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特別インタビュー 神戸こども初期急病センター・センター長 石田明人先生 神戸市の小児救急の砦を守る

2019.08.05

 神戸市では昨年、病院小児科の閉鎖が続き、一時は二次救急輪番が維持できない状況も生まれた。神戸市の小児救急の現状と課題について、神戸こども初期急病センターの石田明人センター長に、森岡芳雄副理事長がインタビューした。

夜間休日対応の診療所が必要
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神戸こども初期急病センター理事長・センター長 石田明人先生

【いしだ あきひと】1952年生まれ。77年金沢大学医学部医学科卒業、姫路赤十字病院、神戸大学病院などの勤務を経て、84年加古川市民病院勤務。2007年同病院院長。10年神戸こども初期急病センター・センター長、17年社会福祉法人芳友理事長兼務

 森岡 本日はよろしくお願いします。まず、センターの受診患者の特徴を教えてください。
 石田 2010年の開設から9年目になりますが、受診患者数は毎年3万人程度です。ほぼ横ばいですが、やや減少傾向ですね。救急車での搬送数は年間300人程度、後送率が毎年約800人、2.8〜3.0%程度です。死亡例は開設以来2例のみで、軽症を診る夜間休日診療所的な役割が強いセンターです。
 森岡 365日、休日夜間の診療をされるということで、経営やスタッフの確保が大変ではないかと思いますが、いかがですか。
 石田 神戸市の指定管理という形ですので、経営的にはそれほど苦労せずに済んでいます。センター設立前、当時の矢田市長に「赤字を気にするならつくらない方がいい」と言ったところ、市長は「2億円で市民が安心して、子育てできる環境になるなら気にする必要はない」と言われたので、まずスタッフの体制を充実させました。
 現在、常勤看護師だけで9人おり、薬剤師や臨床検査技師、診療放射線技師も常時配置しています。昔は医師・看護師に診てもらうだけで患者さんや家族は安心していましたが、今はきちんとした検査が求められます。時代が変わっているのに救急だけ20年前であっていいはずはないのです。医師の確保も、神戸大学のほか、京都や大阪からも先生が来てくださり、今のところ困っていません。
 森岡 しっかりした体制で、小児救急を支えておられるのですね。この間、全国的にこども医療費助成が拡充されるなか、「夜間休日のコンビニ受診が増えているのでは」という声があります。
 石田 私は、当センターはコンビニ受診でいいと思っています。深夜まで働いている人が増え、核家族化が進み、祖父母も仕事をしているというような社会状況で、昼間に子どもを受診させられない家庭が増えています。社会が変わっているのですから、医療機関も変わらなければいけないと思います。子どもに熱が出て不安なら、受診していただけばいい、そのためにこのセンターがあるのですから。それにそもそも、安易な受診というものは、ごく少数です。
 森岡 そうですね。私たちは子どもたちが安心して受診できるよう、引き続き子ども医療費助成の拡大を求めていきたいと思います。
 気になるのは、広い神戸市で夜間休日とも行っている1次救急が1カ所ということです。たとえば西側にもう1カ所あるといいと感じます。
 石田 仰るように、地形的に東西に広く南北は六甲山に遮られているというのが神戸市の大変さですが、西神戸医療センターが17時から24時まで毎日診てくれていますし、日曜休日は、西部休日急病診療所も開いていますので、一次救急に関しては何とか問題ない状態にあると思います(図)。経営面等を考えても、今以上に施設を増設するのは困難でしょう。
 三次の中央市民病院やこども病院も積極的に受けてくれています。率直に言って、小児救急における一次と三次は何とかなっているのではないかと考えています。 
二次救急病院の維持が一番心配
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聞き手 森岡芳雄副理事長

 石田 そんななか、私が一番心配しているのが、今後、二次病院の小児科が維持できるのかということです。
 森岡 実際、昨年は病院小児科の閉鎖が続き、二次救急輪番に空白も生まれました。私たちも小児科の会員にアンケートをとったり、懇談会を開催するなどして声を集め、神戸市との懇談などに取り組んできました。会員の先生からは、こども初期急病センターが、市内の一次救急を全般的に担ってくれて大変助かっているという声を多く聞いています。先生は、この間の状況をどう見ておられますか。
 石田 少子化で子どもが減っている上、予防接種の普及等で感染症も少なくなり入院患者は減少し、病床稼働率が下がり、経営的に病床の維持が大変厳しくなっています。救急も同様で、多くの医師配置が必要など、大変コストがかかります。これらを経営的に支えるのは外来です。しかし、外来患者は減っています。外来患者が少なければ、なかなか体制を維持できません。
 さらに今、病院の外来は紹介状なしに気軽に受診させないというのが国の方針になっています。こども病院や大学等の専門病院と違い、市中病院は、紹介患者だけで外来患者数を確保することは困難で、非常に苦しい状況に置かれています。政府は紹介状がない外来受診に自己負担を課す対象病院を、400床規模からさらに広げるという議論を行っています。これが行われると病院小児科は総崩れになってしまうでしょう。
 森岡 一般病院の小児科の消退を生んでいる問題の根本は、低すぎる小児科の診療報酬だと思います。やはり診療報酬を大幅に引き上げないといけないと思いますが。
 石田 その通りです。その上で、今の制度のもとで二次病院が生き残っていくためには、患者さんを増やさなければなりません。しかし、今は、一次救急は当センターで、三次は中央市民等が診て、二次は広い神戸市内で1カ所の輪番なので、多くの患者は当センターか中央市民病院に行ってしまい、二次病院に行かなくなってしまっています。私はこの体制を変え、休日の昼間は地区別に患者を受け入れるべきと意見しています。市内を東部・西部・北部と分け、各地区の病院がその地区の患者を診て、その後もフォローするという体制を作る。そうすれば、患者が増えます。
家庭の事情に対応する小児病床が必要
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小児医療の充実・向上を願い最後に記念撮影

 森岡 最近、入院の適応が厳しくなっていると感じます。私が経験したケースでは、14歳10カ月の気胸の子ですが、なかなか受け入れ先が見つからず、結局三次病院が受け入れてくれたのですが、入院はせず通院となりました。三次病院は、ベッドを空けておかなければならないので、重症でないとなかなか入院できない印象があります。しかし、無理をして通院で対応するリスクを若い親が負わなければいけないのか疑問です。
 また、政府の年金支給額削減と高齢者雇用制度の導入などで、祖父母も就労していたりして、入院に際しての付き添いや面会が困難な家庭が増えてきており、やはり、身近な生活圏で安心して入院できる小児の病床が必要なのではないでしょうか。地域で子どもを守り、育てていくために、親に教育・指導を行い、保育園や幼稚園、学校などの養育関係者や診療所と連携して活動する中小地域病院に小児科は必要不可欠だと思っています。
 石田 その通りだと思います。昨年春に掖済会病院が小児科を閉鎖し、人口20万超の垂水区に、小児の入院施設がなくなってしまいました。この規模で病院がない町なんてないと、いつも行政に言っています。
 小児科の場合、外来で診られないことはなくても、入院して様子を見ることが必要なこともありますし、入院や救急だけでなく、市中病院は、家庭の事情に合わせ、子育てに関する問題にも生活に密着して対応できます。そういう病院が、地域で維持されることが重要です。
 森岡 夜間・休日の小児の救急体制は先生方のご努力で維持されていますが、小児医療の問題は山積していますね。子どもと家族が安心して過ごせる地域となるよう、声を上げていきたいと思います。本日はありがとうございました。

図 神戸市の小児救急対応医療機関
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