政策宣伝広報委員会だより
総選挙特集 争点解説(下) 協会政策部 「社会保障・税一体改革」−実態は社会保障切り捨てと国民負担増
2014.12.05
総選挙の争点解説の第2回目は、安倍政権の社会保障政策と消費税増税を取り上げる。
「増税で社会保障充実」のごまかし
安倍政権の社会保障政策は、2012年6月の民主党・自由民主党・公明党による3党合意に始まる。
3党合意による改正消費税法では「消費税の収入については...年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」との文言が、また、社会保障制度改革推進法にも「社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること」との文言が盛り込まれた。
つまり、安倍政権は、消費税増税を行う代わりに、その財源を使って社会保障を充実すると言ってきたのだ。
政府公報でも「消費税率の引上げによる増収分を含む消費税収のすべてを社会保障の財源とします」と大々的に宣伝をし、消費税増税分5兆円の使い道を、(1)「年金国庫負担2分の1の恒久化」に2.95兆円、(2)「既存の社会保障の安定財源確保」に1.3兆円、(3)「社会保障の充実」に5千億円を投じる、と説明している。
しかし、(1)の「年金国庫負担」については、04年の所得税の配偶者特別控除上乗せ部分廃止、05年の所得税の老年者控除廃止と公的年金等控除の引き下げ、配偶者控除の上乗せ部分廃止、06年の所得税と住民税の定率減税半減、07年の定率減税廃止などにより、すでに財源は確保されているはずである。
これらの財源が本当に年金国庫負担に使われていれば、消費税増税の半分以上が必要ないことになる。にもかかわらず、消費税増税を行うということは、これまで行った増税が実際には、年金国庫負担に使われていないということになる。つまり、政府はウソの使途を理由に、国民に増税をしておいて、さらに増税を行うというのである。
(2)の「既存の社会保障の安定財源確保」に1.3兆円を投じるというのにもごまかしがある。これは新規財源を投入するのではなく、「次世代へのつけ回し軽減」と称して、国債発行減らしに回されるのである。
だが赤字国債は歳入の一部に過ぎず、直接社会保障費と結びつけることはできない。
国債発行の主因は歳入が激減しているためである。89年に19兆円あった法人税収は、09年には6.4兆円となり、12.6兆円も減少している。
また所得税も21.4兆円から12.9兆円へと8.5兆円も減少。あわせて21.1兆円も減少している。その減少分が消費税によって穴埋めされてきたのが財政の実態で、社会保障が国債発行の主因ではない。
そもそも社会保障を充実する気はない
(3)の「社会保障の充実」に5千億円を投じるというのもごまかしである。
実際には社会保障は充実どころか、むしろ負担増と給付削減が行われている。
社会保障制度改革推進法を受けて設置された社会保障制度改革国民会議の報告書は、社会保障の位置付けを根本的に変更した。
1950年に、社会保障制度審議会が発表した「50年勧告」以来、国民の生存権保障の責任は国家にあるとされてきたが、安倍内閣では、自助、共助、公助と順序がつけられた。そして、公的医療保険や公的年金は「共助」、つまり助け合いであるとされた。これでは、公的医療保険や公的年金が、民間の医療保険や個人年金と変わらないものになってしまう。
そもそも政府は、国の社会保障の範囲を縮小するとしており、これではいくら消費税増税で得た財源を社会保障に回すと宣伝しても、全く信用できない。
患者や国民に重くのしかかる負担増
70歳から74歳の医療費窓口負担が倍に増やされ、医療・介護総合法では、難病対策として対象となる疾患の範囲を拡大する一方で、窓口負担については無料を廃止し、所得に応じ自己負担することに改悪された。
そもそも、公的医療保険で「現役3割負担」は世界的にみても異常に高く、G7の中で患者窓口負担が実質的に無料でない国は、日本とアメリカだけである。
保険証を持っていても、窓口負担が払えず、病気が悪化するまで医療機関を受診できずに死亡に至るケースさえある。今求められているのは、窓口負担をさらに高くすることではなく、他の先進国並みに軽減することである。
病院や介護施設へ入れない
また、診療報酬改定をはじめ、医療や介護の給付も削減された。
診療報酬改定では、「病院から在宅へ」の流れを進めるため、「7対1」の急性期病床を減らすために、要件を厳格化した。これは医療費抑制のために、なるべく早く病院から患者を退院させ、少しでも点数の高い治療を受けさせないためである。
介護分野でも特別養護老人ホームの利用を「要介護3」以上の人しか利用できないように制度改悪を行った。また、150万人いる「要支援者」への予防給付を介護保険の給付対象外とし、市町村事業にすることも決められた。市町村は住民のボランティア活動などを利用して必要なケアを行うとされている。
これでは、病院にもいられない、施設にも入れない、在宅ケアも十分に受けられないという人が大量に発生する。
「医療で経済成長」の罠
安倍政権の医療改悪はこれだけではない。アベノミクス第3の矢として、規制緩和を行うとしている。
混合診療に道を開く「患者申出療養」制度を創設することが決まった。この制度は患者からの申し出を受けて、臨床研究中核病院などで混合診療を解禁するものである。臨床研究中核病院で行われた混合診療は、全国に100程度ある特定機能病院でも行うことができるとされている。厚労省は、保険収載をめざすとしているが、その保障は明らかでなく、混合診療解禁への一里塚となる危険性が高い。
現に、成長戦略の一環として「国家戦略特区」では、大阪大学医学部附属病院や独立行政法人国立循環器病研究センター、京都大学医学部附属病院で、海外で承認を受けている医薬品や医療技術を全て対象とする混合診療を認めるとしている。
国内未承認薬には、月300万円を超えるものも多く、いくら入院費や検査費が保険収載されても、一般の国民がその恩恵に預かることは難しい。
むしろ一部の富裕層のために、低所得層も拠出する保険財政が使われることになるのは、不公平である。また、混合診療が全面解禁されれば、安全性や有効性のない薬品や治療技術が使われることにもなりかねず、国民の命と健康を危険にさらすことなる。
医療費抑制のための地域医療ビジョン
これまで見てきた患者負担増や国民負担増、給付削減は、これで終わりではない。現在、政府内部ではさらなる患者負担、国民負担増が計画されている(下表)。
医療・介護総合法では、都道府県に各医療機関から病床機能などを報告させ、それをもとに地域医療ビジョンを策定させることが盛り込まれた。
また、地域医療ビジョン実現のため、都道府県知事が、民間病院を含む各医療機関に、医療機能の転換、新規開設・増床の中止、稼動していない病床の削減などを要求できるようにし、従わない場合には、名前の公表はもちろん、補助金・公的融資の対象からの除外等まで行える権限を持たせている。
さらに現在、政府内では、地域医療ビジョンとリンクした医療費の水準や医療提供体制の目標設定がもくろまれている。
経済財政諮問会議では、フランスの医療費支出目標制度などを踏まえ、都道府県ごとに医療費支出目標を設定し、医療費を削減することが議論されている。
こんな計画が実行に移されれば、患者にとって必要な医療を受けられない事態を招くことになる。「必要な医療が公的保険で受けられる」国民皆保険制度を守り充実させることこそ、今求められている。
さらなる消費税増税
消費税10%引き上げについて安倍首相は「2017年4月には、景気判断条項を付すことなく、確実に実施いたします」と述べ、一度は延期した消費税増税を確実に行うとしている。また、自民党は選挙公約で「消費税財源は、その全てを確実に社会保障に使い、2017年4月までの間も、着実に子ども・子育て支援、医療、介護等の充実を図ります」とのべている。
しかし、これまで見てきたように、消費税増税で社会保障は充実するどころか、むしろ切り捨てられてきた。そして今度の消費税増税も、もちろん社会保障の充実などに使われないことは明白である。
なぜなら、政府は消費税増税を行う一方で、現在35.64%の法人実効税率を20%台まで引き下げるとしている。政府はその分の財源を租税特別措置などで手当するとしているが、財界からは反対の声が挙がっており、実際にはこれまでのように消費税増税で得られた財源が使われることになる(図)。
自民党や公明党、民主党も一緒になって進める「消費税増税で社会保障の充実」=「社会保障・税一体改革」のゴマカシにだまされず、今回の総選挙を、真の社会保障充実に向けた政治の実現のきっかけとすべきである。