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特集 神戸市長選挙 検証 神戸市の医療政策(3) 地域医療を掘り崩す神戸医療産業都市

2013.10.25

 27日投開票の神戸市長選挙に向け、2001年からの矢田神戸市政について、3回に分けて検証を行ってきた。最終回は、神戸市の医療産業都市について解説する。

震災復興を口実に開始


神戸市が進めている医療産業都市構想は、政府の「特区」制度などによる医療分野での規制緩和に便乗し、人工島・ポートアイランド(ポーアイ)に医療機関や研究機関、医療産業を集約して経済的利益を拡大する構想だった(図)。
 端的に言えば、ポーアイ2期地の売却と雇用の増加が狙いだ。もともと阪神・淡路大震災の復興事業を名目に計画された。
 しかし、神戸の経済復興に何の役にも立っていない。10年に神戸新聞が被災者に行ったアンケートでは、29%がいまだに被災地は「復興していない」と答え、理由に「商店街など街の活気」(45%)や「経済や雇用環境」(38%)を挙げている。
 市の調査によると、医療産業都市の市内への波及効果は1041億円だが、一方、市や国から1300億円あまりの税金がすでに投入されており、税金投入額に対し波及効果が見合っていないと、市会議員からも指摘されている。
 実際、建設費の3分の2を経済産業省からの補助金で賄った、医療産業都市の基幹施設の一つである国際医療開発センター(IMDA)は、開設後1年たたずに破たんしている。

特区制度で規制緩和

 医療を儲けの対象とすることを目的にした構想において、神戸市が利用したのが、政府の「特区」制度だ。これは小泉構造改革で導入され、従来は法規制などで事業化できなかった事業をその地域に限って認めるもので、医療産業都市は02年4月、国の「先端医療産業特区」に認定された。
 市は、実験的医療をより早く臨床現場に持ち込めるようにし、医療産業に魅力的な環境をつくるため、特区内で高度医療に係る臨床研究での特定療養費制度の導入や高度先進医療制度の弾力的運用などを認めるよう国に要求した。これは、協会や神戸市医師会の強い反対で、認められなかったが、もし認められていれば事実上の混合診療全面解禁が起きていた可能性もあった。

公立病院を先端医療に利用

 先端医療開発に公立病院を利用するために、神戸市立中央市民病院が11年に移転した。同病院はもともとポートアイランドにあったが、神戸市は老朽化などを理由に、より市街から遠い海側に病床数を減らし移転させた。市民からは批判が巻き起こったが、市は移転を強行した。
 背景には、同病院を最先端医療施設のバックアップ病院として活用する計画があった。井村裕夫先端医療振興財団理事長は「中央市民病院の患者などを対象に...最先端医療の応用研究を進めている。このためにも、また救急事態への対応に際しても、市民病院があると便利で...移転させることになっている」と語り、当時の先端医療センター長はラジオ番組で「やっぱり(中央市民病院の)患者さんや一般の人が必要である...新しい医療が生まれるためには膨大な人体実験が必要でしょう」などと危険なことを述べている。
 つまり移転は、先端医療センターや高度専門病院群で突発的事態が起こった場合の救急対応と、先端医療センターなどで行う先端医療の被験者としての患者提供を目的に強行されたのだ。
 さらに11年、県は突如、神戸市須磨区の高台にある県立こども病院を医療産業都市に移転させると発表した。この移転は、現地での建替を検討していた県に対し、医療産業都市を充実させたい神戸市が要請して変更されたとされている。
 高台から沿岸部の人工島・ポートアイランドへの移転は、阪神・淡路大震災や東日本大震災での教訓を全く活かしていないと、多くの県民や医療関係者から反対の声が上がっているが、県は県民に説明なしに移転を強行しようとしている。だれのための県立病院かが問われている。

海外富裕層を市民より優先

 医療産業都市では、海外富裕層向けの医療ツーリズムも進められようとしている。
 政府に呼応し、医療産業都市はKIFMEC(神戸国際フロンティアメディカルセンター)病院をつくり、年間50例を目標に海外から患者を受け入れ、生体肝移植を行う予定だ。
 これには多数の問題が指摘されており、臓器売買の可能性も否定できない。国境を越える移植医療の禁止が世界の流れだが、京都大学付属病院では、04年肝臓提供者として来日したパキスタン人が「レシピエントのいとこを名乗ってドナーになれば金をもらえることになっていた」と証言しており、日本の医療機関も臓器売買の舞台となる可能性が高まっている。
 医療産業都市は、震災復興ではなく、むしろ混合診療拡大、承認審査の基準緩和、大企業の医薬品や医療機器開発への国と非営利医療機関の資源投入、実験医療への市民の参加、医療ツーリズム推進など、地域医療を根底から堀り崩してしまう危険性を持っている。
 神戸市はこうした取り組みを見直し、市民の命と健康を守る医療・社会保障の充実した市政こそめざすべきである。

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