兵庫県保険医協会

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解説 兵庫県におけるアスベスト検診 阪神・淡路大震災メモリアル特集 震災アスベスト被害想定した検診を 兵庫県保険医協会環境・公害対策部員 ストップ・ザ・アスベスト西宮の会代表 上田 進久

2018.01.26

 アスベスト疾患は潜伏期間が数十年と非常に長く、その被害が顕在化しにくい。阪神・淡路大震災では、飛散防止策が講じられないまま、建物の取り壊しやがれきの撤去が行われたため、今後被害者の増加が確実視されている。震災以外にも建物解体時に飛散防止策が行われないまま違法に解体されるケースも多数報告されている。被害者の早期発見、救済のための検診体制の充実を求め、協会環境・公害対策部は昨年6月、県下各市町の肺がん検診の問診票を取り寄せ、項目について検討した。担当した上田進久環境・公害対策部員の報告を掲載する。

 中皮腫死亡者の全国集計において、兵庫県と大阪府は常にワースト1・2位を占めている。また、兵庫県におけるアスベスト問題は、尼崎市のクボタショックや西宮・芦屋・神戸各市の阪神・淡路大震災など、職業曝露から環境曝露に及び、わが国のアスベスト問題の縮図とも言える。
 震災後23年となるが、倒壊した建物の除去作業員で後に中皮腫で亡くなった者が少なくとも数名確認されており、今後の増加が確実視されている。このような状況の中で、兵庫県は未だに震災との因果関係を認めていない。この結果、アスベスト健康被害に関する対策は、実態調査すら行われておらず決して十分とは言えない。
 このたび、兵庫県における〈アスベスト検診〉について検討した。兵庫県保険医協会としては、これらの問題点を進言しつつ、震災後の2次被害者が増加することがないように、関係団体と協力して取り組んでいきたい。
1)検査体制(図)
 アスベスト健康被害に関連する検査は、次の三つの事業からなる。
 Ⓐ一般の集団検診としての肺ガン検診(各市町)
 Ⓑ石綿健康管理支援事業(兵庫県):精密検査で「経過観察」と判定された場合、健康管理手帳が交付され、以後の精密検査の自己負担分が支給される。尼崎市以外の約40市町で実施
 Ⓒ石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査(環境省):希望により原則低線量CT検査を受けることができる。尼崎市、西宮市、芦屋市、加古川市、神戸市(今年1月より実施)の5市で行われている。
2)検査方法
 ⒶやⒷでは、胸部X線検査にて「異常あり」と判定された人だけが精密検査を受ける。Ⓒでは、Ⓐと併せて、希望すれば低線量CT検査を受けることができる。
3)問診について
 現在、問診は自己申告により行われているが、アスベスト曝露にくわしい担当者が直接面談することにより、曝露に気付いていない受験者からハイリスク群を抽出して、ⒷやⒸなどの〈アスベスト検診〉へ誘導することが求められる。
 また、各市の問診票を見ると、肺ガン検診においてアスベスト曝露についての項目はほとんど見当たらない。一方〈アスベスト検診〉の問診票には職業曝露に関する項目はあるが、阪神・淡路大震災や建物解体など、環境曝露に関する項目がない。
4)問題点のまとめ
 (1)集団検診とは切り離して実態調査をすべきである。
 潜伏期間の長いアスベスト疾患に対しては、不特定多数を対象とする集団検診ではなく、ハイリスク群を対象にした長期間にわたる経過観察を目的とする実態調査を行うべきである。
 (2)検査方法を早急に確立すべきである。
 胸膜疾患に対する胸部X線検査の診断能は、特に一般の肺ガン検診において十分に満足できるものではない。低線量CT検査を基本とした検査方法を確立すべきである。
 (3)阪神・淡路大震災時の被災地の作業員やボランティア、住民など多くの人たちはアスベスト曝露に気付いていない。また職業曝露においても同様で、アスベスト曝露を自覚していないハイリスク群に、検診が対応しているとは言えない。 
5)今後の課題
 震災後23年が経ち、今後アスベスト被害者の増加が確実視されている。検査方法を確立し体制を見直して、早急に実態調査を開始すべきである。
 震災時のアスベスト曝露を認め、曝露に気付いていないハイリスクの人たちに《アスベスト検診》の受診を促すことが重要である。わが国の疫学、公衆衛生や補償救済など、社会の成熟度が問われている。

兵庫県における各市の《アスベスト検診》
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