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第82回評議員会「日本経済を殺した真犯人はだれだ!?」三橋 貴明氏 講演詳録 積極的な財政出動で日本経済再建を

2013.01.05

協会が12年11月18日に開催した第82回評議員会での、経済評論家・三橋貴明氏の特別講演「日本経済を殺した真犯人はだれだ!?」の詳録を掲載する。

 本日は皆さんの前に単にお話をするために来たわけではない。講演のテーマは「日本経済を殺した真犯人は誰だ!?」となっているが、その真犯人によって「既得権者」などと間違った批判を受けている人たちである医師、公務員、農家、建設業者などに、たたかうための武器を渡しにきた。こうした人たちはバブル崩壊から20年間ずっといじめられてきた。しかし、黙っていてはいけない。正しい情報を持ってたたかってほしい。

日本経済を殺した真犯人と維新の会


 皆さんをいじめている人たち、つまり日本経済を殺した真犯人は新古典派経済学者とか新自由主義経済学者と呼ばれる人たちである。その典型が小泉構造改革を進めた慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏だ。
 彼は今、日本維新の会のブレーンを務めている。だから、日本維新の会が発表した政策集「維新八策」は100%新古典派経済学に基づいている。新古典派経済学の祖であるミルトン・フリードマンが80点はくれるだろうという内容だ。医療関係の政策でも、混合診療の拡大、バウチャー制の導入、TPPへの参加などがあげられている。

インフラは「経世済民」のため


 医療は農業や建設業とともに国家のインフラだ。日本には国土があってその上に、道路などインフラが整備されている。さらに、社会制度として医療、農業、安全保障などのインフラがある。こうしたインフラはすべて「経済」のために整備されている。「経済」というのは「経世済民」の略だ。「経世済民」とは「世を經め、民を濟う」という意味だ。つまり国民を豊かにするためのまつりごとである。
 だから、企業経済とか家庭の経済などと言うのは誤りだ。企業の場合は経済ではなく経営だ。企業の第一の目的は国民を豊かにすることではない。株主の利益を追求し、経営者や役員が働くのが株式会社である。一方、国は国民を豊かにするNPOである。

株主のための教育でいいのか


 維新の会の討論会で、維新に合流する政治家に橋下徹氏が「学校の株式会社化に賛成しますか」と聞くと、参加したすべての政治家が「賛成する」「大賛成」と答えていた。しかし、本当にその意味を理解しているのかと疑問に思う。学校が株式会社化されれば、株主のための教育が行われることになる。学校教育が国民を豊かにするためのインフラでなくなるということだ。たとえば中国やアメリカ資本の学校で、中国やアメリカの株主のために日本の子どもたちに基礎教育が行われることになる。
 民営化とセットで導入されるのが「バウチャー制」である。バウチャーとはクーポン券のことだ。保護者が自由に学校を選び、バウチャーを渡して子どもに教育を受けさせる。そうなると民営化された学校は利益を上げるため、バウチャーを集める競争を始める。クーポンが集まる学校はいいが、そうでない学校は利益を上げるためにコストを削減し、満足な教育を施せないかもしれない。こうして学校間の格差が生じ、教育格差が広がっていくだろう。それで本当にいいのだろうか。もちろん高等教育であればさまざまな区別があっていいだろうが、基礎教育というのは社会の一員として「このレベルはクリアさせる」というものだ。だからこそ、国家が質を維持しなければならない。

混合診療は医療保険ビジネスのため


 医療でも同じだ。株式会社が病院を経営するようになれば、株主のために利益を上げなければならない。そのためにはコストをなるべく下げる必要がある。非常に怖いことだ。また、混合診療が解禁されれば、保険適用外の治療はどんどん値上がりするだろう。命を救うから数千万円払ってくださいと。患者は払えないので、いざというときのために医療保険に入る。医療保険ビジネスは株主の利益のために経営をするから、なるべく多くの保険料を取り、保険金の支払いをなるべく抑えるというとんでもない業態だ。
 今、アメリカの大手保険会社は、オバマの医療保険制度改革でアメリカ市場では食っていけなくなりつつある。そこで、世界第2位の消費大国である日本のマーケットを開放させようとしている。
 今はアメリカの保険会社が日本でビジネスをしたくても、国民皆保険制度があるから参入できない。それで、混合診療を導入させ、保険外の医療や薬品を増やそうとしているのだ。
 しかし、医療というのは国民の生活に欠かせないインフラだ。それを市場原理に任せてしまうことが本当に正しいのだろうか。アメリカでは実際に、医療は市場原理に委ねられている。そのため、国民医療費の対GDP比は日本の2倍だ。それですばらしい医療が提供されているのだろうか。確かに金持ちはいいが、金がない人は医療保険にさえ入ることができず、命の危機にさらされている。日本が1位のWHO健康達成度調査は、アメリカが16位だ。個人破産の理由の半数が医療費の未払いによるものなどという国は先進国とは呼べない。

財政出動を促したケインズと高橋是清


 さて、日本経済を殺した真犯人は新古典派経済学者だと言ったが、彼らは市場原理に任せればすべてうまくいくという考えを持っている。では、なぜ「新」古典派なのか。それは、以前、古典派経済学と呼ばれる経済学があったためだ。英語では「クラシカル」あるいは「オーソドックス」と呼ばれている。この経済学は1929年以前に猛威をふるい、世界大恐慌を引き起こし、さらに第2次世界大戦まで招いている。
 非常に恐ろしいのは、当時が今の状況に酷似していることだ。当時、日本では1920年に大正バブルが崩壊し、23年に関東大震災が起こった。そして復興のための支出などで財政赤字が膨らんでいった。そのときに古典派経済学者は財政均衡を重視し、増税と支出削減を行うように政府に働きかけ、デフレ経済に突っ込んだ。その後、29年に世界大恐慌が起こった。そして33年には東北地方で昭和三陸地震が発生、死者行方不明者あわせて3千人以上の被害を出した。どこかで聞いたような話だ。
 1990年にバブルが崩壊し、95年に阪神・淡路大震災が発生した。政府は財政赤字を理由に消費税を増税し、政府支出を削減した。その後、2007年にリーマン・ショックに端を発する世界同時金融危機が発生。そして11年、東日本大震災が起こった。
 では、当時の日本はどのようにしてデフレ経済を克服したのだろう。当時の日本のデフレは物価の下落率が10%という非常に激しいものだった。日本だけではなく、世界も不況に苦しんでいた。アメリカでは29年に3・2%だった失業率が4年後の33年には24・9%になった。ヨーロッパではドイツの失業率は43・3%になっていた。そうなると社会にはルサンチマン(主に強者に対しての、弱い者の憤りや怨恨、憎悪、非難の感情)があふれ、公務員などへの批判が強まり、閉塞感が高まった。そこで出てきたのがナチスだ。
 各国では雇用が問題となったが、古典派経済学者たちは高い失業率を、職種のミスマッチや労働者が高い賃金を望みすぎるためだとした。つまり、高い失業率の原因は労働者の能力不足とわがままが原因で、放っておけば長期的には失業率は下がるということだ。これに異を唱えたのがジョン・メイナード・ケインズだ。ケインズは「不況下で職がなければ死んでしまうのだから労働者はわがままなど言わない」と言って、財政出動の必要性を唱えた。
 ケインズよりも早く古典派経済学者の間違いに気づき、主要国の中でもっとも早く日本を不況から脱出させたのが高橋是清だ。彼は「緊縮という問題を論ずるに当たっては、先づ国の経済と個人経済との区別を明らかにせねばならぬ。例えばここに一年五万円の生活をする余力のある人が、倹約して三万円を以て生活し、あと二万円はこれを貯蓄する事とすれば、その人の個人経済は、毎年それだけ蓄財が増えて行って誠に結構な事であるが、これを国の経済の上から見る時は、その倹約に依って、これまでその人が消費しておった二万円だけは、どこかに物資の需要が減る訳であって、国家の生産力はそれだけ低下する事となる。ゆえに国の経済より見れば、五万円の生活をする余裕のある人には、それだけの生活をして貰った方がよいのである」と述べた。

デフレとは富が消費されないこと


 国民経済の中心は所得だ。所得は、労働によって生産されたモノやサービスが消費されることにより生み出される。大切なのは働かなければ所得は生み出されず、消費されなければ所得は生み出されないということだ。この所得を国民全体であわせたものがGDPだ。GDPは国内総生産と呼ばれるが、生産されたものが消費されて所得となるので、国民総所得、国民総支出(消費と投資)と一致する。
 このGDP(所得)がすべての源泉である。企業や国民が生産活動や借入、社会保障や補助金の給付で得た所得は徴税、消費や投資、貯蓄に回る(図1)。このうち、企業や国民、国の消費や投資は他の人の所得となる。だから、高橋是清が言ったように5万円の所得を得た人が、3万円しか使わなければ、他の人の所得は3万円にしかならない。こうした形で経済の縮小が強制的に行われるのがデフレだ。
 デフレ下では生産力はあるが、需要がないので消費されない。すると、モノやサービスの価格は下がる。価格が下がればそのモノやサービスを提供する人の所得も少なくなる。所得が少なくなればさらに消費が細ってしまう。今、まさに日本で起こっているこうした悪循環をデフレという。
 では、なぜこうなってしまったのだろうか。すべての始まりはバブル崩壊だ。バブルの特徴は資産価値の上昇と借金の増加だ。資産の価値が上がり続けるために、企業や国民は借金をしてまで資産に投資をする。そして、投資で得た利益をさらに投資し、資産の価値を上げる。この循環が爆発的に速まることによって発生するのがバブルだ。
 世界で初めてのバブル崩壊はオランダで1637年に起こった。当時、市民が借金をして投資したのはチューリップの球根だ。無窮の皇帝という意味の「センペル・アウグストゥス」というチューリップは、今の日本円で2億4千万円という高値をつけたと言われている。「オランダ人は馬鹿だなぁ」と笑えない。日本人もバブルの時、本来の価値とかけ離れたものを購入していた。たとえばゴルフ場の会員権だ。当時の平均価格は4千万円。購入した人はゴルフがしたくて買ったわけではなくて、値上がりするから買っていた。今は平均価格が200万円を切っている。
 

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