環境・公害対策部だより
日本原子力研究開発機構大洗研究所高温ガス炉の審査書案パブリックコメントへの意見提出
2020.05.11
日本原子力機構が大洗研究所(茨城県)で新たな原発「高温ガス炉」の研究を進めようとしていることについて、原子力規制委員会が実施する同施設の審査書案への意見公募(パブリックコメント)に、当会は4月24日に反対の意見を提出した。提出した意見の全文は下記のとおり。
われわれは、いのちと健康を守る医師の団体として、下記の点から、本審査書(案)で認められた大洗研究所のHTTR原子炉施設の安全性に対し、科学的・技術的に懸念があり、再稼働に反対する。
1.現在、新型コロナウィルスの流行・混乱の最中、国民生活に重大な影響を及ぼす施設に関する審査書へのパブリックコメントを短期間に行うことは国民の知る権利と審査・検討する権利を奪うものであり、許しがたい。本審査・意見募集は不要不急であり、新型コロナウィルスの流行の終息を待って、改めて公開募集すべきである。
2.日本原子力研究開発機構は、1兆円超の国費を投入しながら事故やトラブルが相次ぎ廃炉となった「もんじゅ」を運営しており、大洗研究所では2017年に放射性物質のずさんな取り扱いによる被曝事故、2019年に台風でのJMTR(材料試験炉)二次冷却系統の冷却塔倒壊を起こした組織であり、原子力研究を担うことには問題がある。
3.本審査の基準となる新規制基準そのものが、欧州加圧水型原子炉の安全設備と比較して、(1)安全上重要な系統設備の多重性として、欧州では独立した4系統が求められているのに対して2系統しかない、(2)原子炉圧力容器外に流出した溶融炉心を格納容器内に貯留するコアキャッチャーの設置が求められていない、(3)大型商用航空機の衝突に耐え、設計圧力を高めた二重構造の格納容器の設置が必要とされていない、(4)原子力規制委員会による審査そのものが提出書類を中心とした審査であり、現物確認を行っておらず、他の原発では実際に不正がいくつも発覚している(5)重大事故発生時の地域住民の実効性のある避難計画が審査対象に含まれていないなど、不十分である。審査に合格したからといって安全性が保障されたとはとうてい言いがたいものである。万が一事故が起きたときのため、具体的な避難計画の策定が安全性の確保のためには必須である。チェルノブイリ事故後、IAEA(国際原子力機関)が定めた規制対策には「過酷事故時発生対応」として周辺地域に対する緊急避難などの対策が加えられたが、日本ではこれを地元自治体の責任として、原子力規制委員会の審査の対象外としており、問題である。原子力規制委員会の設立主旨は、原発推進側の論理に影響されることなく、第一に国民の安全を確保することにある。そして、原子力災害対策指針では住民の視点に立った防災計画を策定することと定められ、原子力事業者を指導する立場とされている。加えて、地方自治体の長に勧告・報告を求めることができる立場でもある。その原子力規制委員会が避難計画について指針だけ定めれば良いというのはあまりに無責任である。IAEAで採用されている「深層防護」の考え方によれば、その第5層において、原子力規制機関による緊急時計画等の整備が必要だとされている。短時間で広がる放射能への迅速な対応や、他都道府県にまたがる広域的な避難行動は国が全面的に統括すべきであり、重大事故時に住民の深刻な被曝を回避することができない場合に規制委は稼働を認めない措置をとるべきである。これらの審査基準の不備を放置したままの審査は許されるものではない。
4.そもそも原子炉稼働により産出される放射性廃棄物の処理方法が確立しておらず、放射性廃棄物処理や原子炉の廃炉の方法にめどが立たない現時点において、原子力エネルギーの開発は凍結されるべきであり、研究開発目的とは言え問題のある新規制基準にあてはめ、高温ガス炉の再稼働を容認するようなことはすべきではない。
5.現在の原子力規制委員会には、地質学の専門家は居ても、地震学の専門家は選出されておらず、基準地震動の算出方法についても疑義がもたれており、原子力発電所再稼働における安全性を審査するに充分な能力が備わっているとは言えない状況にある。新たな審査基準を策定した上で審査をやり直すべきである。
6.P3から始まる『Ⅱ試験研究用等原子炉施設の設置及び運転のための技術的能力』において、申請者が作成した書類上のしかもシステム・体制に関する方針審査に終始しており、現場における具体性、実態を考慮に入れた審査が行われていない。日本原子力研究開発機構は、1兆円超の国費を投入しながら事故やトラブルを相次いで起こし廃炉となった「もんじゅ」を管理・運営しており、大洗研究所でも2017年に放射性物質を長期に渡り不適切に管理した上、ずさんな取り扱いによって被曝事故を起こしたり、2019年には老朽化を黙認していたために台風によるJMTR(材料試験炉)二次冷却系統の冷却塔倒壊を起こした組織であり、『試験研究用等原子炉施設の設置及び運転のための技術的能力指針』に適合する組織であるとすることには多大な問題と無理があると言わざるをえない。
7.P8から始まる『Ⅲ 試験研究用等原子炉施設の位置、構造及び設備』において、まず、『Ⅲ-1 地震による損傷の防止(第4条関係)』内、P24から始まる『3.震源を特定せず策定する地震動』において、(4)P25に「敷地に及ぼす影響の大きい地震観測記録として、5 地震(2004年北海道留萌支庁南部地震、2011年茨城県北部地震、2013年栃木県北部地震、2011年和歌山県北部地震、2011 年長野県北部地震)を抽出した。」とあるが、具体的にどれだけの地震から抽出されたのかが明らかにされていない。海外事例も含めて、抽出の対象となった母集団の数、具体的地震名称を掲載するべきである。特に強震観測開始以後に内陸地殻内で発生した地震で地表地震断層が出現しておらず、活断層との関連性がないあるいは不明と考えられている1984年長野県西部地震、1997年山口県北部地震、1997年3月26日鹿児島県北西部地震、1997年5月13日鹿児島県北西部地震などが検討された6.5Mw未満に含まれていたのかなど、疑念があり、検討の公正性、公開性に不備のある審査書であり、修正の後パブリックコメントの募集をやり直すべきである。
8.P25から始まる『4.基準地震動の策定』において、最大地震動の複数回の到来や長周期振動への考慮が全くと言っていいほどされておらず、問題である。再審査するべきである。
9.P26から始まる『Ⅲ-1.2 耐震設計方針 1.耐震重要度分類の方針』において、当該申請施設をP32で「規制委員会は、申請者が、本申請において既許可から耐震重要度をSクラス(旧As、Aクラス)からBクラスに変更した設備・機器については、その機能喪失により、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は損なわれないこと並びに周辺公衆の実効線量の評価値が発生事故当たり5mSv を超えないことを確認したことから、当該耐震重要度分類の変更は解釈別記1に適合していることを確認した。」とあるが、「実効線量の評価値が発生事故当たり5mSv を超えないことを確認した。」とあるが、放射能汚染環境基準は1mSvであり、汚染物質による長期の放射線放出を考えれば、許容範囲とは言い難い。1mSvを防御基準として、検討すべきである。
10.従来の原子炉と異なり、原子炉には難燃性とされる高純度黒鉛が使われているが、それでも、ガス出口温度900~1000℃で運転中にヘリウム配管が大きく破断すると、水素の次に軽い気体であるヘリウムは大気中に漏れ出し、ヘリウムが抜けた炉心に大量の空気が突入する可能性がある。高温の黒鉛が空気中の酸素と接触すれば、燃えだす恐れがある。あるいは、他の機器の冷却水などが炉心に浸入した場合、水が高温の黒鉛に触れた瞬間に蒸気となり、水蒸気爆発を起こし、炉心が破壊される可能性がある。この点において、「・補助冷却設備(原子炉冷却材圧力バウンダリ、Cクラスに属するものを除く)・補機冷却水設備(当該主要設備に係るもの)29・炉心支持鋼構造物の拘束バンド及び炉心支持黒鉛構造物(サポートポスト(支持機能のみ)を除く)」が耐震重要度分類においてBクラスとされているのは問題である。
11.P36から始まる『4.荷重の組合せと許容限界の設定方針』において、P41で「(3)敷地には、変動地形学的調査の結果から、地すべり地形、リニアメントは認められない。」としているが、同施設はい丘状地の上部にあり、一部を大海と人造湖、湖につながる沢に挟まれており、地震の影響に重きを置いて、地盤変異の変位を捉えているが、台風、大雨などにより土砂災害の起きやすい地形であると判断される。人造湖や丘状地形の上部を施設の建造物や舗装により吸水性、保水性のない地面としていることなどは、地形に対する今般の人為的加工であり、過去に地滑り地形がないというだけで地滑りを否定する根拠にはならない。この点について充分な検討が行われているとは言い難い。見直しとさらなる審査が必要であり、やり直すべきである。
12.P51から始まる『Ⅲ-4 外部からの衝撃による損傷の防止』において、P53自然現象と人為事象の想定を行っているが、人為事象で故意によるものを除いているのは問題である。原子力施設は、テロ等の攻撃の対象とされる可能性があり、攻撃を受ける可能性を想定すべきである。飛来物による意図的物理的な攻撃、武装勢力による人的施設への襲撃・占拠、サイバー攻撃などの意図的事象への想定・配慮が具体的に充分されていない書類上の方針だけで審査するのは、安全神話であり、極めて危険である。
13.P72『Ⅲ-4.2.4その他自然現象に対する設計方針』では、「1.風(台風)に対しては、日本最大級の台風を考慮した建築基準法に基づく設計とする」とあるが、冷却塔倒壊を起こした台風15号のように、気候変動の影響もあり、毎年最大級の災害が起こっているのが現状であり、現状の想定は低く、見直すべきである。
14.P73『Ⅲ-4.3 自然現象の組合せ』において、重要な地震と大雨・台風の組み合わせが行われていないのは問題であり、追加検討するべきである。
15.P107から始まる『Ⅲ-16 保安電源設備(第28条関係)』において、P108非常用電源は詳細記載がないため文意から受け取りにくいが、5系統ではあるが実質2電源しかないと判断される。多重性、独立性を備えた3電源以上にするべきである。また、非常電源の持続性(持久時間)ついて具体的な記載がなく、電源枯渇後は可搬型設備によるとのみ記載され、具体性が全く欠落しており、問題である。
16.P110から始まる『2.全交流電源が喪失した場合の対策設備』において、『(4)蓄電池の枯渇後(60 分以降)は』とあるが、蓄電池の持続供給時間は少なくとも120分以上は確保するべきである。60分では理想的に展開したとしての原子炉の安全停止時間40分に対して余裕があるとは言えないし、事故対応の最中、監視装置を可搬型発電機に接続し運用するまでの時間としては十分でないと考える。
17.今回の審査においてハードウェアの検討も充分とは言い難いが、過去に数々の事故・問題を起こしてきた国立研究開発法人日本原子力研究開発機構に対する稼働・運営、保守・・点検・保全・安全管理などのソフトウェアに関する部分について、現状視察、実地訓練の視察なしに通り一遍の書類上の審査のみで承認することは許されない。審査内容を改め、再度検証したうえで審査結果を出すべきである。
以上