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談話 医療経済実態調査 現実離れの恣意的発表 副理事長・政策部長 加藤 擁一

2011.12.15

 政府の行政刷新会議(議長・野田首相)は、来年度の診療報酬引き下げを求める提言をまとめた。これを受けて小宮山厚労相は記者会見で、プラス改定を断念する考えを表明したと伝えられる。「診療報酬の抑制が医療崩壊を招いた」として、国民に先進国並みの医療費公費負担引き上げを約束した民主党の政権公約をも踏みにじるもので、断固抗議する。
 「診療報酬引き下げ」提言の根拠とされているのが、厚労省が11月に発表した「医療経済実態調査」報告だ。一部マスコミの「開業医の年収2754万円」報道を受けて、「国民の平均所得が下がっているのに、医師の報酬は減っていない」との意見があったという。私たち開業医の経営実態からはまったくかけ離れた内容であるとともに、「診療報酬=医師の所得」とする悪質な攻撃である。
 診療報酬は、医療機関が国民に良質な医療を提供するための原資だ。公的医療の質を規定するもので、国民皆保険制度を支える重要な柱だ。不見識な報道に抗議するとともに、診療報酬の抜本的な拡充を改めて要求する。
 今次の医療経済実態調査では、従来の隔年単月調査に加え、08年から始まった年間調査のデータが加わった。それによると、09年度と10年度の比較で医科診療所は保険診療収益が0.2%マイナス、歯科診療所はわずか0・68%のプラスだ。
 10年診療報酬改定は「10年ぶりのプラス改定」とされたが、実態は公称をはるかに下回る。「損益差額改善」とされているが、コスト削減などの経営努力によって、かろうじて損益差額を維持しているのが実情だ。マスコミのいう「年収2754万円」とは、医療法人立の医科診療所のみを取り出したデータで、より零細な個人立診療所や歯科診療所が含まれていない、偏ったものであることも指摘しておく必要がある。
 以前から行われている隔年6月の単月調査による長期的な経営実態の推移を見ると、事想はさらに深刻だ。この10年間の比較では、損益差額が医科診療所で27.9%減、歯科診療所で21.9%減で、とりわけ05年以降は急激な悪化の一途をたどっている。
 病院においては11年は若干のプラスに転じてはいるが、これは「医師不足」「医療崩壊」の事態に、10年改定であわてて改定財源を病院中心に振り向けた結果であり、またまだ過去の大きな累積欠損をカバーし経営難を脱却するレベルのものではない。
 診療報酬は厚労省発表の改定率でも、この10年で累積マイナス7・34%となっており、高すぎる患者窓ロ負担、保険証取り上げなどと並んで、地域医療を疲弊させる一大要因となっている。
 野田内閣は、「税・社会保障一体改革」と称し、消費税増税と、さらなる社会保障切り捨てを画策している。診療報酬引き下げも、これらの攻撃と軌を一にするもので、「実態調査」の恣意的発表はその伏線だ。医療改悪を許さず、国民医療を守るたたかいを巻き起こそう。
 

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