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政策 解説 協会政策部 高すぎる日本の薬価引き下げを

2016.10.05

 この間、オプジーボに代表されるように画期的な高額新医薬品が次々と上市、保険収載されている。これに対し、日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫医師など、多くの研究者や医療者の間で、薬剤費の急騰による国民皆保険制度の財政破たんの危険性とその回避策が議論されている。これら議論に共通しているのは、新医薬品の薬価は高くて当然という前提である。しかし、協会・保団連はこれまでも、日本の薬価は諸外国と比べて高く、その引き下げこそが必要と訴えてきた。「医療費亡国論」ならぬ「オプジーボ亡国論」を機に、日本の高薬価問題について再度、確認してみたい。
 

オプジーボの薬価イギリスの5倍

 そもそも日本の薬価は全体として高い。保団連が2011年に行った調査で、様々な薬効の医薬品の平均価格がドイツ、フランス、イギリスより高いことが明らかになっている(図1)。
 また、日本のオプジーボの薬価は、アメリカの約2.5倍、イギリスの約5倍である(図2)。さらに薬剤費の対GDP比をみると、日本はアメリカ、フランス、ドイツなどの国よりも高くなっている(図3)。こうしたことから、日本でもこれらの国並みに薬価を引き下げることが必要であるし、可能である。

高すぎる利益構造の製薬企業

 製薬企業は、医薬品開発には長い期間と数百億円から数千億円に上る研究費がかかるとして、その回収を理由に、新薬は高薬価で収載すべきだとしている。
 しかし、製薬企業の医薬品開発は、国の予算で運営される国立大学法人などの研究から将来性のあるものを選び、共同研究を行って実用化するという手法もとられている。この場合、当初の基礎的な研究開発は税金を使って行われていることになる。
 さらに、この間、研究開発減税が拡大され、2014年度には中外製薬の59億円をトップにアステラス製薬51億円、塩野義製薬47億円、田辺三菱製薬42億円と各社とも多額の減税を受けている。
 高い薬価に加え、こうした優遇政策により、製薬企業の税引後損益率は大手22社の平均で毎年10%前後と、大手製造業の平均である4%を大きく超えている。税金で基礎的な研究を援助され、多額の研究開発減税を受けている製薬企業を、さらに高薬価で優遇するのは、国民の理解を得られない。

不透明な薬価算定

 医薬品の承認から保険収載までのプロセスは図4の通りである。
 製薬企業は新医薬品の保険収載のために、厚労省医政局経済課からヒアリングと指導を受け薬価算定にかかわる資料を作成し、同省保険局医療課に提出し、同課が算定原案を作成する。その後、原案をもとに薬価算定組織で検討し、算定案を製薬企業に通知する。算定薬価に不服がある場合は製薬企業が意見書を提出して、再び算定組織で検討を行うとされている。この組織で算定案が決まると、中医協総会で了承され薬価基準に収載される。
 しかし、この間の厚労省の各課と製薬企業のやり取りはもちろん、薬価算定組織も議事が公開されていないだけでなく議事録もないといわれている。
 新医薬品の薬価算定方式は、大きく3種類がある。このうちオプジーボなど「画期的」といわれる新医薬品は、類似薬のないものとして「原価計算方式」で計算される。
 この方式は製薬企業が申請した有効成分、添加剤、容器・箱などの原材料費を元に様々な係数を乗じて、原材料費、労務費等を算出し合計したものを算定薬価としているが、そもそも原材料費は製薬企業の申請に基づくものであるため、利益拡大を求める製薬企業としては、当然高くする傾向にあると想像できる。
 また、営業利益部分は、現在の製薬業界の高い利益率をそのままあてはめるため、薬価が高止まりする仕組みになっている。
 さらに営業利益率は「既存治療と比較した場合の革新性や有効性、安全性の程度に応じて、営業利益率(現在16.9%)をマイナス50%〜プラス100%の範囲内でメリハリをつける」とされており、画期的であると判断されれば、さらに高く算定される。実際、オプジーボはこの部分が+60%とされ、営業利益率は27%とされた。
 いずれの算定方法も根拠が明らかでなく、一刻も早く検証可能な制度にすべきである。

政府が狙う薬剤費削減策

 この間、政府は財政赤字などを理由に、医療費をはじめとする社会保障費の抑制策を強めている。
 内閣府がまとめた「平成26年度年次経済財政報告−よみがえる日本経済、広がる可能性−」は、薬剤費について「...我が国の伸び率は他国と比較して最も高い伸びの傾向を示している。...薬剤料を抑制し、調剤医療費の伸び率を抑える...」としている。
 一見、薬剤費の抑制が方針のように見えるが、厚労省が行おうとしているのは、市販品類似薬の保険外しや「参照価格制度」である。前者は、湿布薬やうがい薬、漢方薬など、処方箋なしで購入できる医薬品を保険から外して、全額自己負担にするというもので、後者は後発医薬品の普及を進めるために保険のきく範囲を後発医薬品価格に合わせ、先発医薬品を処方する場合にはその差額を患者の負担に上乗せするというものである。
 つまり政府の薬剤費引き下げの方向は、支出を公的保険財政から患者負担にシフトさせるもので、高額医薬品の薬価を引き下げるものではない。

背景にある日米製薬業界の圧力

 政府が、高額化する薬剤費を問題としながらも、患者に負担を押し付けるだけで、薬価自体の引き下げには慎重な姿勢を崩さないのは、製薬業界の意向によるところが大きい。
 製薬企業で構成する日本製薬工業協会は「製薬協 産業ビジョン2025」で「先進的な医療で提供される医薬品等の価値に見合った評価」として、「先進的な医療において提供される医薬品...に関して、迅速かつ確実に給付が行われ、価値に見合った高い評価がなされる仕組みを研究・検討する」としており、先進的な医薬品を高薬価でいち早く保険収載する仕組みを求めている。
 また、アメリカも自国の製薬企業の意向を受け、年次改革要望書などで日本政府に対し、「米国製薬業界の代表を中医協の薬価専門部会の委員に選任する」ことや新医薬品創出加算の恒久化などを要求してきた。政府が今国会で批准を狙うTPPでも、公開された文書では「(日米)両国は、...国の保険制度の実施における透明性及び手続の公正さの重要性も確認」し、「...両国政府は...(将来の保険制度(等))について協議する...」としている。これも、アメリカの製薬企業が開発した新医薬品をより高い薬価で保険収載させるための取り決めである。

薬価引き下げ分の技術料引き上げは当然

 2014年の診療報酬改定では、それまで行われてきた薬価引き下げ分を技術料本体部分の引き上げの財源にするという慣例が破られた。
 この慣例は、1972年の中医協建議で「診療報酬体系の適正化との関連において、当分の間は薬価基準の引下げによって生じる余裕を技術料を中心に上積みすることとしたいと考えている」と初めて提案されたもので、厚生(労働)大臣や首相も公式にそれを尊重し、踏襲されてきた。
 つまり、診療報酬改定の際、薬価差を「適正化」するが、技術料を引き上げる必要があるので、少なくとも薬価切り下げ分の財源は技術料の引き上げに使うということである。
 このように薬価・材料の引き下げ財源の診療報酬本体への振り替えは、歴史的な議論の積み重ねの結果認められてきたものである。
 様々な優遇を受けて、他の製造業と比べて非常に高い利益率を誇る大手製薬企業の意向を優先するのではなく、国民の受ける医療の質を決める診療報酬本体部分こそ、引き上げが望まれる。

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