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第96回評議員会特別講演 プレインタビュー 応能負担で必要な社会保障を

2019.11.05

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立命館大学産業社会学部
唐鎌 直義特任教授
【からかま なおよし】中央大学大学院経済学研究科博士後期課程満期退学。長野大学、大正大学、専修大学を経て現在立命館大学産業社会学部特任教授。専門は社会保障・国民生活研究。著書に『日本の社会保障、やはりこの道でしょ!』『脱貧困の社会保障』など

 今、日本に必要な社会保障とは--。高齢者や若者の貧困の実態を研究し、社会保障の拡充が必要だと訴えている、立命館大学産業社会学部特任教授の唐鎌直義先生が、11月17日に開かれる協会第96回評議員会特別講演にて、「高齢者の生活実態と社会保障制度の課題」をテーマに講演する(案内は1面に掲載)。講演に先立ち、武村義人副理事長が話を聞いた。
乏しい年金制度と高い医療費負担
 武村 本日はよろしくお願いします。先生には来る第96回評議員会で、「高齢者の生活実態と社会保障制度の課題」と題して講演をお願いしていますが、今年は政府から「老後の生活は年金だけでは2000万円不足する」との報告書が出され、問題となりました。
 唐鎌 政府は、高齢者が増えるため、年金や医療などの社会保障給付を削減し、国民の負担を増やさなければならない、さもなければ国の財政が破綻すると国民に脅しをかけています。しかし、年金や医療は、国民の老後の生活や生命を守るためにかけがえのない制度です。現在の国民年金の給付水準では、生活が成り立たないことを政府は認め、給付を拡充すべきです。
 武村 日本の年金制度は、莫大な額の積立金を有していて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を通じて株式などに投資もしています。これらを給付財源として活用すべきではないでしょうか。
 唐鎌 日本政府の年金積立金は諸外国とも比較して非常に多額です。そういうところも活用した、年金給付水準の引き上げや最低保障年金の創設などをお話しできればと思います。
子育て世帯へ保育の拡充など支援を
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聞き手
武村義人副理事長

 武村 先生は、日本は高齢者だけでなく若い世代の社会保障が貧しいことも指摘しておられますね。
 唐鎌 若い人は医療にかかることは比較的少ないですが、高等教育の学費や奨学金の問題が重くのしかかっています。また、持ち家世帯が極めて少ないため、低額で居住できる住宅の整備も必要です。
 武村 その点では、れいわ新選組が賃料の安い公営住宅の整備などを参議院選挙公約に掲げ、若者から支持を多く獲得しました。兵庫県の明石市では、中学3年生までこども医療費が所得制限なく無料ですし、保育料も2人目から無料としています。その結果、市内に若い子育て世代の人口が増えるなどの成果が出ています。自治体でもお金の使い道を工夫することで、子育てしやすい町をつくることができる例だと思います。こういった施策が重要だと思います。
 唐鎌 加えて保育所の充実も必要です。政府は待機児童をゼロにするとしていますが、保育料の無料化は所得制限つき、保育所も認可保育所ではなく、基準がゆるい無認可の保育所を中心に増やしています。小手先の政策で、安心して子どもを預けて仕事をできるような社会をつくろうという姿勢が見えません。抜本的な少子化対策を検討すべきでしょう。
税制の基本は「応能負担」
 武村 一方で社会保障を拡充させるには、財源の問題が出てくると思います。政府は、この10月には社会保障を拡充するという名目で、消費税を10%へと引き上げましたが、消費税を社会保障財源に充てるという政府の政策についてはいかがお考えですか。
 唐鎌 まず税制の大原則は応能負担であるということを強調したいですね。お金のあるところから取る、ないところの税率は低く抑えるというのが基本です。消費税のそもそもの問題点は、逆進性が高いことです。高所得者は、所得が上がっても増えた分の収入はすべて消費に使うわけではありません。余ったお金は、貯蓄や株式などへの投資に回されます。ですので、応能負担の原則で考えると、税制は所得税を中心とした累進課税を主軸に据えなければなりません。
 武村 北欧などでは消費税の税率はもっと高いので、社会保障拡充には消費税率を引き上げなければならないと政府は宣伝しています。この点はどうお考えですか。
 唐鎌 ヨーロッパではそもそも消費税の仕組みが日本とはかなり違います。消費税頼みというわけではなく、十分な社会保障を提供するために必要な税を、所得税等他の税と組み合わせて集めています。政府の宣伝にだまされてはいけません。
 武村 そもそも政府は、社会保障分野では財源がないと言う一方で、アメリカ製の戦闘機はトランプ大統領に言われるがまま購入しています。社会保障分野に金を使うよう、国民がもっと声をあげなければいけませんね。
 唐鎌 財源については法人への課税についても再考が必要です。企業は景気の先行きが不安との理由で、設備投資に金を使わなくなってきています。実際、この間の政府統計でも、設備投資は伸び悩んでいます。一方で増えているのは企業の内部留保です。やはり儲かっている企業により多くの税を負担していただく制度へ改めるべきでしょう。
世界の流れを見ると展望が開ける
 武村 今までお伺いしてきました税制、社会保障の改悪ですが、それにしてもこれほどの政治をしていても安倍政権は選挙に勝ち続けています。これについてはどう見られていますか。
 唐鎌 今の政治で大きな問題は、小選挙区制度です。マスコミは「安倍1強政治」と宣伝していますが、絶対得票率で見ると、有権者の2割の票すら得られていません。野党共闘で、野党が一致団結して安倍政治に対決することで、選挙で勝利する展望は大いにあると感じています。世界では、反グローバリズムの風潮が高まり、米国のトランプやフランスのルペンなど極右が台頭、イギリスでも反EUの主張が強まりました。その結果、米中間での貿易戦争やBrexit(イギリスのEU離脱)をめぐる混乱が起きています。しかし一方で、緊縮財政に反対し、社会保障拡充を掲げる政党、例えばイギリスのコービン党首率いる労働党などが支持を拡大しています。日本でもれいわ新選組が参議院選挙で議席を獲得したように新しい政治を求める動きが強まりつつあります。こういった点に注目すると政治の展望が開けてくるのではと思います。
 武村 評議員会当日に、高齢者の生活実態や将来の展望に至るまで幅広いお話が聞けることを楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました。
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