兵庫県保険医協会

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専門部だより

環境・公害対策部だより

環境・公害対策部 阪神・淡路大震災アスベスト被害に関する意識調査結果
被害の積極的掘り起こしが必要

2024.05.25

 阪神・淡路大震災から30年となるのを前に、長い潜伏期を特徴とするアスベスト疾患による被害者の発生が危惧されている。協会では会員(医科・歯科・薬科)対象に、震災アスベストに関する意識についてアンケート調査を行い、医科231人、歯科53人、薬科22人の総計306人の回答が得られた。結果の概要を報告する。

 回答者の年代は、50代が29.4%、60代が30.4%、70代以上が26.8%と50代以上が大半を占めた。20代の回答者はいなかった。
 アスベスト関連疾患は主に呼吸器疾患であるため医科では、呼吸器疾患を診療しているかを尋ねた。呼吸器疾患を「専門として診ている」は9.1%、「ときどき診ている」は53.2%、「ほとんど診ることはない」が36.4%であり、約3分の2は呼吸器疾患の患者を診ている医師であった。
 回答者の活動する地域では32.4%は神戸市内、他も西宮市、尼崎市、芦屋市など震災の影響が大きかった地域の回答者が多い。
 「震災後(数年間)に被災地で生活や診療をしていた」は53.6%と半数程度で、「ときどき訪問、訪問したことがある」14.7%、「立ち入っていない」は26.8%であった(図1)。
震災アスベストの認識「わからない」半数
 阪神・淡路大震災により多くのビルが倒壊し、大量の粉じんに混じってアスベストが飛散したと言われている。
 このアスベスト飛散量についての認識を聞いたところ、「わからない」が52.9%と半数以上を占め、次いで「多量」が32.0%だった(図2)。
 健康への影響について聞いたところ、「わからない」が49.7%と半数を占めた。影響が「大きい」が28.4%、「中程度」が17.3%であり、健康への影響が「小さい」との回答はわずか3.9%であった(図3)。
 また、飛散の程度に応じて健康への影響が評価されていることを確認することができた。
 さらに、呼吸器疾患を専門として診ている医師の方が健康への影響は「大きい」と考える傾向が認められた。
 震災によるアスベスト被害者の発生について、「知らない」が51.6%、「知っている」が47.4%と回答がほぼ二分された(図4)。
 さらに、年齢別に分析すると、被害者の発生を「知っている」割合は年齢が高くなるほど大きくなる傾向が認められた。それでも被害者の発生を「知らない」は全体の半数を占めており、30代では70%にも達していることが判明した。
今後の被害「増加する」4割
 今後の被害者数の推移については「わからない」が36.3%であったが「増加する」の回答が39.5%で、「多少増えてもそれほど多くない」が20.9%であった。「ほとんど増えない」の回答はわずか1.3%に過ぎず、程度の差はあれ大半の回答者は被害者が増加すると予想している(図5)。
 また、被害者が増加すると考える人は、呼吸器疾患を診療する頻度が高い人ほど多い傾向が認められた。
震災によるアスベスト「意識しなかった」半数超
 震災直後に粉じんやアスベスト飛散対策を意識していたかを聞いたところ、「まったく/ほとんど意識しなかった」が53.6%と半数超を占めた。「多少気を付けていた」が19.6%、「注意するよう心がけていた」が11.1%であり、多少を含めても注意していた人たちは3割程度に過ぎなかった(図6)。
 震災被災者に肺ガン検診を勧めるか聞いたところ、「患者の状態によって勧めることがある」が73.5%と4分の3を占め、「必ず受けるように勧める」14.4%、「勧めない」9.2%であった(図7)。
 呼吸器疾患を専門として診ている医師は「必ず受けるように勧める」が28.6%と高い傾向が見られた。
 行政の今後の被害予防対策は必要と考えるかを聞いたところ「もっと積極的に情報提供や検診を行うべき」と考える人は44.1%であり、「心配がある人には検診を勧めるべき」が42.2%、「必要ない」は1.0%であった(図8)。
 どのような方法であっても、行政による情報提供と注意喚起を求める意見が圧倒的に多く認められた。
[考察] 積極的な検診呼びかけが重要
環境・公害対策部員 上田 進久
 回答者には震災当時の記憶をたどった人や、体験すらしていない人も含まれている。
 集計結果からいくつかの問題点を選び考察とした。
1)震災アスベストによる被害者の発生について
 「知っている」「知らない」が各半数を占めたが、国や自治体による被害者調査が行われていないことに起因している。
 2024年1月13日付神戸新聞で衝撃的な報道があった。「石綿健康被害救済制度」で2021年と2022年に中皮腫や肺ガンと認定された人のなかで「被災地にいた人」が24人、そのうち「阪神・淡路大震災」と明記した人が17人いたというのである。ただし、この中には労災や公務災害が認められた人たちは含まれていない。それまで報道されていた震災のアスベスト被害者の数はわずか7人に過ぎなかったが、到底納得できるものではなかった。この報道は、阪神・淡路大震災によるアスベスト被害が潜在化したまま広がりつつあることを示唆している。
 今回の調査において、行政の被害者対策について「もっと積極的な予防対策を求める」回答が圧倒的に多く、対策を強く求めてきた私としては、「我が意を得たり」の心境であった。
2)肺がん検診について
 震災当時被災地に居た人たちに対する受診勧告について、「患者の状態により勧める」と「心配がある人には勧めるべき」を選んだ回答者が多く認められた。ここで、「がん検診」とは、原則的には症状のない人を対象とするものであることを再確認しておきたい。
 「患者の状態」とは症状ではなく、「避難生活を送っていた地域の環境や作業環境」と理解されたものであったと推察したい。また、「心配がある人には勧めるべき」については、アスベスト繊維は髪の毛の5000分の1と細く刺激もないため、本人には曝露したという自覚もなければ心配もしていない。したがって、アスベスト曝露についての情報提供がいかに重要であるかを理解していただけるだろう。
 被災地で活動していた作業員やボランティア、避難生活を送っていた人たちなどハイリスクの人たちには、積極的に肺がん検診を受けるよう呼びかけることが大切である。
 現在、「災害とアスベスト-阪神淡路30年プロジェクト」が立ち上がり、協会も協力して進行中である。
 震災によるアスベスト曝露について再検証を行い、今後の被害者発生の予防対策を提案する。歴史的にも貴重な資料を保存する活動であり、作業員やボランティアらへのインタビューも含まれている。
 このアンケートも、医療関係者が震災アスベスト問題をどのように考えているかが知りたいという意見に応えたものである。
 私たちは、医療に係わるものとしてアスベスト曝露による被害者の発生を一人でも少なくするよう願いつつ、日々の診療に励みたい。

調査の概要
実施期間:2023年11月~1月
協会会員(医科3253件、歯科1488件、薬科71件)にFAX送信、医科準会員(勤務医)1471件には月刊保団連に調査票を同封し協力を呼びかけた
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