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政策研究会 社会保障財源は消費税増税しかないのか 清家裕氏講演録

2012.06.25

協会は4月28日、政策研究会「社会保障財源は消費税増税しかないのか」を開催した。講演録を掲載する。

消費税増税は財界の要求


 消費税増税を求めているのは、財界だ。97年にそれまでの3%から5%へと消費税率を上げたのも財界の要求に政府が応えたものだ。財界はここ十数年、時の政権に消費税の税率引き上げを迫ってきた。今回、野田政権が実施しようとしている「社会保障と税の一体改革」も、もともとは財界の要求である。
 財界の要求を実現するために、政府は消費税増税を正当化しようと様々な宣伝を行っている。たとえば、「すべての国民が負担するから公平だ」というものや「景気に左右されない安定財源である」というものだ。そして、最も効果を上げているのが「財政危機を克服するためには消費税増税しかない」という宣伝だ。
 こうした政府やその周辺の経済学者の消費税賛成論を、大手マスメディアがそのまま受け入れて報道している。マスメディアがこぞって消費税増税に賛成するのは、消費税増税を進める財界がスポンサーだからである。権力を監視するというマスメディアの本来の役割は、消費税増税については全く果たされていないといっていいだろう。
 こうした状況の中で、国民は消費税増税についてテレビや新聞から情報を得、「消費税増税は大変な負担だが、国の財政が厳しいのだから仕方ない」という意識が醸し出されている。しかし、それでも6割の国民が政府の消費税増税案に反対している。

戦後最大の巨大増税


 さて、現在の消費税収は1%で約2.5兆円。10%になれば、新たに13.5兆円の増収になるといわれている。消費税導入時で7.5兆円、3%から5%への増税時で5兆円の増税となったが、今回の13.5兆円もの増税は、戦後最大の巨大増税になるということを認識してほしい。
 しかも、今回の消費税増税を許せば、消費税率は際限なく引き上げられる可能性がある。というのも、政府は消費税増税を国民に納得させるために「社会保障のため」といっている。当初、「税と社会保障の一体改革」と称していたものを「社会保障」を前に持ってきて「社会保障と税の一体改革」としているのも、国民に「社会保障」の財源だということを印象づけるための工作だ。
 実際に今回、政府が国会提出している法案では、消費税法2条の改定が盛り込まれている。消費税法2条は、消費税の使途を規定している条文で、そこに「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」という文言を盛り込むとしている。これは、具体的には消費税は社会保障にのみ使うということだ。
 確かに、社会保障のためなら消費税増税も仕方ないと思われるかもしれないが、政府の狙いは図1の通り、社会保障給付の財源の全てを消費税だけでまかなうことだ。そうなれば2011年の社会保障給付費は40兆円で、消費税に換算すれば実に16%となり、1世帯あたりの年間消費税額は平均で約54万円にも上る。2020年には、政府の試算で社会保障給付費は51.9兆円となり、必要な消費税率は21%、1世帯あたりの年間消費税負担額は71万円にも上る。
 一方、社会保障に使われていた消費税以外の財源は他に使うことができるようになる。

一方では法人税引き下げ


 今回の消費税増税法案には、法人税のことも明記されている。法案では「法人課税については、平成27 年度以降において、雇用及び国内投資の拡大の観点から、実効税率の引下げの効果及び主要国との競争上の諸条件等を検証しつつ、その在り方について検討すること」とされており、これは法人税の引き下げを行うということだ。
 法人税は11年度税制「改正」で、すでに40%から35%に引き下げられている。現在、復興財源捻出のためとして課されている法人税額の1割という付加税を加味しても、税制「改正」前に比べて、今後25年間で18兆円の減税となる。
 一方、所得税の復興増税は25年間にわたって1.2%の増税を行い、住民税も10年間にわたって均等割部分を毎年1000円引き上げられている。これは25年間で8兆円の新たな財源を生む。しかし、この8兆円は法人税の減税分18兆円と相殺されてしまう。
 つまり、私たちに25年にわたって課される所得税や住民税の引き上げ分は、結局法人税の引き下げで相殺されてしまうので、復興のための財源にはならない。

消費税は預り金ではない


 次に今回の消費税増税法案では、所得税や相続税に関する部分もある。具体的には、課税最低限の引き下げや給与所得控除の圧縮も検討課題にしている。相続税でも、基礎控除の引き下げが検討されている。こうしたことが実現すれば、納税義務者が激増する。これまで所得が少なく所得課税のなかった人も納税義務者となる。つまり、税を払う能力のないところから、税を取ろうということだ。
 これまでにも公的年金等控除の縮小、老年者控除の廃止などを行って、300万人の納税義務者を増やしてきた。しかし、払えない層に税を課しても、結局滞納が増えるだけで、税収を抜本的に増やすことはできない。
 消費税には様々な側面があるが、事業者にとっての消費税について、四つの取引をみていこう。
 一般的な事業者にとっての消費税は課税取引だ。医療分野では、自費診療がこの課税取引に当たる。たとえば、自費診療収入が2000万円あり、仕入れに1400万円かかったと想定すると、消費税の納付税額は2000万円に税率の5%をかけた100万円から、すでに支払っている1400万円の5%分70万円を引いた30万円となる。この場合、患者さんから5%の消費税をもらうのかもらわないのかは自由だ。しかし、もらっていないからといって納付を免れることはできない。
 二つ目は非課税取引だが、これは社会保険診療の場合だ。もし2000万円の社会保険収入があったとすれば、薬を仕入れる、設備投資をするといった場合、すべて5%の消費税を支払う必要がある。たとえば、1400万円の仕入れを行えば70万円の消費税がかかる。これは先生方が払うのか、患者さんに払ってもらうのかは自由ではない。
 同じ非課税取引でも、不動産の家賃は、家賃をあげて実質的に消費税を借り主に負担させることができる。しかし、社会保険診療は公定価格なので自由に価格を決めることはできない。その結果70万円を医療機関が負担することになる。
 三つ目の免税取引は、輸出の場合の課税方式だ。海外に2000万円分の製品を輸出するとした場合、輸出先には転嫁できないので、消費税額は0円だ。その製品をつくるために1400万円かかった場合はすでに支払ったとされる消費税70万円分を2000万円にかかる消費税0円から差し引き、税額を計算する。0円から70万円を引くと「マイナス70万円」となる。「マイナス70万円」ということは、税務署から70万円が輸出業者に還付されるということだ。これが消費税の転嫁実態から、消費税が事実上の輸出補助金といわれるゆえんだ。
 それから四つ目として、不課税取引というのがある。それは、消費税の世界にない取引だ。わかりやすい例でいうと給与や退職金だ。企業ではこれを悪用して、正社員のクビを切って、派遣社員に代えるということが行われている。派遣会社から社員を派遣するという取引には、消費税がかかるので、その分を納付消費税額より差し引くことができ、納付消費税を減らすことができるのだ。
 これらから消費税とは何かと考えると、消費税は預かり金ではないということがわかる。最終消費者が自分たちに納税義務を課せられた消費税を、業者に預けるわけではない。消費税とは商品の価格の一部だということだ。これが、税の専門家の間での常識である。2000万円で販売しようが、2100万円で販売しようが、価格の中に消費税が入っているということだ。取引先からもらえるのか、もらえないのかは取引先との力関係による。それを表すのが、図2である。売り上げが2億円以上ある企業では自らの納税分をすべて取引相手に転嫁できるという企業が83.8%に上る。
 一方で、1000万円以下の売り上げしかない企業のうち消費税を取引相手に転嫁できているのは28.7%でしかない。実際に、ある大手電機メーカーでは、消費税が導入された際、取引先を集めて、消費税を価格に上乗せせず、これまで通りの納入価格にするように指示を出したことが明らかになっている。

収入のない人も負担する不公平


 消費者にとっての消費税の性質を明らかにしているのが図3だ。消費税には逆進性がある。収入に占める消費税の割合が、年間収入200万円以下の世帯では5.8%になっている。税率の5%を超えているということは、年間200万円以上の支出があるということで、貯金を取り崩して生活しているということだ。
 収入が増えていけば、負担割合が減っていく。これが消費税が不公平だという根拠だ。税金は収入に応じて負担割合が上がるようでなければならない。それが公平な税制だ。そして、消費税は収入のない人も負担しなければならない。これは、税制の基本的な考え方である生活費非課税の原則に反している。とんでもない税金だ。
 逆に年収が2000万円以上の世帯の場合、収入に占める消費税の割合は1%である。1%ということは、20万円の消費税を負担しているということだ。逆算すれば収入2000万円の内400万円にしか消費税がかかっていないということだ。のこり1600万円は消費税のかからない支出、つまり金融商品の購入などに充てられているのだ。
 これが消費税の実態だ。滞納が多いのは身銭を切って払わなければならないからだ。2009年度の滞納額は3700億円にも達している。納付のために、生命保険や売掛金が差し押さえられたりしている。これはひどすぎる。
 政府は容認論を振りまいているが、庶民にはものすごい重税になる。しかも、庶民から集めた消費税収は輸出補助金や大企業、富裕層の減税に使われてしまうのだ。

不公平税制を正せば18兆円の財源が


 では、他に財源はあるのだろうか。それはたっぷりある。ここ20数年間の税制の変遷をみると、86年には70%だった所得税の最高税率は、07年に40%になっている(図4)。住民税は18%だったものが、10%になった。しかも、所得の多寡に関係なく一律10%の住民税を払わなければならない。
 一方、配当所得には10%しか課税されていない。本来は20%だが、10%に軽減されている。法人税も86年には43.3%だったものが、99年に30%、12年からは25.5%に減税になっている。つまり、この20数年大資産家や高額所得者、大企業への大減税が行われてきたということだ。
 その結果どうなったのか。図5をみると、所得税は90年に26兆円の税収があったものが、現在は13兆円になっている。これは、たび重なる高額所得者への減税と景気悪化によるものだ。法人税も80年代後半から90年まで、約19兆円あった税収が、現在は6兆円しかない。また、物品税は廃止されたので、約2兆円あった税収はなくなった。合計28兆円もの税収が減った。
 一方、89年に導入された消費税は10兆円の税収を国にもたらしているが、差し引き、国の税収が最高だった頃に比べて18兆円税収が減っている。これでは、財政は火の車だし、借金に頼ることになる。逆に、80年代後半から90年代前半までのように、きちんと負担能力のあるところから税金をとれば、消費税の大増税は必要がないということは明らかだ。
 税の専門家でつくる「不公平な税制をただす会」の試算によると、税率を変えなくても、不公平な控除や特別措置を廃止するだけで9兆円の財源ができるという。地方税も含めれば18兆円を超える税収を新たに生み出すことが可能だとしている。
 それに、現在日本国内で行われている株式売買の金額は500兆円ある。これに取引税として1%の税金をかければ5兆円の税収になるし、3京円に上る外国為替取引に0.01%課税すれば3兆円の税収になる。しかも、こうした取引を行っているのは生活に困っている人ではなく、大半がお金に余裕のある富裕層か大企業だ。

応能負担の原則で税収確保を


 最後に、税の負担能力というのは所得にしかない。消費には税の負担能力はない。だから、消費に税金をかけるのは間違っている。消費に税金をかけるとすれば、所得の高さを示す消費、つまり贅沢品の消費や贅沢なサービスの消費にのみにすべきである。
 税金は応能負担の原則に基づいて、負担能力のあるところからとらなければ不公平であるばかりか、十分な税収を確保することもできない。
 

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