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第91回評議員会特別講演(5/21)「進む軍産複合体」プレインタビュー 医療者も取り込む軍学共同

2017.04.25

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東京新聞編集局社会部 望月衣塑子氏 
【もちづき いそこ】1975年生。慶應義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の報道を、09年には足利事件の再審開始決定をスクープ。現在は社会部遊軍記者。二児の母。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書、2016年)など

 防衛省が大学などの研究機関を対象にした研究費制度の拡充を進め、日本学術会議での議論がメディアを賑わせている。来月5月21日の評議員会特別講演では、東京新聞記者として防衛省の武器輸出政策や軍学共同などを取材している、望月衣塑子氏にお話いただく。講演に先立って、軍学共同を取材したきっかけ、学術会議で行われている議論などについて、足立了平理事(神戸常盤大学短期大学部教授)が話を聞いた。

事件記者にこだわって
 足立 望月さんは、これまでは事件記者として活躍してこられ、日本歯科医師連盟のヤミ献金事件もスクープされていますね。
 望月 もともと記者になったのは、福祉や山谷労働者などを取り上げたかったからなのですが、駆け出しで千葉県警を担当していた時、井上裕参院議員公設秘書の汚職事件を取材して以来、事件取材の面白さにとりつかれました。最初はそっけなかった刑事さんが顔を合わせているうちに徐々にネタを教えてくれるようになるんです。日歯連のことも、そうやって取材する中で情報を得たものです。  振り返ると足りない部分もありましたが、朝から夜まで走り回って情報を集め、検察や警察が事件化できないもの、しないものをできるだけ記事にすることにこだわっていました。
 足立 森友学園の問題が世間をにぎわせていますが、この取材班にも入られていたとか。
 望月 今は担当を外れていますが、籠池理事長の家族らへのインタビューを菅野完さんと共に行わせていただきました。
 建設工事の請求書が3通あるなど、不正の証拠ははっきりしているので、大阪地検特捜部は入り口事件としては、まず籠池氏を立件すると思いますが、特捜部が本来狙うべきは、政治家や官僚らの不正です。しかし検察幹部は「マスコミが期待する大物にはいかないだろうが、小物くらいにはいかないとな」などと話し、事件着手の前からすでに及び腰な様子です。 
 問題の本質は、あくまでも政府が国有地をなぜ、8億円も安くしたのかなのですから、そのカラクリをはっきり解明しない限り、国民の納得は得られないでしょう。
 足立 仰るように、政治家の関与が一番の問題点だと思いますから、うやむやにせず、メディアには切り込んでいってほしいです。日本のメディアは、首相と会食を行い、まっとうな批判ができなくなっているように感じますが、独立を保った報道をしてほしいものです。東京新聞は、そういう点でもしっかりされていますので、ぜひがんばって追及していただきたいと思います。
国のあり方変える武器輸出解禁
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聞き手 足立了平理事

 足立 そんな望月さんがなぜ、軍学共同というテーマに?
 望月 1子目の妊娠・出産を経て2011年、経産省担当になり、原発問題などを取材しましたが、乳飲み子を抱え、早朝や深夜に取材できなくなり、どうすればいいのかと悶々としました。2人目の出産後、復帰したのが、武器輸出解禁の閣議決定が行われた14年で、当時経済部部長だった富田光さんから「政権の目玉となる政策だが、各社このテーマは深追いしてない。お前のペースで深めて記事にしたら」とアドバイスいただきました。
 足立 取材されていかがでしたか。
 望月 武器輸出に制限を課す武器輸出三原則は日本が戦後ずっと守ってきたものです。それを閣議決定という形で簡単に転換してしまうということに、まず驚きました。政府や企業関係者、研究者や大学関係者など、さまざまな方に話を聞きましたが、取材を重ねれば重ねるほど、国のあり方が大きく変わろうとしているという認識を持つようになりました。
 足立 著書で、欧米諸国と日本では、武器輸出に対する考えが違うと書かれていたのが印象的でした。
 望月 欧米諸国では、国益のためにもビジネスのためにも、武器輸出で成功しなければという意識が染み付いており、そのためなら何でもやります。例えばロッキード・マーチンの女性CEOマリリン・ヒューソン氏は、イランの核合意を受け「中東の紛争が解決すると利益が出せなくなるのでは」と聞かれ、「安心してください。まだまだ世界に火種は沢山ある」と発言しています。戦後70年、「戦争放棄」の意識が国民に浸透している日本の企業が、こんな風になれるのでしょうか。中東など紛争地帯の人に聞くと、日本は憲法9条をもち、その精神を貫いている国だという良いイメージを持っていますが、武器輸出はこれを大きく変えてしまいます。それで本当にいいのかが大きく問われていると思います。
「デュアル・ユース」論で軍事研究予算18倍に
 足立 そこに、学者や研究者も巻き込まれようとしていると。
 望月 はい。科学技術は軍事と民生には分けられないという「デュアル・ユース」論を旗印にして、防衛省は大学や研究機関の科学技術を防衛装備品に活用することを目的に「安全保障技術研究推進制度」を始めました。初年度は3億円、昨年度は6億円だった予算が、今年度は110億円へと18倍に膨らんでいます。
 足立 日本学術会議がこの問題をめぐり、声明を出しましたね。大西隆会長は、自衛のための研究は認められるという趣旨の発言をしていますが、検討委員会(杉田敦委員長)で審議された結果、軍事目的の研究を行わないとする、50年と67年の声明を継承するという内容の声明を決定しました。ただ、今までの声明に書かれていた「戦争に加担しない」という言葉がはっきり書かれていませんし、「安全保障技術研究推進制度」への参加の是非についても、各大学で判断することとされています。
 望月 学術会議の議論は、ずっと取材していますが、軍事研究に反対する杉田委員長らが議論をリードし、大西会長ら軍事研究容認派がいる中で、何とか軍学共同の流れに歯止めをかけようという落としどころを模索し、できた声明なのだと感じます。
 足立 なるほど。この問題はわれわれ医師・歯科医師にも無関係ではないと思います。
 望月 そう思います。先端医療振興財団臨床研究情報センター長の福島雅典先生が、学術会議のシンポジウムで発言されていました。医療技術であるロボットスーツHALや胎児の心電図を読み取れる技術は、軍事のために開発されたものではありませんが、軍事利用できる。医師たるものはそうはさせないという確たる決意が必要で、核戦争による人類絶滅の危険性と戦争以外の手段による紛争解決を訴えた「ラッセル・アインシュタイン宣言」を思い出すべきだと。
 足立 デュアル・ユースをどう見るのか、われわれは何をすべきか。望月さんの講演を、たくさんの会員の先生方に聞いていただき、ともに考える機会としたいと思っています。ぜひ、5月21日には、評議員会へお越しください。
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