政策宣伝広報委員会だより
政策解説 協会歯科部会 地域医療に分断と混乱もたらす「か強診」
2016.09.15
2016年度歯科診療報酬改定で「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」(以下「か強診」)が新設された。政府によれば「か強診」の目的は、「地域包括ケアシステムにおける地域完結型医療を推進していくため、う蝕や歯周疾患の重症化予防に係る管理、摂食機能障害および歯科疾患に対する包括的で継続的な管理を評価するため」であるとしている。しかし、届け出要件の厳しさや、歯科医師の役割の適切な評価への疑問など、会員からは不満の声が寄せられている。「か強診」の問題点を解説する。
問題点(1) 不合理な施設基準
「か強診」は、歯科訪問診療やSPT(歯周病安定期治療)の算定実績、歯科用吸引装置(口腔外バキューム)・AED等の設置、歯科衛生士の雇用などの施設基準を満たすことが届け出の要件とされている(表1)。
しかし、これらの要件を満たすのは、長年の低診療報酬の中で厳しい経営を強いられてきた多くの歯科医療機関にとって容易なものではない。その内容も歯科用吸引装置の設置に代表されるように、「かかりつけ歯科医の機能評価」との関連性や合理性に疑問符がつくものや、訪問診療が要件となっているため、外来診療のみで事実上「かかりつけ医」としての機能を果たしている歯科医療機関が除外されるなど、極めて不条理なものとなっている。これは歯科医療機関の「差別・選別・淘汰」につながりかねないものであり、容認できない。
現にこうした実情を反映し、「か強診」を届け出た医療機関が算定できる新設点数は、比較的高く設定されているにもかかわらず、2016年9月1日現在の届け出は、全国の歯科医療機関の5.66%、兵庫県でも8.67%にとどまっている。
そもそも、患者のほとんどに「かかりつけ歯科医」がいることは、中医協で提出された資料でも明らかである(図1)。そうした歯科医師が実際に地域で果たしている役割にふさわしい診療報酬設定こそ求められている。多くの歯科医療機関の実態にそぐわない施設基準要件は撤廃し、全ての歯科医療機関が新設点数を算定できるようすべきである。
問題点(2) 歯科医療機関の差別化招く
こうした厳しい施設基準をクリアして「か強診」を届け出た歯科医療機関は、「歯周病安定期治療Ⅱ(SPTⅡ)」「エナメル質初期う蝕管理加算」「在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料」の加算の三つの新設点数を算定することができる(表2・3)。政府はこれらの新設点数で、幼少期から老年期までの各ライフステージで歯科医師が関与し、未病状態の患者を長期管理し、重症化予防、口腔機能の維持向上をはかるとしている。
しかし、これらの治療自体は「か強診」以外の医療機関でも行っている内容であり、「か強診」を届け出た歯科医療機関と、届け出たくてもできなかった医療機関の間で差別化がおこることは、極めて不条理である。同じ診療内容で保険点数が異なれば、歯科医療機関間の差別化を招くとともに、患者への合理的説明も困難になり、歯科医療の現場に新たな混乱を持ち込むことにもつながるものである。
問題点(3) 地域包括ケアシステムの狙いは医療費抑制
厚生労働省は今回の「か強診」導入の狙いについて、「地域包括ケアにおける、かかりつけ歯科の役割」を強調している。当然、地域の患者のニーズに応えるため、医科歯科連携をはじめ多職種との連携を進めることは、地域医療の重要な課題である。
しかし、政府が進めている「地域包括ケア」の実態は、入院から在宅へ、医療から介護へ、施設介護から在宅介護へと、患者や利用者を誘導し、一層の医療費削減を行うことであることが、さまざまな形で告発されている。
こうした状況の下で、今回「か強診」を届け出た10%弱の医療機関とそれ以外の医療機関に分断されたことにより、地域でどのような影響が生まれるのか大いに危惧を抱かざるを得ない。
問題点(4) 基礎的技術料の引き上げこそ重要
今次改定では、歯科の改定率はプラス0.61%と公表されている。しかしその内容は、上記のように届け出が極めて制限される「か強診」の新設や、頻度の低い治療の点数の引き上げ、多数の歯科医療機関が算定できない項目の新設など、「限定的」「差別的」特徴を持っている。つまり、目玉となる一部の点数のみを、厳しい施設基準を定めて引き上げ、多くの医療機関にとって実質マイナス改定だというのが、会員の実感である。
このような路線を改め、初・再診料を医科並みの点数にし、基礎的技術料や補綴関連の技術料を大幅に引き上げることで、歯科医療機関全体の底上げをはかるべきである。このことは協会実施の会員意見実態調査の結果からも強く要望されている(図2)。
「か強診」の施設基準要件を撤廃するよう診療報酬の改善と不合理是正を国に求めるとともに、これ以上の患者負担増に反対し、窓口負担を引き下げ、低医療費政策を転換し歯科医療費の総枠拡大を求める「保険でより良い歯科医療」運動がますます重要である。
図1 かかりつけ歯科医の有無
表2 歯周病安定期治療(Ⅰ)と(Ⅱ)の比較表
表3 エナメル質初期う蝕の管理の比較表
図2 今後、歯科診療報酬のどういう点を改善してほしいですか(複数回答可)