブリックコメント(下)を提出しました。
協会会員の先生方のご意見をぜひパブリックコメントの形で投稿していただいて反映していただければと願っております。よろしくお願い申し上げます。
提出先は、住所・氏名・連絡先を明記の上、FAX03―5114―2179 原子力規制庁安全規制管理官(PWR担当)宛てまで。原子力規制委員会のホームページ( )からも提出できます。12月9日まで。
「九州電力株式会社玄海発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する科学的・技術的意見の募集について」への提出文
団体名 兵庫県保険医協会
意見提出者 環境・公害対策部長 森岡 芳雄
反核平和部長 近重 民雄
下記の点から、本審査書で認められた九州電力株式会社玄海原子力発電所3号及び4号炉の安全性に対し、科学的・技術的に懸念があり、再稼働に反対する。
1.そもそも原発稼働により産出される放射性廃棄物の処理方法が確立していない。
2.原発内に保存される使用済み核燃料の保管状態は福島第一原発事故以来、非常に危険性の高いものであることが判明しているが、何ら対策がなされていない。
3.原子力発電所の再稼動の為には、重大事故確率、100万年/ 回 ・1炉の、安全目標審査で承認される必要がある。しかしながら、安全目標審査は今まで行われていない。即ち、安全目標が策定されていない、玄海 ・原子力発電所は、極めて危険であり、規制基準審査のやり直しが必要である。
4.福島第一原発事故の事故原因は未だ究明されておらず、原発を再稼働させるのはそもそも危険である(p.10~52/p.119)。
5.現在の原子力規制委員会には、地質学の専門家は居ても、地震学の専門家は選出されていない。現原子力規制委員会には原子力発電所再稼働における安全性を審査するに充分な能力が備わっているとは言ない状況にあり、規制基準審査内容は無効である。
6.本審査の基準となる新規制基準そのものが、欧州加圧水型原子炉の安全設備と比較して、(1)安全上重要な系統設備の多重性として、独立した4系統が求められているのに対して2系統しかない、(2)原子炉圧力容器外に流出した溶融炉心を格納容器内に貯留するコアキャッチャーの設置が求められていない、(3)大型商用航空機の衝突に耐え、設計圧力を高めた二重構造の格納容器の設置が必要とされていない、(4)サイバーテロへの防御の検討が不十分である、(5)原子力規制委員会による審査そのものが提出書類を中心とした審査であり、現物確認を行っておらず、他の原発では実際に不正が発覚しており、審査そのものが不十分であることを証明している。今回の審査においてもすべての審査において現認がおこなわれたかどうか、不鮮明であり、審査の妥当性が疑わしい。審査に合格したからといって安全性が保障されたとはとうてい言いがたい。
7.必要設備が未整備なままである。フィルターベント設備も、テロに備えての代替施設である第2制御室も未完成である。事故時の対策拠点が当面代替施設でしかない。施設は170平方メートルと狭く、水道もなく作業員の除染もウェットティッシュで対応するとは到底困難である。事故時の対策が万全とは言えない(p.185~189/P.247/p.344~348/p.375)。
8.審査書案では、プルサーマル運転(プルトニウムを混合したMOX燃料を用いた運転)の危険性について十分考慮されていない。MOX燃料はウラン燃料と異なった危険性があるにもかかわらず、重大事故対策でMOX燃料を用いた場合の解析がない。
9. 多くの火山学者や政府答弁書ですら、巨大噴火の予知は不可能であると認めている。仮に巨大噴火の前兆を捉えたとして、核燃料を原子炉から取り出し、搬出するまでには相当の期間がかかることを考慮すると、現代の科学的知見で巨大噴火に対応することは不可能である。玄海原発は立地不適とすべきである。
10.P.11「Ⅲ―1 基準地震動」で、耐震設計の目安となる基準地震動を、最大700m/s(700ガル)としたが、玄海の基準地震動は、北海道留萌支庁地震に準拠おり、この地震は逆断層であり、正確な基準地震動を策定する為には、正断層若しくは、横ずれ断層 の地震(兵庫県南部地震 ~阪神大地震 Mw 6.9、及び 福岡県西方沖地震 Mw 6.6 等 )のシミュレーションに基づく策定が必要であり、規制基準審査のやり直しが必要である。基準地震動シミュレーション (クロスチェック) の資料が、公開されておらず、策定経緯の透明性に問題がある。2007年の中越沖地震では1699ガル、今年4月熊本地震でも1580ガルを経験していることから、玄海の現基準地震動はかなり低いと考えられ、問題である。また、熊本地震では震度7の揺れが2回も起こり、震度4以上の余震は100回を超えている。現在の審査は1回の強い揺れに耐えられればよいというもので、このような複数回の揺れに対する耐震安全性の評価はなされていない。新たな審査基準を策定した上で審査をやり直すべきである。そして、鳥取地震の例などから震源を特定せず策定する地震動は、震源断層を予め特定しにくい地震、及び地表の証拠からは活動の痕跡を認めにくい地震、地表地震断層が不明瞭な地震、等とほぼ同等であることが、発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チームの会議上で明らかにされており、近代地震観測がなされた1890年代以降こうしたM6.8以上の地震は20あり、これらすべてを考慮に入れて審査されるべきであるが、わずか2つの地震しか反映されておらず、基準地震動が低く策定されている可能性があり、審査のやり直しが必要である。
11.「Ⅲ-4.2.2火山活動のモニタリング」で、現代の火山モニタリング技術で、巨大噴火の発生に至る過程を捉えた事例は未だ無く、実際にどのような異常が観測されるかの知見は未だ無い状況である。このような 現状において、巨大噴火の時期や規模を正確に予知するだけのモニタリング技術はないと判断される。平成28年10月17日、原子力規制委員会 ・原子炉火山部会が開始したが、火山モニタリング~巨大噴火の判定~核燃料棒搬出等の手順は、未だ協議がされていない。即ち、安全基準 (火山モニタリング) が策定されておらず、審査は完了していない。
12.「Ⅲ-4.2 太陽フレア」で、玄海では、巨大・太陽フレアからの強力な電子等に対する防御対策が策定されていない。
13.万が一事故が起きたときのため、具体的な避難計画の策定が安全性の確保のためには必須である。チェルノブイリ事故後、IAEAが定めた規制対策には「過酷事故時発生対応」として周辺地域に対する緊急避難などの対策が加えられたが、日本ではこれを地元自治体の責任として、原子力規制委員会の審査の対象外としており、問題である。原子力規制委員会の設立主旨は、原発推進側の論理に影響されることなく、第一に国民の安全を確保することにある。そして、原子力災害対策指針では住民の視点に立った防災計画を策定することと定められ、原子力事業者を指導する立場とされている。加えて、地方自治体の長に勧告・報告を求めることができる立場でもある。その原子力規制委員会が避難計画について指針だけ定めれば良いというのはあまりに無責任である。米国では避難計画がきちんと機能するかどうかも稼働の条件となっている。世界最高水準を標榜するのであれば、適合性審査において避難計画を検証の対象とすべきである。
14.避難計画作成を義務付けられている30キロ圏内にある3県8市町の周辺自治体のうち、佐賀県伊万里市と長崎県壱岐市長がこれまで反対を表明している。生活や人格権を明らかに脅かすリスクが判明している以上、住民の健康と安全を第一に考えるのであれば30キロメートル以内の同意は必須であり、この地域内の同意なしの再稼働は認められない。
15.玄海原発の周辺は地形が複雑で30キロ圏内には離島が17あり、約2万人が暮らしている。計画では島外に逃げる場合、船やヘリを使うことが想定されているが、数が足りておらず、荒天時には使えなくなる恐れがあり、とても充分な避難計画が策定されているとは言えない状況である。