政策宣伝広報委員会だより
政策解説 こども医療費助成で 日経新聞が「恣意的なデータ引用」 協会政策部
2019.09.25
日経新聞(8月12日付)は、国民医療費の動向について報道し、「子供の伸び75歳以上の4倍」「助成広がり受診増」とする解説記事を掲載した。記事は一人当たり医療費の伸び率や受療率をもとに、「病院で受診する子どもが増え、医療費を押し上げた構図が見えてくる」とし、自治体の助成措置が「過剰な受診の要因となることも否定できない」とするなど、こども医療費無料化に否定的なイメージを招くものとなっている。しかしこども医療費は、医療費全体の6%にすぎず、受療率も2011年以降は減少しているのが実態で、日経記事は恣意的なデータ引用と言わざるをえない。こども医療費の国民医療費との比較や受診率データについて検証する。
総額で年齢階級別国民医療費の推移(図2)をみると、少子化で「0~14歳」人口が減少しているため、さらにこども医療費の影響が少ないことが分かる。
国民医療費全体の中で、こども医療費が占める割合は、国民医療費全体が30兆1418億円(2000年)から、42兆1381億円(2016年)へと、16年間に4割増加しているが、同期間にこども医療費総額は2兆806億円から、2兆5220億円へと2割増えたにすぎない。こども医療費が全体に占める割合は(図3)、2000年6.9%から、2016年6.0%へと、逆に減少している。
医療費全体への影響の度合いを年齢階級別にみれば、こども医療費が最も低く、他の年齢階層、特に高齢層の医療費の影響が大きいことは明らかで、こども医療費が全体の医療費を押し上げているとは到底言えない。
3年毎の患者調査であるから、それに近い期間としては、2008年と2017年を比較するのが適切だ。2008年を100とした場合、外来での子どもの受療率は、2017年には111.5で、9年間に約1割増えたにすぎない(図4)。また、その間の推移を見れば、2011年以降は子どもの受療率は、実は減少している。自治体助成が広がっているにもかかわらず、受療率が減少している現実は、子どもの貧困との関係が危惧される。「過剰な受診の要因」どころか、貧困対策抜きには、受療率も上昇しない現実こそ問われなければならない。
日経記事の要旨
日経新聞の記事では「年齢階級別の一人当たり医療費」の(2000-16)データと、同「受療率」の(2002-17)データなどを使って、「一人当たり医療費」では、「75歳以上は9%増だが、45~64歳は16%増、15~44歳は25%増、14歳までの子どもは42%増と75歳以上の4倍の伸びだ」と指摘。次いで、「受療率」が「0~14歳の外来は...29%増、15~34歳は4%増。35~64歳、75歳以上は3~5%のマイナス」と対比し、「病院で受診する子どもが増え、医療費を押し上げている構図が見えてくる」とした。その背景として「子ども向け自己負担の軽減」があるとし、「09年4月時点で通院費を15歳まで助成する市区町村は345だったが、18年4月には1007と3倍に増えた」としたものである。要するに「子どもの一人当たり医療費」増が、医療費を押し上げており、その原因は自治体の助成制度にあると論じているのである。しかし、ここには誤解を与えるすり替えがある。こども医療費の割合は減少6.9%から6.0%に
記事は「年齢階級別一人当たり医療費」の増加率を引用しているが、実は実額では2016年度で、「0~14歳」16万円、「15~44歳」12万円、「45~64歳」28万円、「65歳以上」73万円で、こども医療費は決して高額とは言えず、その傾向は2000年度から2016年度まで一貫している(図1)。記事は「伸び率が高い」としているが、そもそもの絶対額が少ないため、全体に与える影響は非常に少ないのである。総額で年齢階級別国民医療費の推移(図2)をみると、少子化で「0~14歳」人口が減少しているため、さらにこども医療費の影響が少ないことが分かる。
国民医療費全体の中で、こども医療費が占める割合は、国民医療費全体が30兆1418億円(2000年)から、42兆1381億円(2016年)へと、16年間に4割増加しているが、同期間にこども医療費総額は2兆806億円から、2兆5220億円へと2割増えたにすぎない。こども医療費が全体に占める割合は(図3)、2000年6.9%から、2016年6.0%へと、逆に減少している。
医療費全体への影響の度合いを年齢階級別にみれば、こども医療費が最も低く、他の年齢階層、特に高齢層の医療費の影響が大きいことは明らかで、こども医療費が全体の医療費を押し上げているとは到底言えない。
受療率も近年減少
「受療率」は、3年に1回行われる患者調査からのデータで、1984年から2017年まで33年間に12回行われている。記事はその中から、子どもの受療率が最低だった2002年を100として、2017年は29%増としたものである。なぜ2002年を基準としたのかは不明だが、記事では自治体助成との関係で2009年と2018年を対比しているのであるから、受療率についても同期間で比較すべきであろう。3年毎の患者調査であるから、それに近い期間としては、2008年と2017年を比較するのが適切だ。2008年を100とした場合、外来での子どもの受療率は、2017年には111.5で、9年間に約1割増えたにすぎない(図4)。また、その間の推移を見れば、2011年以降は子どもの受療率は、実は減少している。自治体助成が広がっているにもかかわらず、受療率が減少している現実は、子どもの貧困との関係が危惧される。「過剰な受診の要因」どころか、貧困対策抜きには、受療率も上昇しない現実こそ問われなければならない。
こども医療費助成は少子化対策に不可欠
これまで示したように、こども医療費の窓口負担無料化は国民医療費を増加させる原因となっておらず、また2011年以降の受療率が増加していないことからも、無料化による安易な受診が増えたとは言えないのは明らかである。協会は必要かつ十分な医療を提供できるよう、これからもこども医療にとどまらない窓口負担の軽減や、医療提供体制の拡充を求めていく。
図1 年齢階級別一人当たり医療費実額の推移
図2 年齢階級別国民医療費の推移
図3 年齢階級別医療費の構成比「子ども」は6%に減少
図4 2008年を100とした外来受療率の推移
図2 年齢階級別国民医療費の推移
図3 年齢階級別医療費の構成比「子ども」は6%に減少
図4 2008年を100とした外来受療率の推移