政策宣伝広報委員会だより
政策解説 「第20回医療経済実態調査」を読み解く 診療報酬プラス改定と損税解消を 協会政策部
2015.11.25
厚生労働省は11月4日、「第20回医療経済実態調査」の結果を中央社会保険医療協議会に報告した。医療経済実態調査は診療報酬改定の前年に行われ、次期診療報酬改定の基礎資料とされる。マスコミ各紙は「薬局や診療所の利益率高く(11月4日付日経)」「診療所は利益安定(10月30日付朝日)」などとしているが−−。協会政策部では、調査方法の問題点や結果から見える医療機関経営の実態について検証を行った。
改定資料としての信頼性に疑問
医療経済実態調査については、長らく協会・保団連をはじめ日本医師会など多くの医療関係団体は、その調査方法について批判し、改善を求めてきた。
その結果、2009年の第17回調査ではそれまでの単月データに年間決算データが加わり、11年の第18回調査では対象医療機関の抽出率が引き上げられるなど、改善が図られてきた。
今回の調査では、各医療機関の2014年4月の診療報酬改定の前後の決算データを比較するものとなっている。しかし、厚生労働省が「この調査における損益状況、給与費は平成27年(2015年)3月末までに終了する直近の2事業年度の数値である」としているように、診療報酬改定をまたいだ会計期間を採用している医療機関のデータも多数含まれている(図1)。新たな診療報酬体系のもとで行った会計期間が1カ月しかない医療機関のデータも改定後のデータとして扱われてしまうのである。
実際に、今回の調査で、2014年改定後の診療報酬体系下の1年間の決算データを提出した医療機関の割合は、25%程度である。一方、新たな診療報酬体系下における決算期間が半年に満たない医療機関数は約6割に上っている。これでは、現在の診療報酬体系下での医療機関の経営状況を的確に把握することはできない。
また、厚生労働省が医療保険行政のための基礎資料を得ることを目的として行っている医療費の動向調査「MEDIAS(メディアス)」と医療経済実態調査の結果を比較してみると、メディアスでは2013年度の医科診療所1施設当たり医療費の分布統計(入院含む・公表は入院含めた結果のみ)では、中央値が7417万円、最頻値は5000万円となっているのに対し、医療経済実態調査の医科一般診療所(全体・入院収益なし)の保険診療収益は1億573.8万円と大きく乖離している。
同様に歯科診療所でも、1施設当たり医療費がメディアスの中央値は3241万円、最頻値は2400万円となっているが、医療経済実態調査では、4113万円となっている。
こうした点からも医療経済実態調査の調査方法、公表データのさらなる改善が必要といえる。
医科診療所、病院で損益差額減少
今回の医療経済実態調査では、医科(個人・入院収益なし)・歯科診療所(個人)、病院(医療法人)ともに、2013年度と2014年度を比べると、医業収益はそれぞれ、0.15%、0.41%、0.20%とわずかだが増加している。しかし、医業・介護費用もそれぞれ0.74%、0.39%、2.33%増となっている。結果、歯科診療所(個人)では、損益差額が0.7%とわずかだが増加したものの、医科診療所(個人・入院収益なし)、病院(医療法人)の損益差額は、1.15%、5.27%も悪化しており、損益差額が減少している(図2〜4)。
医業・介護費用が増えた理由として、病院など大きな医療機関ほど損益差額の減少率が高いことから、2014年4月の消費税増税の影響が挙げられる。
厚生労働省は消費税増税分を診療報酬で補填したとしているが、実際には損益差額が減少しており、医療機関の経営を圧迫していることが伺える。
マスコミ報道の不正確さ
マスコミ各紙はこの調査結果を受け、「一般診療所の院長(主に開業医)の年収は約2914万円...(11月4日付毎日新聞)」、「診療所では院長の年収も2914万円と高止まりしている。医療サービスの公定価格となる診療報酬の16年度改定に影響しそうだ(11月4日付日経新聞)」と開業医の年収が高いとして、診療報酬引き下げの必要性を暗に説いている。しかし、この2914万円という数字は、医療法人立の診療所のみを取り出したもので、法人化していない個人の診療所は含まれていない。法人立診療所は全体の4割で、6割が個人立診療所である。
一般的に個人が開設した医療機関を医療法人にする場合、煩雑な設立手続きに加え、決算期ごとに登記や保健所への書類提出が必要になり、従業員を全て社会保険に加入させる必要もあることから、医療法人立の診療所は必然的にかなり規模の大きな診療所となる。
そうした診療所の院長の報酬のみを取り出して、一般的な開業医が著しく高所得を得ていると描くのは正確ではない。
診療報酬のプラス改定を
以上見てきたように、前回の診療報酬改定の本体部分の改定率は、消費税増税対応分を含めてプラス0.73%とされたが、実際には消費税増税による損税拡大を補填できておらず、各医療機関の損益差額は減少している。これでは、高齢化の進展に伴う医療ニーズの拡大、多様化に各医療機関が対応するのは困難になるばかりである。
日本は他の先進国に比べ、高齢化率に対する医療費は低い。成熟した先進国にふさわしい医療提供体制を整備するためにも、診療報酬のプラス改定は必須である。