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緊急インタビュー
ガザの現実 直視を

2023.12.15

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北海道パレスチナ医療奉仕団団長 勤医協札幌病院
猫塚 義夫先生
1973年札幌医科大学卒業後、北海道勤労者医療協会に入職。以後、米国留学を含め整形外科医として診療と臨床研究を進めると同時に、学生時代から抱いてきた社会進歩への志を実践している

 イスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区への爆撃により、ガザの死者数は1万6千人となり、そのうち7000人超は子どもだと報じられている(12月5日時点)。住民の命が奪われていくこの事態をどう見ればいいのか、医療者に何ができるのか。パレスチナでの医療活動を続けている北海道パレスチナ医療奉仕団団長の猫塚義夫先生に11月22日、水間美宏国際部長、加藤擁一副理事長がオンラインで緊急インタビューした。

08年ガザ侵攻きっかけに訪問
 水間 先生は定期的にパレスチナで医療活動をされているということですが、先生がパレスチナに関わったきっかけを教えてください。
 猫塚 2008年イスラエルによるガザ軍事侵攻があり、1500人もの人々が殺されました。札幌でのキャンドルデモに参加し、さらに直接パレスチナで医療者として何か活動できないかと考えました。5~6人で奉仕団を立ち上げ、パレスチナのヨルダン川西岸や東エルサレムなどの医療機関10カ所ほどを、1カ月かけて歩いて訪れ、「医療支援したい」と申し入れました。2011年2月のことです。そのとき訪問した診療所の一つがたまたまUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の診療所で、日本人のわれわれを歓迎してくれました。
 水間 すごい行動力ですね。
 猫塚 私は整形外科医なのですが、難民キャンプに行くと、膝や腰が痛い、手足がしびれるなどと、ものすごい数の患者さんがやってきました。
 2回目の訪問時に、UNRWAの清田明宏保健局長から「ガザにいきませんか」とのお話があり、13年に初めてガザに入りました。毎年1回か2回、パレスチナを訪れています。
 加藤 具体的にはどんな活動をされてきたのでしょうか。
 猫塚 私たちの目的は二つあり、一つは医療を提供すること、もう一つはガザやパレスチナの状況を北海道の人たちにお知らせするということです。ですので、午前中はUNRWAの診療所や難民キャンプで診療活動を行い、午後からはガザ、西岸の入植地やイスラエルの街にも行き、いろんなグループと意見交換するなどしていました。
 水間 ガザにも医学部があるのに卒業しても病院で働けないとも聞きました。
 猫塚 二つ医学部があり、卒業生は皆働く意志はありますが、封鎖され経済が疲弊しきっており、病院が医者にまともに給与を払えないのです。30代の先生に聞くと月給が大体6万円くらいで、若手研修医が上級医に賃上げ交渉する姿を見かけました。看護師も同様で、無給で技術維持のため病院におり、いつか使えることを期待して在籍証明を持っている人が大勢います。このような状況なので、私たちのようなボランティアの医療者は大変歓迎されるのです。
16年封鎖され希望のない現実想像を
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聞き手
水間美宏国際部長

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聞き手
加藤擁一副理事長

 水間 医療奉仕団のウェブサイトで、先生がけが人の治療をされる動画を見ました。イスラエル軍は人々の足を狙って撃ち、その弾も、普通の弾のように貫通せず中で破裂する。そういうけがに対応されているのですね。
 猫塚 そうです。骨も粉々になり、足が欠損します。
 毎週金曜日午後にデモが行われていて、そこでけが人が出たら救急車に運ぶという活動をしました。パレスチナの青年たちは無防備で武器と言っても石ころくらいしかない。彼らに対し、イスラエル軍はフェンスの向こうから足を狙って撃ってきます。一人が負傷し倒れると周囲の5人くらいが救急車まで運びます。けが人がたくさん出るとデモの勢いが止まるので、それを狙っていると思います。そして障害が残った若者が次々に生み出され、ガザに重い荷を背負わせることになる。そういうことをすごく感じました。
 水間 ひどい話ですね。
 猫塚 ヨルダン川西岸地区でも、イスラエル人には一般市民法が適用されますが、パレスチナ人には軍法が適用され、ただ街を歩いていたパレスチナ人の青年がイスラエル兵に壁に押し付けられ、身体検査されるということが日常的に行われています。身体検査されベルトを抜かれてズボンを下ろされても、抗議すると行政拘禁されるので何も言えないという状況です。
 UNRWAの診療所にいたとき、庭に催涙弾が飛んできたことがあり、どうしたのかと聞くと、中学生が石を投げたからと何百人もの軍が入ってきていたのです。今回のガザに対しての攻撃もそうだと思いますが、このような集団懲罰が日常茶飯事として行われてきたのがこの75年間のパレスチナなのです。
 加藤 今日(11月22日)、4日間の停戦合意というニュースが入りました。どう見られていますか。
 猫塚 ハマスもイスラエルもそれぞれ行き詰まって思惑があっての合意だと思います。この停戦後に何が起こるか非常に心配しています。
 イラク戦争に使われた、バンカーバスター(地中貫通弾)という地下40mまで潜ることができる兵器があります。この弾の先には劣化ウランが使われています。私はイスラエルがこの兵器を使用して、ハマスの地下網を破壊することを狙っており、アメリカと相談する時間が必要になったのではないかと考えています。すでにイスラエル軍は21年8月の侵攻の際に、バンカーバスターを使用しています。
 水間 あれだけの人口密集地では、当然多くの住民が巻き込まれますね。ちょうど沖縄戦で、たくさんの住民が死んだのと似ています。
命奪われる事態に医療者は立ち上がるべき
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猫塚先生に送られてきたガザの画像毎日こどもの命が奪われている

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パレスチナの命を守ろうとデモで訴える猫塚先生ら

 加藤 このような状況の中、私たち医療者に何ができるのでしょうか。
 猫塚 物資は足りていませんが、送るのは非常に困難です。コロナ時、非接触型体温計などを送りましたが、イスラエルの税関で、同額程度の税金をかけられてしまい、受け取る負担が非常に大きくなっていました。また、以前からUNRWAのエルサレムにある現地事務所には、ベッドや車いす、松葉づえなど、イスラエルが許可しないために届けられない大量の物資があふれていました。募金が有効と思いますが、民間ではいま送金しても届くか分からないので、国連のユニセフやUNRWAを通じるのがいいと思います。
 もう一つ、日本国内、世界中で、イスラエルもハマスもやめろという世論をどれだけ高められるかが大事です。特にアメリカがイスラエルの後ろ盾となっているのを止めるための働きかけが重要です。私たちは札幌で毎週デモや集会を行い、勉強会をあちこちで開いています。
 水間 アメリカ国内でもイスラエルのシオニストのやり方はひどすぎるという声が高まっているのでしょうか。
 猫塚 アメリカの世論調査で65歳以上の80%以上がイスラエルの侵攻を支持していますが、若者は40数パーセントが反対しています。ここに活路があると考えています。
 水間 いまはパレスチナの訪問は難しいのでしょうか。
 猫塚 はい。私たちはもともと10月23日~11月25日まで、第15回目の支援活動を実施予定で、ハマスがイスラエルを攻撃した10月7日はその事前報告会の日でした。エルサレムから毎日新聞の三木幸治支局長にオンラインで報告いただく予定がなかなか参加されず、どうしたのだろうと思っていたら、「始まった」と連絡が入りました。飛行機も欠航となり、行きたくても行けない状況です。ヨルダンからの陸路も検討しましたがパレスチナの先生方から危険だからと止められました。
 われわれも非常に動揺したのですが、1週間ほどでできることをやろうと気持ちを立て直し、デモや集会などで発信を続けています。今回の支援活動には学生も参加予定だったのですが、特に若いメンバーには共に街頭に出て、市民のみなさんに訴えてほしいと伝えています。
 訴える際には、なぜこのような事態になったのかを考えてほしいと必ず言っています。イスラエル建国から75年、軍政がひかれ、ガザは16年間完全封鎖され、若者の夢も希望もどんどんつぶされています。そういうなかに16年間も留め置かれている人間の心情はどうなるのか、想像していただきたいと思います。
 水間 パレスチナからは何か情報が入ってくるのですか。
 猫塚 パレスチナに行った時にいつも私たちの映像や写真を撮り、報道してくれるジャーナリストがいます。彼の息子と義理の妹が空爆で建物の下敷きになって亡くなりました。彼はわれわれの集会にガザからボイスメッセージを送ってくれたり、現地の写真や映像をいろんなルートで送ってくれます。胸がはりさけるような思いです。
 われわれ医療従事者は人の命がむざんに砕かれているときに座して見ているべきではなく、行動に立ち上がるべきだと考えます。あいまいな姿勢の日本政府に対して、平和憲法を持ち戦争しないことを国是にしている国として、また核の問題は唯一の戦争被爆国として黙っているわけにはいかないだろうと思います。
 加藤 その通りと思います。
 水間 微力ですが、われわれもこのインタビューで実態を知らせたり、募金活動を行ったりしていきたいと思います。ありがとうございました。
2057_09.jpg ご著書の紹介
『平和に生きる権利は国境を超える
パレスチナとアフガニスタンにかかわって』

著者・編者:猫塚義夫・清末愛砂
2023年11月27日発売、1760円(税込)、あけび書房
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