政策宣伝広報委員会だより
総選挙特集・政策解説 協会政策部 ウソにウソを重ねる「全世代型社会保障」 消費税10%増税を合理化
2017.10.15
10月22日投開票で行われる総選挙。安倍首相は、自民党の総選挙公約の柱の一つに、「全世代型社会保障」を掲げ、消費税の使途を変更し、教育の無償化などを実現するとした。この「全世代型社会保障」の問題点について解説する。
「消費税は社会保障に」のウソ
自民党の掲げる「全世代型社会保障」の内容は、「低所得者の保育・教育の無償化」などのために「消費税の使途を変更して2兆円規模の財源を確保する」というものである。
「保育・教育の無償化」は政治の課題であるとしても、消費税を財源にするというのは、ウソの上塗りである。
消費税を何に使うかは、消費税法第1条2項で「年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と定められている。
ところが今回、安倍首相は「増税分の8割は借金の返済に使われて」いるから、「使途を変更」して社会保障に回すと発言し、それを自民党の公約にした。「消費税はすべて社会保障に使われている」という消費税法の建前は、実は使われておらずウソであることを首相自身が認めたのである。
もっとも財務省は当初から消費税を国債償還にあてることをもくろみ、そのための筋立てとして、「国債は社会保障のために発行しているのだから、国債償還にあてることは、社会保障に使うことだ」と説明してきた。
しかし、国債は社会保障のためだけに発行しているわけではない。国債発行の理由は、歳出よりも歳入が不足するためであり、国債発行の責任を問うのであれば、歳入が不足するのはなぜか、歳出に無駄はないのかが問われなければならない。歳出の一項目にすぎない社会保障だけを取り出して、国債発行の責任を押し付けるのは、国債発行の真の原因である歳入不足を覆い隠すものである。
安倍首相は突然、消費税のウソに気がついたように「使途の変更」を言い出したが、狙いは、使い古した「消費税は社会保障のために」のフレーズをもう一度使って、国民をだまそうということだ。「使途変更」はウソの上にウソを塗り重ねる第2のウソである。
法人税減税穴埋めと国債償還費に使用
消費税のカラクリを確認しておこう。問題は二つある。
第1は、歳入のカラクリである。歳入の主要税目は、所得税、法人税、消費税の三つ。消費税が導入されて以降、消費税収は増える一方だが、実は主要3税の合計は増えていない。
消費税収は1990年の5兆円から、2015年の17兆円へ、25年間で12兆円増えた(図1)。ところが同期間に主要3税の合計は50兆円から45兆円へと5兆円減少しているのである。
安倍首相はGDPの増加をアベノミクスの成果と誇っているのに、その経済力を反映するはずの政府税収はなぜ縮小しているのか。
縮小の原因は法人税と所得税収の減少である。法人税は7兆円の減少で、対GDP比では、4%から2%へと実に半減している(図2)。所得税も10兆円減少している。法人税・所得税収が下がる一方で、消費税収だけが増えたため、消費税は法人税・所得税2税の減収分を穴埋めすることとなった。
仮に法人税・所得税が、90年の水準を維持していれば、消費税の増税分は膨らむ社会保障の財源に回せたかもしれない。
特に、世界第3位のGDPの経済素力があり、企業の内部留保金は400兆円を超えているなど、企業の担税力が上昇していることは明らかであるにもかかわらず、法人税が減収しつづけていることは、あまりにも異常と言わざるを得ない。この原因は、法人税率の引き下げと研究開発減税を拡大するなどの優遇措置である。つまり、政府の責任なのである。
第2は、歳出のカラクリである。消費税は社会保障費にあてると法律で定められているのであるから、少なくとも増税分約6兆円は社会保障費にあてるべきということになるが、実際の社会保障費はほとんど増えていない。
消費税は、安倍首相が認めたように歳出において、国債の償還費にあてられているのである。これではいくら消費税が増えても社会保障費が増えるはずがない。
財務省は、消費税を国債の償還費に回すことは社会保障のために使うことだと強弁している。しかし、国債が社会保障のために発行されたという前提自体が成り立たない。
国の一般会計における「社会保障関係費」は、およそ30兆円で、社会保障給付費の3割を占める。「社会保障費の国際比較」(図3)によれば、日本の社会保障費の対GDP比は22%。社会保障制度のないアメリカよりは高いものの、フランス32.1%、スウェーデン29.8%、ドイツ27.8%など、ヨーロッパ諸国と比較すれば最低水準である。つまり日本の社会保障支出は経済力との対比では、まだ引き上げる余裕があり、国債と社会保障支出は無関係なのである。
新自由主義と称して小泉構造改革以降「小さな政府」をめざし、法人税を引き下げてきたことが国債発行問題の本質である。この本質を覆い隠して社会保障に責任を転嫁するところに、第2のカラクリがある。
国民を分断する「全世代型社会保障」
自民党が打ち出した「全世代型社会保障」のネーミングには、高齢世代と現役世代を対立させるという意味が込められている。自民党は、社会保障が高齢者に「手厚い」などとしているが、もともと社会保障は老齢や疾病、介護に対応するものであり、高齢期により必要になること自体は当然のことである。
しかも、高齢世代の社会保障は充実しているかのようなイメージをふりまいているが、実態は決して手厚くない。
医療の窓口負担割合は確かに現役世代より低い。しかし、多くの現役世代の受診回数は年に数回程度であるのに対して、高齢者は毎月、しかも複数科を受診する。高齢者の窓口負担は、実質的には現役よりも何倍も重いのである。
年金支給も低額である。わずか月額6万円程度の老齢基礎年金では基礎的な生活費がまかなえるはずがない。生活できるかどうかは、厚生年金等、「自助」である2階部分の年金によっている。
自民党の社会保障施策の何よりの問題点は、社会保障の基本は「自助」であるとして、国民が自己責任で直接に負うべきものと位置づけていることである。国民がどうしても負担できない場合に限り、やむをえず国庫負担を支出するというのが、安倍政権の社会保障財源に対する考え方なのである。
これが安倍政権のかかげる「社会保障は自助・共助・公助」の実態である。だが、これは憲法25条に規定された国の義務に反している。
社会保障充実は所得再分配で
日本の教育費が先進国の中でも異常に高いことはよく知られている。また、保育園の待機児童問題に関わって、「保育所おちた、日本死ね」と書かれたブログが、若い親たちの共感を呼んだことは記憶に新しい。
だが、国民の権利としての教育を、高収入の親を持つ者だけの特権に変質させてきたのは自民党自身である。なぜ、「保育・教育の無償化」のための財源を消費税に特定するのか。そこには、新たな国民負担を課そうという狙いが込められている。
仮に自民党の説明通り、消費税増税分を「財源」に、教育の一部無償化を進めた場合、財源は今後も消費税に依存することになり、法人税や所得税は教育に使われないことになる。
真の社会保障は、富める者、大企業の利潤から、貧困者はもとより老齢者、障害者など社会的困難を抱える人々に所得を再配分することである。安倍自民党とその補完勢力は、社会の富を独占する大企業と超高額所得者の担税力には目をつむり、優遇している。
いつわりの社会保障論と、その財源論は、国民生活をますます苦しめるものとならざるをえない。
この不平等を是正し、社会保障を拡充する真の勢力の拡大が求められている。